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2014年05月09日

開戦前夜1

第六章「開戦前夜」

 月曜日になった。
 放課後、図工室には美術部のメンバーが集まっている。
 前日、最高に盛り上がった戦国まつりの余いんがまだ残っており、ふだんあまり交流のない女子三人と男子三人に共通の話題ができた。
 本物の鉄砲隊を前にして堂々たる演武をやってみせたことで、マンガ部の女子三人が、コーサクたち達人クラブをちょっと見なおしたことも、会話のきっかけになった。
 神原シオネ、花村ナオミ、小島ハルカの女子三人は、お祭のときデジカメで撮っていた写真を、さっそくプリントアウトしてきていた。
 神原シオネの写真はお祭会場の雰囲気を伝えるようなスナップショットが多く、小島ハルカの写真は会場内の珍しいものや変わったものをコレクションしたような感じで、それぞれ性格が出ていた。
 絵の実力ナンバー1の花村ナオミの写真は、完全に資料にするための撮り方だった。鎧兜の細部や、鉄砲を打つ時の姿勢がよくわかるアングルになっており、男子三人も熱心にアルバムに見入った。
 絵が上手い子は資料集めも熱心なのだなと、コーサクは感心した。
 三又先生が「今度美術部みんなで鎧兜を作るか」と提案していたことを、コーサクが一同に紹介すると、もちろん全員大賛成で乗り気になった。
 こんなに一体感があふれた図工室は初めてで、人づきあいにあまり関心のないコーサクも、めずらしく「こういうのも悪くないな」という感想をもっていた。
 だが、そんな「いい感じ」の時間は、長くは続かなかった。
 図工室のめずらしくなごやかな空気を無視するように、「ドカドカ」という感じで乱入してきた一団があったのだ。


 勢いよく開けられた戸が反対側にぶつかって、大きな音を立ててはね返る。
 教室内にいる者に、わざわざ聞かせるための乱暴な戸の開け方だ。
 図工室にいた美術部員六人の視線が、いっせいに入口の方に集中する。
 そこにいたのは、織田ヒロト(タイショー)、米田ノボル(ノボ)、相田キョウイチ(キョウ)の、6年1組ボス三人組だった。先頭に立って、ニヤニヤ笑っている小柄な少年はキョウだ。乱暴に戸を開けたのもこの少年の仕業だろう。
「よう! オタクども! あいかわらず暗く遊んでるか?」
 バカにしたような表情と口調で、声をかけてくる。
「メガネくんよ、見てみろよ、これ!」
 三人が手に持っているのは、昨日お祭会場で売られていた輪ゴム鉄砲だった。
「……それは?」
「きのう二子浦の祭で買ったんだぜ。おまえらのショボい手作り鉄砲とはちがうだろ! なにせ6連発だからな!」
 もちろん知っていた。コーサクも店先で見かけ、試射までさせてもらっているのだ。
 あのね、たしかに6連発でカッコいい鉄砲だけど、と言いかけてから、コーサクはやっぱり反論しないことにした。
 連発式鉄砲について色々意見はあるのだが、「こいつらどうせ、そういうことを話しに来たわけじゃないだろう」とわかりきっていたからだ。
 達人クラブの「手作り輪ゴム鉄砲」をバカにすること自体が目的なのが見え見えで、まともに反論してもよけいにからまれるだけだ。
 なぜだか知らないが、このケンカっ早い小柄な少年は、自分に対してふくむところがあるらしい。金曜日の帰り道、ふゆかいな目にあったときの感じでは、どうやらそれはバンブーの存在と関係があるらしいのだが、詳しい事情はまだわからない。
「へ〜すごいね。6連発かあ。とても自分では作れないなあ」
 などと棒読みの生返事をしながら、コーサクは頭の中で別のことを考えている。
(こいつら、なにがねらいでちょっかいかけてくるんだ?)
「まあ、ぼくらはぼくらのペースで遊ぶよ」
 できれば、このままおとなしく去ってほしいのだが、しつこくからんでくる。
「そうだな。おまえらオタクには、しょせんそのていどがお似合いだな」
「ちょっと! あんたたち感じ悪いじゃない!」
 もともと気の強い神原シオネが、ついにがまんしきれずキレた。

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 一歩前に進み出て、乱入三人組の前に立ちはだかる。
 細身だがスラッと背が高いので、男子相手でも見劣りしない。とくに小柄なキョウが相手なら、上から見下ろす形になる。
 男子が本格的に成長期をむかえるのは中学生になってからなので、小学生の段階では、まだけっこう女子の体格が優勢なのだ。
「ナメてんじゃないよ! うちの鉄砲隊は、本当にすごいんだから! 大人の鉄砲隊だって感心してたんだからね!」
 正義感がきわめて強いので、「身内」に対して理不尽なことがあれば、日頃の優等生の態度ではなくなる。
 戦闘モードに入ると、自分が正しいと信じることのためなら、世界中を敵にまわしても平気になってしまう。
 この向こうっ気の強さがあるからこそ、男子をむこうにまわして仕切りまくるスーパークラス委員でいられるのだ。
(あ〜あ、はじまっちゃったか……)
 コーサクの心は複雑だった。神原シオネが、自分のために怒ってくれているのはわかる。ありがたいという気持ちは、もちろんある。
(でもなあ……)
 こいつら、なにかねらいがあって、わざとこっちを怒らせようとしてるはずなんだよね。そんなのにまともにぶつかっても、相手の思うつぼなんだよ。そのへん、わかんないもんかねえ、スーパークラス委員の神原さん……
 変に冷めた頭でそんな風に考えているコーサクとは無関係に、乱入男子三人組VSスーパークラス委員の舌戦は、しだいにヒートアップしていく。
 コーサクは周囲の状況を確認する。花村ナオミはだまったままふつうの顔になっている。ナオミの場合、ふだんから笑顔が基本なので、今はかなり緊張しているのだろう。真面目な子がこんなことに巻き込まれて、気の毒になあ……
 小島ハルカは少しはなれた机の下にもぐりこんでいる。避難訓練でもあるまいし、ちょっと笑ってしまった。さすが不思議ちゃん。でも、スマン……
 タツジンはいつも通りだ。乱入三人組のことなど、まるで存在しないかのように完全無視。ぜんぜんこたえてないな。さすがタツジン、クール!
 さて、どうしようかな、と考えていると、突然状況が変わった。
「よう、その6連発って、カッコいいよな。おれにもちょっと見せてくれよ。」
 バンブーが口をはさんだのだ。
「大丈夫、ちょっと借りるだけだよ。すぐ返すって」
 ニヤニヤ笑いながら続ける。コーサクは「フテキな笑顔」というのはこういう顔のことかと思った。
「ほら、いいから貸せよ。おまえらを撃ったりしねーよ。なにビビってんだ?」
 いきり立っているキョウ、にらみつけているノボには目もくれず、バンブーはぬーっと進み出て、タイショーの眼前に立つ。
「な、ちょっとだけ貸してくれよ」
 ここまで言われたら手渡さないわけにはいかない。渡さなければそれこそビビって逃げたことになる。タイショーは無言でバンブーに鉄砲を渡した。すでに輪ゴム6本は装てん済みで、いつでも撃てる状態になっていた。
 コーサクはそれを見て、苦々しく考える。
(話の流れによっては、美術部相手に無差別発砲する気満々だったのか? 女子もいるのに、ひでーな……)
 バンブーは鉄砲を手にとって、ためつすがめつしたあと、教室のはしの方にむかって連続で引き金を引いた。何もない空間に、輪ゴムが6発飛んでいく。
「ふ〜ん」
 バンブーは鼻から息を一つぬいたあと、ポイッと鉄砲を投げて返した。
 不意を突いた絶妙のタイミング、ちょうど手前に落ちるフライで返されたので、思わずタイショーはよろけながら空中で受け取った。
 体勢を崩した自分を笑いながら見つめているバンブーに気づき、それまで余裕しゃくしゃくだったタイショーの表情は一変した。
 こいつ、わざとやりやがったなと、殺気に似たものが眉間にひらめいている。
 一つ一つのやりとりが、見えないサンドペーパーのように二人の神経を削り取り、見ているまわりの方が疲れてくる。
「ま、祭の露店で売ってるオモチャなんて、このていどのもんだろうな」
 鼻で笑いながら、バンブーは言った。
「コーサクの輪ゴム鉄砲の足もとにもおよばねーや。戦ったら瞬殺だな、瞬殺」
(ああ、言っちゃった……。でもまあ、ほんとのことなんだけどね……)
 コーサクは口には出さないけれども、バンブーの見解には同意している。
「なんだと、デブ!」
 キョウが毒づくが、バンブーが一にらみするとそれ以上は続けない。金曜日の朝、この超大型少年には少々痛い目にあっているのだ。
「おい、こら」
 バンブーは一貫してタイショーにしか話しかけない。
「いつまでも下っぱにやらせてんじゃねーや。めんどくせーやつだな」
「は? なにわけのわかんねーこと言ってんだ?」
 タイショーがようやく言葉を返す
「とぼけんな、カスが。なんなら、今ここでやってもいいんだぜ、こっちはな」
「……」
 やるか?
 本当にここで?
 バンブーとタイショウの間の空気がゆがみ、帯電したようにバチバチ火花が散っている様子が、目に見えるようだった。
 そのとき、教室の入り口の方から、別の声がかかった。
「じゃあ、どっちが勝つか、みんなで実験してみたらどうかな?」
 その場の空気にまったくそぐわない声の主は、学校一の秀才・殿山マサルのものだった。突然の新キャラ登場に、あっけにとられる一同……
(つづく)


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2014年05月10日

開戦前夜2


 図工室のストレスが最高潮に達した時点から、少し時間を巻き戻してみよう。
 ここは図書室である。
 放課後はまだ始まったばかりで、室内に生徒の数はまばらだ。窓際の席で何冊か本を積み上げて調べものをしている少年がいる。学校一の秀才・殿山マサル(通称トノサマ)である。
 トノサマは今、「石山合戦」について調べている。日曜日の戦国まつりで、お坊さんや雑賀鉄砲衆の人たちに教わったことをもとに、さらに調べを進めようとしている。
 昨日のお祭は、意外と勉強になったと思う。
 きわめて勉強熱心なトノサマだが、当然ながらごく普通の小学生という一面もある。たまには塾を休んで、のんびり祭見物でもしてみたい気分になることもあるのだ。
 ただ、一応「秀才」の看板を背負っているので、ちょっと自分からは言い出しにくい。その点、昨日のお祭は、歴史研究部の取材活動という理由がつけられるので、休むにしても自分を納得させやすくて助かった。
 実際にお祭を取材してみて、お坊さんのお話は面白かったし、火縄銃についても実物を目の前で見るということは、色々新しい発見につながるのだなとわかった。
 お祭の感動がまだ新しいうちに、もう少し勉強を進めてみようと思った。勉強は、やる気が出た時にすぐに手を付けるのがよい。そんな時の勉強は楽しいし、すごくはかどるものなのだ。
 なにか参考になる本はないかと図書室に来てみたのだが、期待はずれに終わった。
 校内の本は、せいぜい教科書に毛がはえたていど。信長についてはそれなりに書いてあるが、本願寺や寺内町のことについては、ほとんど説明がなかった。雑賀衆については、どの本にも名前すら載っていなかった。これは市立図書館で大人向けの資料を探さないとしょうがないなとあきらめる。
 社会科の棚に本を戻し、となりの理科の棚にさしかかった時、ふと立ち止まって図鑑を一冊とりだした。
 パラパラとページをめくってから、お目当ての見開きをみつける。
 それは地球の大気の断面図である。図の下の方には陸や海の様子が描かれ、上の方には宇宙空間が描かれている。そしてその中間の青空の部分には、様々な高さに様々な形の雲が描かれ、大気の流れの方向が矢印であちこちに書きそえてある。
 しばらくその図をながめたあと、トノサマは何事かに「あっ!」と気付いて、パタンと図鑑を閉じた。そのまま図書室のカウンターに向かい、貸し出し手続きをしてもらう。
(これは発見だ。鈴木くんに言っとかないと!)
 トノサマは何かしらの「発見」を胸の図鑑にかかえて、「鈴木くん」(つまりコーサク)のいる図工室へと急いだのだった。

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 図工室についてみると、なんだかいつもより人が集まっていた。なにをもめているのか知らないが、けっこう険悪な雰囲気。もめている人の輪の中に、トノサマお目当てのコーサクもいたが、ちょっと話しかけづらい状況だった。
 トノサマはふだん、あまりまわりの空気を読まないマイペースタイプだ。頭脳はきわめて優秀なのだが、友だち付き合いにはきわめて無頓着。
 なにか興味の対象があるときの集中力には驚異的なものがあったが、そのぶん、まわりは見えなくなってしまう。そんなトノサマですら「いまここで割りこむのはまずそうだ」とわかるくらい、図工室の雰囲気は険悪だった。
(え〜と、いったいなにをもめてるのかな? はやく鈴木くんに伝えたいことがあるんだけど……)
 しばらく立ち聞きすると、どうやら輪ゴム鉄砲のことで言い争っているらしい。
 話を聞いているうちに、だんだんその話題自体に興味が出てきた。戦国時代の鉄砲戦術について並々ならぬ関心を抱いていたタイミングである。
 美術部と、ほかの三人の論争は、トノサマの耳には「技能VS物量」の比較であると聞こえた。一発必中をほこる美術部の輪ゴム鉄砲テクニックと、6連発式輪ゴム鉄砲の物量では、どちらが早く正確に的をたおすことができるのか意見交換をしている、と聞こえたのだ。
 実際には、乱入者三人と美術部が、おたがい感情的な意地の張り合いになっていただけだ。しかし幸か不幸か、トノサマはそうした人間関係については、とんと無頓着であった。
 言い争いはトノサマの脳内で、きわめて学術的な討論に変換されていたのである。
 いったん興味を持ってしまうと、トノサマはがぜん行動的になる。
 まわりの空気を読むことなどそっちのけで、思ったことを口にせずにはいられなくなる。
 かくして、突然の介入は実行にうつされたのであった。
「じゃあ、どっちが勝つか、みんなで実験してみたらどうかな?」
 トノサマとしては、ごくまっとうな提案として、そのセリフは出てきたのだが、いきなり声をかけられた一同は、ポカンと口を開けるばかりだった……
(つづく)
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2014年05月11日

開戦前夜3


 トノサマの、ある意味見事な間のはずしっぷりに、図工室でもめていた美術部6人と乱入3人組は、すっかり毒気を抜かれてしまった。なんだかわけのわからないうちにトノサマのペースに巻き込まれて、どちらの輪ゴム鉄砲の性能が上か、実験することになってしまったのだ。
 それならルールを決めよう、ということになって、図工室の黒板を使用してルールミーティングが開かれることになった。このあたりの議事進行は、さすがに昔からクラス委員を度々つとめてきたトノサマの手腕が冴えた。
「まず、どうやって鉄砲の優劣を決めるかだけど、なにか意見はあるかな?」
「そんなの決まってんだろ! おたがい打ち合いをして勝ち負けを決めりゃいいんだ!」
 キョウがさっそく噛みついてくる。
「なんだったら、今からでも銃撃戦を始めりゃいいんだ!」
「下っぱが低能だと、ボスの頭の中身まで疑われるな」
 バンブーがあいかわらずキョウを無視して、タイショーだけを視界に入れながらボソッとつぶやく。
「あんだと!」
 すぐにキョウは反応するが、さすがにもう「デブ!」とは言わなくなった。
「おい、飼い主。バカ犬にちゃんとシツケしとけ!」
 挑発を続けるバンブー。タイショーは、ややうんざりしたように言った。
「キョウ、ここは殿山に仕切らせとけ」
 受け流しながら議事進行をうながす。トノサマはうなずいて論点を整理する。
「いくつか的を並べて、同じ人数で同じ距離から撃って、どちらが早く全部倒せるかを比べればいいんじゃないかな?」
トノサマの意見に、コーサクがアイデアを付け足す。
「それなら、図工室の両はしに、おたがいの陣地を築いて、そこに戦国フィギュアを同じ数だけ並べて、どっちが先に全部たおせるか競争したらいいと思う」
 黒板に簡単な図を描いて説明した。
 要するに、縁日の射的のお店みたいなのを二つ、机を使って教室の両側に作り、よーいドンで戦国フィギュアを撃ち抜く競争をしようということだ。

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「なんだ、人間は撃たねーのか。つまんねーな!」
 キョウが不満を述べる。
「相手チームのメンバーを撃って、射撃を邪魔するのはOKにしようぜ。」
 輪ゴム鉄砲は、当たっても「ちょっと痛い」だけで、めったにケガはしないものだと知っているコーサクが、また意見を付け足す。
「ドッジボール方式で、肩より上をねらうのはナシにしといた方がいい。目に当たったらちょっと危ないから」
 コーサクの意見に、トノサマも同意する。
「それならいいんじゃないかな。でもたぶん、相手チームの邪魔なんかしてるより、一人でも多く的を撃つのに回した方が有利だと思うけどね」
「試合のメンバーはどうするんだ? やっぱり工作隊3人とそっちの三人か?」
 参加者を確認するバンブーに、トノサマは意外な答えを返してきた。
「いや、実はぼくも、6連発鉄砲の方が優れているんじゃないかと思ってるから、織田君たちのチームに参加させてほしいんだよ」
 意外なことを聞く、と一同は注目する。
「少し見学させてもらったことがあるから、鈴木くんの作った鉄砲や、美術部のみんなの腕がけっこうすごいことは知ってる。でも、それを考え合わせても、6連発できるという性能にはかなわないと思う。よーいドンでどちらが的を早くたおせるかと考えると、やっぱり連発できるのが有利じゃないかな? だから、自分の説を自分の手で確認してみたいんだよ」
「トノサマよう、おまえ、参加するのはいいけど、鉄砲はどうするんだ? おれら、連発式は人数分しか持ってねーぞ」
 キョウが疑問をはさむ。
「ご心配なく。ぼくも昨日のお祭で、連発式を買ったんだよ」
 めずらしく、少し照れながらトノサマは言った。
「お坊さんや鉄砲衆の人たちのお話に、がらでもなく興奮しちゃってね。インタビューのあと、お寺のまわりを取材している時に店先で見かけて、ついつい衝動買いしちゃったんだ」
 その場の一同は、「へ〜」という顔でトノサマを見た。浮世ばなれした学校一の秀才にも、世間なみな一面があるんだなと、変に納得したのだった。
「じゃあ、こっちチームは4人ってことかよ。おまえらはどうすんだ?」
 キョウが、今度は美術部側に問いかける。美術部工作隊の方は、コーサク、タツジン、バンブーの3人なので、人数的に釣り合いが取れないのだ。
「じゃあ、あたしもやる!」
 ガタッと椅子をけって、スーパークラス委員、神原シオネが立ちあがる。トノサマの仲裁が入るまでにすっかり戦闘モードに入っていたので、自分の中に起動してしまった闘争心を持て余していたのだろう。
「おいおい、女が混ざるのかよ。鉄砲は持ってんのか?」
 キョウがバカにしたように聞く。
「あ、それだったら、こっちにはけっこう余分のがあるから大丈夫」
 すぐにコーサクがフォローする。
 参加メンバーが決まると、あとは細々とした注意点を決めて行った。はじめはいきなり出現したトノサマの仕切りに面食らっていた一同も、ルールが決まって話が具体的になるとがぜん面白くなり、けっこう本気で話し合った。
「で、決戦はいつやるんだ?」
 バンブーはあいかわらずタイショー相手にしかしゃべらない。
「おれらはいつだっていいんだぜ。なんなら、今すぐでも」
「今すぐはちょっとかんべんしてよ」
 タイショーに代わって、トノサマが答える。
「キミたちの腕前はよく知ってるからね。ぼくたちにも練習の時間がほしい」
「連発式の方が有利だったんじゃないのか?」
「その判断に間違いはないと思ってる。でも、試合会場は図工室だし、射撃方法もキミたちがふだんやってるのに近い。『地の利』はキミたちにあるんだから、せめて練習時間ぐらいはもらわないと不公平だよ」
「ふん、まあ理屈は通ってる。じゃあ、明日の放課後でどうだ?」
「え? 明日?」
「そもそも、おまえらの方から乱入してきた話で、おれらは別にやりたくてやってるわけじゃないからな。それ以上は待たないぜ」
「それはそのとおりだね。う〜ん、じゃあ、明日でもいいかな?」
 トノサマが自分のチームをふりかえると、三人は「べつにそれでいい」とうなずいた。三人は完全に工作隊の手作り鉄砲をナメているので、練習すら必要ないと思っていた。「金払って買ったものが、ショボい手作りに負けるわけがない」と頭から決め込んでいて、一度も疑わなかった。
 要は、工作隊がコツコツと積み上げた努力の結晶を、否定して笑えればいいだけなので、日時は別にどうでもよかったのだ。
(つづく)
posted by 九郎 at 19:58| 図工室の鉄砲合戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年05月12日

開戦前夜4


 そのころ、美術部担当の三又アツシ先生は、図工準備室の一画で、じっと椅子にすわっていた。
 準備室はすぐとなりにあるので、図工室で繰り広げられている小学生たちのやりとりは、みんな聞こえている。
 三又先生は、小学生同士の言い争いは、基本的にいつも放置する。
 ケンカも、集団で一人を攻撃するような悪質なものや、年齢差や体格差が大きい場合をのぞいては、見て見ぬふりをすることが多い。
 普通の小学生程度の体力なら、素手で一対一であるかぎり、めったに大事には至らないと知っているからだ。  ケンカに限らず、子供同士の問題はよほどのことがない限り、子供同士で解決した方がいいと思っている。
 その場に居合わせると、教師として注意はしなければならなくなるので、授業以外ではなるべく図工室の方には行かずに、準備室で用事をしている。
 しかし、子供にたいして無関心ということではないので、それとなく気配をうかがいながら過ごしている。
 この日も準備室で、ことの成り行きに聞き耳を立てていた。

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 耳をすませながら「コーサク大変だな」とか、「クラス委員、男前だな」とか、「お! いよいよ謎の超大型転校生が正体をあらわすか?」とか、「トノサマ、意外とテンネンだな」とか、けっこう無責任にバトルを楽しんでもいた。
 ところが話の成り行きで、明日図工室で「鉄砲合戦」が行われるらしいことがわかってくると、さすがにあまり気楽にはかまえていられなくなった。
(図工室で銃撃戦か……)
 三又先生は頭の中で様々にシミュレートする。
(危険はない思うが、ほかの先生に知られると、ちょっとまずいかな?)
 達人クラブのバカ三人と、6年1組のボス三人組だけだと何かしでかすかもしれないが、優等生の殿山マサルと神原シオネも一枚かんでいるのだから、めったなことはおこるまい、と判断する。
(エアガンとかじゃなくて、しょせん輪ゴム鉄砲だからな……)
 まさかケガ人は出ないだろう。
 強いて挙げれば、目の安全だけは考えておく必要がある。
(どうする? サバイバルゲームのゴーグルなんか、小学生が持ってるわけないしな……)
 しばらく考えて、浦小のような海辺の小学校の生徒なら、かならず全員持っているはずのものを思いついた。
(よっしゃ、これでいこう)
 深々とすわっていた椅子から、よっこらしょと立ちあがり、準備室と図工室の間のドアをあけた。
 大きく息を吸い込んでから、盛り上がっている子供たちに声をかけた。
「お〜い、おまえら。水中メガネもってるか?」
 面白くなってきたという思いと、ちょっと面倒になってきたという思いが、相半ばしてこの図工教師の胸に浮かんでは消えた。
(担任の斎木ちゃんには、一声かけとかないとな……)


 学校一の秀才・トノサマの、予想外の仕切りによって、乱入者三人は一応引き返させることができた。
 思わぬ騒ぎのせいで、もう下校時間が来てしまった。美術部の面々は、場所を移動して作戦会議をすることにした。
 決戦は明日なので、輪ゴム鉄砲に不慣れな神原シオネの射撃訓練が主な目的だった。
 学校近くの児童公園で、訓練を行った。
 神原シオネは、もちろん輪ゴム鉄砲の経験ぐらいはある。しかし当然ながら、コーサクやタツジンのような、変態的なこだわりで技術を磨いたことはない。せいぜい一発二発撃って楽しんだていどだ。
 コーサクはいくつか作っていた最新式輪ゴム鉄砲の予備をクラス委員にわたして、手に取った感触を確かめさせた。
「これがいい!」
 神原シオネが気に入った一丁を選び、コーサクの射撃指導が始まった。
 基本的には前の金曜日、バンブーにアドバイスしたのと同じだ。
 輪ゴムを左右にずれないようにまっすぐ伸ばしてセットし、両手で構え、銃身をしっかり固定し、銃口部分がぶれないように、そっと引き金を引く。輪ゴムはほぼ真っ直ぐ飛ぶが、微妙にクセがあるので、それをあらかじめ計算に入れてねらいをつける。
 神原シオネは筋がよく、飲み込みが早かった。
 タツジンという極上のお手本がいて、輪ゴム鉄砲でどれだけのことが可能か、目の前で実演して見せてくれたせいもある。明日の実戦に近い距離、約2・7メートルの感覚が、繰り返し引き金を引くごとに、体にしみこんでくる感じがした。
(なんだ、けっこう面白いじゃん!)
 今までマンガ部の活動が忙しかったので、達人クラブのやっていることにはノータッチで来たが、実際やってみると男子三人がハマるのもわかる気がした。
(これなら自分も戦える!)
 自信ができると明日の「決戦」が楽しみになってきた。撃ちあいには加わらない花村ナオミと小島ハルカも、「応援するからぜったい勝ってね!」とエールを送ってくれる。
 指導を行っていたコーサクも、「これなら十分戦力になる」と、一安心していた。
 率直にいえば、バンブーの言うとおり、明日の鉄砲戦は美術部側の圧勝だろうと予想していた。いくら6連発できたところで、一発一発の命中精度が低いものは使い物にならない。とくにあの連発鉄砲は拳銃型の片手撃ちで、引き金を引いた時の手ブレをふせぐのが難しい。
 不安要素としては、むこうのチームにトノサマが入ったことだ。トノサマは前の金曜日、図工室で工作隊の射撃練習を見ている。こちらのチームにどんなことができるかという判断材料は持っているだろう。その上で、「連発式が有利」だと考えているとしたら、それなりの勝算はあるのかもしれない。
(でもまあトノサマは、ぼくらがお寺でやった演武を見ていないからな)
 金曜以降かなり上達した状態を見ておらず、演武のあと、雑賀鉄砲衆の人に教えてもらった鉄砲術に関するアドバイスも聞いていない。
(トノサマ、キミが頭の中で考える以上に、ぼくらは進化してるんだよ!)
 神原シオネの急速な上達ぶりをながめながら、コーサクは明日の決戦について、楽観的になっていった。
 しかし、盛り上がる美術部の面々の中で、ただ一人、だまって何事か考え込んでいるメンバーがいた。
 バンブーだった。


 一方、乱入三人組+トノサマも、学校近くの堤防で一応練習はしていた。
 三人組は、自分たちが負ける可能性など万に一つも考えていないので緊張感に乏しく、身を入れた練習にはなっていなかった。
 美術部から借り受けた戦国フィギュア何体かを、低めのコンクリートガードに並べて撃つのだが、やり方がテキトーで、とても実戦を想定しているとは思えなかった。フィギュアのすぐ近くから連射して、ひっくりかえる様子をゲラゲラ笑ったりしている。
 その点、トノサマは違っていた。コーサクたちの輪ゴム鉄砲術は、手造りの単発鉄砲という条件の中では、最高レベルに近いと評価していた。6連発式という「物量」の優位はゆるがないにしても、油断したら危ない。
「明日の試合では、もっとはなれて撃つことになるはずだから、そんなに近くからじゃ練習の意味がないよ」
 さすがに見かねて、トノサマが注意する。
「いいんだよ、そんなのは。だいたいねらいをつけて連射すりゃ、一発ぐらい当たるだろ!」
 キョウが反論する。
「う〜ん、まあそうなんだけどね」
 トノサマも、まさにそのように計算していた。
 訓練で命中率を上げるより、連発できる仕組みを作った方が効率がいいと考えて、「連発式が勝つ」と判断したのだ。
 それにしても、緊張感なさすぎじゃないの、と思う。
「せめて輪ゴムを装てんする練習ぐらいやろうよ。連発式は弾こめに時間がかかるのだけが不安要素なんだから」
 そんな辛気臭いことやってられるかと言わんばかりの三人組に、さすがにトノサマも必勝の信念がゆらぎはじめていた……
(つづく)
posted by 九郎 at 20:59| 図工室の鉄砲合戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年05月13日

開戦前夜5


「よう、ちょっと待ってくれよ」
 いきなり背後から声をかけられて、おどろいた。
 児童公園での射撃訓練を解散し、一人家路を急いでいた神原シオネがふりかえると、そこにはぬーっという感じで超大型少年が立っていた。
「わっ! な、なに? 佐竹くん?」
 新学年がはじまってからもうすぐ一週間、そろそろこの少年の体格にも慣れてきたつもりだったが、それでもいきなり目に飛び込んでくるとおどろいてしまう。
 失礼だとは思うのだが、反射でビクッとなるのはなかなか止められない。
「ちょっと話があるんだけどよ」
 ぶすっとした顔でバンブーが言った。
「明日のこと? 練習だったら家でもちゃんとやっとくよ。ぜったい足引っぱらないから」
 コーサクから借りた鉄砲の入っている包みを、パンパンと叩きながら「まかせといて!」と言った。
「実は作戦を考えたんだ。単なる勝ちじゃなくて、あいつら徹底的に潰して完勝したい。コーサクとタツジンにはまだ話してないけど、あんたに先に話を通しとこうと思ってな」
「それ、どういうこと?」
「コーサクにカッコつけさせてやりてーんだよ。迷惑かけたからな」
「迷惑?」
「あいつらが美術部にからんできたのは、おれが目的だ。おれ、デカくて目立つからな。くだらんメンツにこだわるクズどもは、どこの学校にもいる」
「……」
「おれはもう誰が一番強いとか、誰がクラスをシメるとか、なんの興味もねーんだが、小6にもなってまだそんなことにこだわってるバカもいるんだよ」
「織田くんのこと?」
「タイショーってやつか? あいつ本人は、もうそういうのから半分ぐらい卒業してるみたいだが、まわりの手前、引けないこともあるんだろうな」
 そうか、そういうことだったのか、と神原シオネはなんとなく事情を理解できてきた。
 乱入三人組の態度はあまりに理不尽で、なんでこんな言いがかりをつけなければならなかったのか、まったく意味不明だった。その理不尽さに、激しくいきどおりを感じていたのだが、ようやく事情が飲みこめてきた。
「タイショーってやつは、迷ってるんだ。おれと直接やりあうのはリスクがあると判断したんだろうな。あのキョウとかいうチビがはねっかえるのを放置して様子を見てやがる。だからおれ本人より、まわりにいるコーサクが割りをくっちまってる」
「あたしには男子のメンツのことなんてよくわかんないけど、あなたが織田くんと決着つけちゃえば、それで解決なんじゃないの?」
「あいつとおれが直接やりあったら、子供のケンカのレベルじゃなくなるんだよ。たぶんどっちも無事には済まないし、話がデカくなる。むこうもそれがわかってるから様子を見てんだろう」
「ふ〜ん、複雑なんだね。ごちゃごちゃ言わないでやっちゃえばいいのに」
 まだ戦闘モードが残っている神原シオネが、やや挑発気味に言う。
「だから、おれはもう、そんなのには興味ねーって。6年生の一年間、テキトーにすごせりゃそれでいいんだ。でも、そのためには反撃しとかなきゃならない。それも、コーサクの凄さを見せる形でだ」
「ずいぶんコーサクくんを買ってるんだね」
「あいつははじめて会った時から、おれを全然色眼鏡で見なかった。そんなやつ、なかなかいねー」
 バンブーは言った。
「バカだけどいいやつだ」
「うん、知ってる」
 神原シオネは笑ってうなずいた。意外に友だち思いな超大型少年の提案を、受け入れる気になっていた。
「で、あたしはどうすればいいの?」
「おれの考えた作戦は、こうだ」
 ぼそぼそと、バンブーは思いもよらない作戦を口にした。
「……何それ! 本気?」
「もちろんマジだ。せっかくのあんたの射撃訓練が無駄になるから、先に話を通しときたかった。たのむ、納得してくれ」
「下手したら、こっちが負けるよ。それでもいいの?」
「負けねーさ」
 バンブーはニヤッと笑った。
「こっちには極上の鉄砲名人が二人もいるんだからな」
「わかった。あたしも腹くくるわ」
 スーパークラス委員の決断は早い。
「あなたの作戦にのることにする」
「あと、もう一つ聞いときたいことがある」
「何?」
「浦小でも大掃除のとき、床のワックスがけってやるよな?」
「やるけど、それがどうしたの?」
 ついこの間の学年末大掃除でも、床のワックスがけをやったところだ、と教えた。
「それに使ったモップって、どのへんに置いてある?」
「ちょっと! あなたなに考えてんの?」
「いいから、場所だけ教えてくれよ。あとはおれが勝手にやることだ」
 クラス委員は、ふーっとため息をついた。
「いいわ。何企んでんのか知らないけど、ここまできたらあたしも付き合う。どうすんの?」
「おい、おれだけで十分なんだから、場所だけ教えてくれよ」
「掃除用具が入ってるのは校舎の真ん中の階段の下にある倉庫だよ」
 少しいたずらっぽい感じで、神原シオネは笑った。
「でも、中はごちゃごちゃだから、このまえ片づけたクラス委員のあたしがいないと、モップがどこにあるかなんて、わかんないよ」
「……ふ〜ん、クラス委員なんかにしとくのはもったいねーな……」
 バンブーは少し考えてからうなずいた。
「わかった、たのむ。明日、朝一で校門前に来てくれ」
 神原シオネは大きくうなずいた。
 明日、何が起こるのか、楽しくて仕方がなくなってきた。
 生真面目な優等生。
 男勝りの冒険家。
 彼女の中で、二つの顔は両方とも真実だった……

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(第六章おわり。第七章「図工室の鉄砲合戦」につづく)



次章、遂に最終決戦!



posted by 九郎 at 22:01| 図工室の鉄砲合戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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