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2014年04月24日

マンガ部と達人クラブ1


 コーサクとバンブーは連れ立って図工室へと向かった。
 二子浦小学校のクラブ活動は、金曜日午後の最終授業だ。5、6年が対象で、新学年が始まったばかりの今の時期は、昨年度から持ち上がった新6年生しかいない。学年の変わり目でクラブをかわることもできるが、半数以上はそのままの所属で落ち着く。新5年生はこれから見学したり体験参加したりしながら、5月のゴールデンウイーク明けまでにクラブを決めることになる。
 コーサクの入っている「達人クラブ」というのは、実は美術部のことだ。
 どこの小学校でも、または中学高校でも、だいたいにおいて美術部などというものは、人気がないクラブの代名詞だ。わずか一人二人というところも少なくないし、もっとひどい場合には部員0で、消滅してしまっている場合も多い。
 ただ、ごくまれに、盛り上がっている例もある。マンガ好きの女子生徒が集まって、美術部の名を借りた「マンガ・イラスト部」になっている場合だ。
 浦小美術部も、まさにそのケースにあてはまっていた。
 コーサク達の学年より一つ上の卒業生の中に、プロのようなイラストを描く女子先輩が一人おり、彼女の人気でそれなりの人数の女子が集まったのだ。
 現在、新6年生の所属人数は5人。マンガ・イラストの活動を行っている女子が3人で、残る二人がコーサクとタツジンの「達人クラブ」二人組というわけだ。
 そして、去年まで女子ばっかりだった美術部に、場違いなコーサクとタツジンの二人組が入部する要因になったのが、図工担当の三又アツシ先生だった。
 授業を受けているとなんとなくわかってくるが、同じ図工の先生でも、実は一人一人専門がちがう。授業では絵画や立体造形、デザインなど、一通り何でも教えるが、先生本人が本当に得意なのはせいぜい一つか二つの分野だ。三又先生の場合は、「お絵描き」よりも「工作」の方が得意だったようで、自然と授業でもその手の課題が多くなった。
 そこにハマッたのが自他共に認める工作マニアのコーサクで、三又先生が監督を務める美術部に、よくつるんでいたタツジンとともに入部したのだ。
 かくして浦小美術部には、女子中心の「マンガ部」と、男子二人だけの「達人クラブ」が並び立つことになった。
 もっとも、変わり者二人組がごそごそとアヤシゲなシロモノばかり作っている「達人クラブ」よりも、活発な女子が多数所属する「マンガ部」の方が、はるかにはなやかな活動をくりひろげていたことはいうまでもない。
 ……というような事情を、コーサクはバンブーを図工室に案内するまでの道すがら、簡単に説明した。

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 図工室は校舎一階のすみっこにある。コーサクとバンブーが到着すると、手前にある準備室から、ちょうど美術部担当の三又先生が出てきたところだった。
 三又先生は年齢三十歳前後だろうか、中肉中背でがっしりしている。
 いかにも頑丈そうな体つきで、第一印象ではまず「絵の先生」という風には見えない。身につけた絵の具汚れの目立つつなぎは、一応洗濯だけはしてあるようだが、「ボロ着」としか表現しようがない。ほほやあごのあたりには、チラホラ無精ひげも見えている。いつもきちんとした斎木先生を見慣れていると、いかにもワイルドな感じがするが、図工教師というのは体育教師とならんで汚れやすい商売なので、身なりがラフなのは仕方のないことなのだろう。
「お、来たな達人クラブ! 何か新ネタはあるか?」
 コーサクは手に持ったボール紙包みを、「これこれ」と指差して見せた。
「そうか、持ってきたか! ちょっと出てくるから、あとで見せてくれよ!」
 そういい残すと、三又先生はサンダルを引っかけながらその場を去っていった。その姿を目で追いながら、バンブーが言った。
「あのおっさん、先生か?」
 小学生にとって、二十歳以上は、押しも押されもせぬ立派なおっさんである。
 あんまり先生には見えないだろうけどその通り、とコーサクは答えた。
(つづく)


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2014年04月25日

マンガ部と達人クラブ2


 コーサクとバンブーが到着するととも、ちょうど六時間目のチャイムが鳴った。図工室に入ると、すでに女子部員たちは集まって活動を開始していた。
 メンバーは神原シオネ、花村ナオミ、小島ハルカの三人だ。
 神原シオネは言わずと知れた6年1組のスーパークラス委員。勉強、スポーツにプラスして、絵まで描ける。ついでに言うと容姿端麗だ。
 花村ナオミはマンガ・イラストの実力派。一学年上のセミプロ先輩が卒業した後は、誰もが認める「浦小で一番絵が上手い女の子」になった。おとなしく真面目な性格。基本、いつも笑顔だ。
 小島ハルカは、ギャグタッチのかわいいキャラクターを描くのが得意。そして、ちょっと浮世ばなれした「不思議ちゃん」でもある。
 全員6年1組だが、6年生は2クラスしかないので、部員がみんな同じクラスというのはとくに珍しいことではない。
 女子部員三人は、これまでの作品をまとめた冊子作りにいそしんでいた。机を六つほど並べて広い作業台を作り、これまで描きためたマンガやイラストを広げながら、ページ割りについてあれこれ相談している。セミプロ女子先輩を中心にもりあがっていた前の6年生がごっそり抜けたあとなので、なんとか新5年生をどっさり勧誘しようと、はりきっている。
 部屋に入ってきた男子二人に気付いて、女子三人はしばし手を止めて顔をあげた。神原シオネはコーサクについてきたバンブーの姿に少しおどろいたようだったが、すぐにニコッと笑って手を振ってきた。コーサクは軽く手をあげてこたえたが、バンブーはあいかわらずぶすっとしたままだった。
(バンブーは女嫌いなのかな?)
 言葉には出さずに、コーサクは今日初めて会った転校生の性格について考えていた。女子に興味がないという小6男子は、別に珍しくない。この年代の男子は、まだまだ男の子同士で遊ぶのが楽しいし、女子はそんな男子を「子供っぽい」と思って、ちょっとバカにしているのがふつうなのである。

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 教室窓際の電動工具が並んでいるあたりでは、はやくもタツジンが自分の輪ゴム鉄砲で射撃訓練を開始していた。いかにも孤高の達人らしく、新人勧誘などにはまったく興味がないようだ。
 タツジンはいつものように、戦国武将をモデルにしたフィギュアを的に、射撃訓練にはげんでいた。以前は消しゴムなどを適当に並べて的に使っていたのだが、ガシャポンで戦国武将のシリーズを見つけて以来、それを集めて使用している。輪ゴム鉄砲の的としては、大きすぎず、小さすぎず、フィギュアの頭部のあたりにうまく的中させないとたおれないので、訓練にはもってこいなのだ。なにより、いかにも「いくさ」をしている雰囲気が味わえるのがよかった。
 机を三つ、横一列に並べ、そこに適当な間かくでフィギュアを配置する。近すぎると外れ弾が隣に当ったりするので練習にならない。技をみがく修行は、あくまで自分に厳しくあらねばならない。
 並べた机の下から背後の壁にかけては、広くブルーシートがかけてあって、撃った輪ゴムの後始末にそなえてある。このあたりは同じ教室で活動しているスーパークラス委員、神原シオネの強い指示による。「後片づけまでちゃんと自分たちでやってよね」というわけである。
 タツジンが今、手にしているのは、前にコーサクと一緒に作った、割りばしを材料にしたものだ。かなり工夫し、改良に改良を重ねた一丁で、割りばしを材料にしている中では最高と思われる性能をほこっていた。3メートルほどの距離では、タツジンならまず間違いなく百発百中。コーサクでも八割方、当るレベルまで達していた。小気味よく戦国フィギュアを撃ち抜いていくタツジンを見て、バンブーは思わず「すげーな」とつぶやいた。
 男子なら誰でも射撃術には興味がある。それがたとえオモチャの輪ゴム鉄砲でも、目の前で見事な腕前を見せられれば、自分でもやりたくてうずうずしてしまう。男の子には生まれつき、そういう狩猟本能がそなわっているのだ。
 タツジンがふと手を止めて、バンブーの方をふりかえった。
「やってみる?」
 割りばし鉄砲を差し出した。コーサクはちょっと意外な感じがした。タツジンが自分の方から他人に話しかけるのは珍しいのだ。よほどバンブーの様子が興味津々に見えたらしい。
「おお、やりたいやりたい!」
 まよわず鉄砲を受け取り、輪ゴムをひっかけて構えてみる。鉄砲を持つ右手を前に突き出した、半身の構えだ。ためしに引き金を引いてみる。
 ビシュン、と空気を切る音がするが、輪ゴムは的のはるか下、机の足の間を飛んで行ってしまう。二発、三発とくりかえしてみるが、どうしても弾は下へ下へと流れていく。
「バンブー、片手撃ちは難しいから、左手を鉄砲にそえてみなよ」
 コーサクが身ぶりをまじえてアドバイスする。
 輪ゴム鉄砲の射撃術で最初に問題になるのが、引き金を引く瞬間だ。何も考えずに引き金を引くと、その動作で銃口が下がってしまうので、弾は的の下へ飛んで行く。だからできるだけ銃身をしっかり固定して、そっと引き金を引かなければならない。どうしても右手が力みがちになるのだが、むしろ銃身を固定する左手をしっかりさせ、右手の指先は力を抜かなければならない。このあたりは、カメラで「手ブレ」をふせぐための心がまえとよく似ている。
 コーサクのアドバイスにしたがってみると、なるほど輪ゴムが机の下をくぐるようなことはなくなり、何発かに一回は的に当たるようになってきた。
「輪ゴムを鉄砲に引っかけるところから気をつけた方がいいよ。左右どちらかだけ引っぱると、飛ぶ方向が狂ってくるから、なるべくまっすぐ引っぱって」
 これも、やってみるとすぐ効果があらわれる。
 コーサクのアドバイスは続く。
「輪ゴム鉄砲はそれぞれクセがあるんだ。ねらったところからどんなふうにずれるかよく観察してみるといいよ」
 あるていど上達すると、今度は割りばしと輪ゴムいう材料自体の問題点が分かってくる。威力を増すには、まず弾になる輪ゴムを限界近くまで伸ばさなければならない。すると、銃本体にかなり強い力がかかることになる。その輪ゴムの力に対して、材料の割りばしは弱すぎるのだ。輪ゴムを引っかけた時点で、銃身がゆがんでしまっているので、なかなかねらった所に飛ばなくなる。
 それに、もともと輪ゴム鉄砲はまっすぐ飛ぶわけではなく、的との距離が離れるほど、やや落ちて下の位置に飛ぶものなのだ。
 対策としては、ねらった所と実際に飛ぶ位置のずれをあらかじめ計算に入れることが大切になる。たとえば「的から右に2センチ、上に1センチ」という風に、最初からねらいをずらすことによって、実際の命中率を上げることができるのだ。
 ふたたびコーサクのアドバイスに従って試射してみると、だんだん的に命中するようになってきた。
「なるほどなあ……」
 バンブーは感心した。外れる理由を筋道立てて説明してもらうと、短期間にみるみる効果が上がり、がぜん面白くなってきた。
 輪ゴム鉄砲ぐらいは、自分でも今までに何度か作ったことがあった。それなりに楽しかったが、何発か撃ってみたら、すぐにあきてしまった。まさか練習次第でこんなに上達するとは、思ってもみなかった。なにより、上達のためのコツを言葉で説明して人にわからせてしまうコーサクに感心していた。
「コーサク、そろそろ新兵器を見せてくれよ」
 バンブーが十分にハマるのを見てとってから、タツジンが声をかけた。
(つづく)
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2014年04月26日

マンガ部と達人クラブ3


 そうだった。バンブーのコーチに夢中になって、今日のメインイベントのことをすっかり忘れていた。コーサクはおもむろに「新兵器」をとりだし、試射しながらその性能について説明した。なんとなく、テレビショッピングで商品説明をしている人になったみたいな気がした。
 新型銃は、本体の材料を割りばしから各種角材に変更したことに特長があった。がんじょうな角材を使用しているので、輪ゴムを引っかけても銃身がまったくゆがまないのだ。輪ゴムが限界まで強力に引っぱれるので、発射後、輪ゴムが「落ちる」幅も少ない。3メートル以内なら、だいたいまっすぐ飛ばすことができる。つまり、これまでの「割りばし鉄砲」に比べて、ねらった位置と実際に飛ぶ位置のずれが格段に少なくなったのだ。
 タツジンが新型銃を受け取って試射する。
 最初はゆっくり感触を確かめながら撃っていたが、徐々に装てんから引き金を引くまでの時間が短くなってくる。しまいには一発4秒くらいの早撃ちになり、それでもほとんど的から外れない。
(すげえ、こいつは本当に達人なんだな……)
 バンブーはすっかり感心していた。

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「すごくいい」
 タツジンが感想をのべた。口調はぶっきらぼうだが、この無口な少年としては最大級のほめ言葉だと、つき合いの長いコーサクは知っている。
「狙いのズレをごちゃごちゃ考えなくても、輪ゴムをひっかけて撃つことだけに集中できる」
 新型銃がタツジンからバンブーに手渡された。
 バンブーもためしに輪ゴムをひっかけてみる。たしかに銃身が頑丈なので、輪ゴムが装てんしやすい。これまでの割りばし鉄砲なら、急に外れて「ビシッ」と手にあたらないか、ひやひやしながら装てんしていたのだが、新型銃ではまったくそういう心配がない。
 かまえてみる。グリップの部分が手になじみ、にぎりやすい。銃身にそえた左手も、しっかりと安定する。
ねらいをつけてみる。引き金と、銃口にかけての角材のラインがねらいをつけるときの「目当て」になっているらしい。
 引き金を引いてみる。引き金はあまりゆるいと輪ゴムが勝手に飛んでしまうし、固すぎると銃口がぶれやすくなる。この新型銃はそのバランスが絶妙で、それはバンブーのような今日初めてハマった少年にもよくわかった。
 ビシュン!
 輪ゴムはねらいからほとんどずれることなく飛び、的中する。
「お! すげーな!」
 次々に撃ってみる。初心者のバンブーは、タツジンのような早撃ちはできないが、それでも面白いように的に当たる。たしかに、まったく性能がちがう。
(なんだこれ? おれと同じ小学生が、これを全部自分たちで開発して、作り上げたのか……)
 バンブーは心の底からおどろき、思わずつぶやいた。
「おまえら、とんでもないバカだな……」
 もちろん、よい意味で「バカ」という言葉を使っている。たかが輪ゴム鉄砲にここまでこだわっている二人組に、笑ってしまうほど感動していたのだ。
「へへへ……」
 ほめられているのがわかって、コーサクはちょっと照れ笑いした。そして、うれしくてたまらないという風に、こう言った。
「じつは、この新兵器には、もう一つ秘密があるんだ」
 コーサクは、ポケットから大型の輪ゴムをとりだした。ゴム幅1センチほどのがんじょうなゴムバンドだ。
「この鉄砲には、こういう大型ゴムバンドもかけられるんだ」
 ゴム幅1センチほどの大型バンドは、第一印象では、良く使うふつうの輪ゴムより、はるかに伸びそうな気がする。しかし、実際に伸ばしてみると、どちらも35センチ前後で、さほど変わらない。鉄砲の造りががんじょうであれば、同じように弾として使用することができるのだ。
 ただし、その威力と射程距離はケタちがいになる。
 コーサクは簡単に説明しながら、大型ゴムバンドを装てんした銃をかまえ、引き金を引いた。
 バヒュン!
 これまでとははっきりちがう発射音が、空気を切りさいた。
 大型ゴムバンドはうなりをあげて、的になった戦国フィギュアをなぎたおし、うしろのブルーシートのところまですっとばした。ふつうの輪ゴムなら、フィギュアの胸から上のあたりにピンポイントで命中させないとたおすことができない。これならば、どこかにかすっただけでもたおすことができる。
「輪ゴムの飛距離も段ちがいなんだよ」
 コーサクはまず、ふつうの輪ゴムを教室の空いたスペースに撃ってみた。飛ばされた輪ゴムは、はじめはするどく、最後にはいきおいを失ってフワッと落下する。
「だいたい6メートルぐらいだな」
 タツジンが飛距離を目測した。
 コーサクはうなずきながら、こんどは再び大型ゴムバンドを同じ方向に発射した。ゴムバンドは、はるか先まで飛んで「ボタッ」と落下した。
「おお、9メートルは飛んだな!」
「そう。約1・5倍の飛距離になるんだ。それに、ゴム自体の重さがあるから、飛距離限界いっぱいでも的を倒す威力がある」
 ふつうの輪ゴムなら、飛距離いっぱいでフワッと落ちただけではなんの威力もない。実際に的をたおせる射程距離は、せいぜい3・5メートルほどだろうか。9メートルと言えば、余裕で二倍以上だ。
「図工室はふつうの教室より広いけど、ほとんどはしからはしまで届くな……」
 タツジンは頭の中で、また何やら新しい技を考案しているらしい。
「うん。でも飛距離限界いっぱいだと、ねらい方はちょっと変わってくるね」
 コーサクは風邪で休んでいるあいだに考えたことを、タツジンとバンブーに話して聞かせた。
 輪ゴム鉄砲術では、近距離射撃と遠距離射撃のねらいの付け方はまったくちがう。近距離では基本的に輪ゴムは「まっすぐ」飛ぶものと考え、実際の微妙なずれは頭の中で補正する。遠距離射撃では、野球のホームランボールのように、「山なり」に大型ゴムバンドを飛ばさなければならない。どちらも「輪ゴムの実際の飛び方」を計算しなければならないのだが、遠距離射撃の方がはるかに「事前の計算」の割合が高くなるのだ。
「大型ゴムバンドでも5メートルくらいまでなら、近距離射撃の撃ち方でいいと思うんだけど、射程距離いっぱいの9メートルになると、遠距離戦用の撃ち方でないと当らないと思う」
「ちょっとまてよ」
 バンブーが今さらのように気づいた。
「さっきからおまえら、距離何メートルとか言ってるけど、そんなことどうやってわかるんだ? テキトーに言ってんのか?」
 ふつう、人は1メートルと2メートルの差は、はからなくてもわかる。しかし、たとえば自分の立っている位置から目標までの距離を、3メートルとか6メートルとか見当をつけるのは簡単なことではない。よほど日常的に訓練をつんでいなければ、それは無理だ。
「ああ、そのことね」
 コーサクは教室の床を指さした。
「ほら、床のタイル。これが一辺30センチの正方形になってるんだよ」
「……!」
「はじめはそれを目盛りにして距離をかぞえてたんだけど、すぐになれて、ぼくもタツジンもパッと見でだいたいの距離がわかるようになったんだよ」
 タツジンが横から一言、つけ足す。
「ま、誤差10センチ以内だな」
「……ハハハハ」
 バンブーは思わず笑い始めてしまった。
(こいつら本物のバカだ! こんなすごいバカ今までに見たことがない!) 
「な! こいつらすげーだろ!」
 バンブーの心の中の叫びとシンクロするように、背後から声がかかった。
(つづく)
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2014年04月27日

マンガ部と達人クラブ4


 輪ゴム鉄砲で盛り上がる三人組ふりかえってみると、そこにはいつから見ていたのか、図工の三又アツシ先生の姿があった。三又先生だけでなく、担任の斎木先生や、学校一の秀才・殿山マサルほか数人の生徒もいた。
「そこの転校生、どうだ? わが浦小の達人クラブは?」
 斎木先生は横から「佐竹アキノブくんです」と紹介する。
「佐竹っていうのか。おまえ今、コーサクとタツジンがあんまりバカなんで、びっくりしてただろ!」
 バンブーは思わずうなずいた。自分と同じく、この先生も「バカ」という言葉を、最上級のほめ言葉として使っているのがわかった。
「こいつら、こんな一円の得にもならないお遊びに、全身全霊でハマってるんだぜ。どんなオモチャでも金出せば買えるご時世、手作り遊びでいつまでも盛り上がってるこんなやつら、探してもなかなかいない。佐竹くんよ、おまえはなかなか目が高いな!」
 コーサクとタツジンが顔を見合わせる。
「あれ、ほめてるのか?」
「さあ……」
 かまわず三又先生が続ける。
「流行りの遊びや、同じ図工室で活動してる容姿端麗な女の子たちに目もくれず、ただひたすらわけのわかんないものを工作し続ける変態二人組。そんなやつらの値打ちがわかるとは、おまえもそうとうなバカだな!」
「センセー、もういいよー」
 達人クラブ男子が苦情をはさむが、三又先生はおかまいなしだ。
「そんな鉄砲狂いのおまえらに、ひとつニュースがある」
 三又先生は「マンガ部」の方にも声をかけた。
「そこの女子三人も、ちょっとこっち来いよ」
 神原シオネ、花村ナオミ、小島ハルカは、なにごとかとおたがい顔を見合わせてから、編集作業を一時休止してやってきた。
「はい、それではここから先は、歴史研究部監督の斎木先生から説明があるから、よく聞いておくように!」

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 歴史研究部? 
 そう言えば、斎木先生についてきたトノサマ(殿山マサル)をはじめとする生徒たちは、歴史研究部所属だった。
 斎木先生は手にしたパンフレットを一同に見せながら、話し始めた。
「あさっての日曜日、みんなもよく知っている来光寺さんの境内で、お祭が開かれることになってるんだ」
 来光寺さんというのは、近所にあるお寺のことだ。遠足で何度も行ったことがあり、周辺は地元の子供たちの遊び場でもある。転校生のバンブーをのぞく浦小の面々は、もちろんよく知っているお寺だった。
「来光寺のお坊さんとは先生も知り合いなんだけど、お祭のついでに、二子浦の歴史についてお話を聞かせてもらえることになったので、歴史研究部だけじゃなく、美術部のみんなもさそいに来たんだよ」
 お寺のお坊さんに歴史の話?
 そりゃまあ、歴史研究部なら興味があるだろうけど、美術部がなんで……?
 マンガ部も工作隊も、美術部の面々は一様にぴんとこない表情だ。頭の上に「?」マークが浮かんでいるのが目に見えるようだった。
「ダメダメ、斎木ちゃん。そんな真面目な話の持って行き方じゃ、美術部のアホどもはのってこないよ」
 三又先生が、話の途中で割り込む。
「いいかおまえら、あさってのお祭は、戦国時代の二子浦の歴史がテーマになってて、鎧兜を身に付けた武者行列や、火縄銃の鉄砲演武があるんだぜ!」
 マジで! それ絶対行く!
 美術部の面々の表情が、三又先生の説明で一気に輝くのを見て、斎木先生は思わず苦笑した。男子三人は「火縄銃の鉄砲演武」の部分に反応し、マンガ部の女子三人は「武者行列」の部分に反応したのだ。
 まず、男子はだれでも基本的に戦国好きだ。また、マンガやイラストの好きな女子は、高い割合で「歴女」でもある。レキジョというのは、「歴史好きな女子」というほどの意味で、とくに最近は歴史を題材にしたマンガやゲームを入り口に、増殖しつつある女の子の種族だ。浦小マンガ部の三人は、けっこう気合の入った歴女なのだった。日頃、マンガ部と達人クラブでバラバラに分裂しがちな美術部が、今日は「戦国」という共通の話題で、めずらしく一つになった。
 コーサクは、ふと気づいて斎木先生のとなりで話を聞いていた殿山マサルに声をかけた。
「トノサマ、日曜日はいつも塾に行ってるんじゃないの? いいのか?」
 さっきの理科の時間に厳しく突っ込まれたので、ちょっと根に持った意地悪な気分だった。
「まあ、たまには休んでもいいんだよ」
 いつもクールなトノサマにしてはめずらしく、少し照れたように言った。
「会場のお寺はうちのすぐ近くだしね。地元の歴史を勉強するんだから、サボってるわけじゃない」
 そう言えばトノサマも、けっこう気合の入った戦国マニアだったなと、コーサクは思い出していた。小学校ではふつう、日本史を6年生ぐらいから習うのだが、秀才のトノサマは、もうずっと前から勉強を始めている。最近はゲームや漫画をきっかけに戦国マニアになる子供が多いが、学校の日本史の勉強がきっかけになる子供も、けっこういるのだ。


 クラブ活動の後、一同はいったん教室にかえってホームルームをすませた。
 掃除の時間が終わると、下校までのしばらくの間、生徒は校舎を自由に使用することができる。美術部の面々はマンガ部も達人クラブも、再び図工室に集まってそれぞれの活動を続けた。
 マンガ部は冊子の編集、達人クラブはコーサクの指導で新型輪ゴム鉄砲の量産である。日曜日の戦国祭までに、少なくともあと二丁、タツジンとバンブーの分を作っておきたかった。
 コーサクが自分の鉄砲を作るために用意した角材が、まだ十分にあまっていた。タツジンはノコギリなどの大工道具を使いなれているので、図面のコピーを渡すだけでよかった。
 コーサクは不慣れなバンブーのサポートに集中した。角材から切り出したパーツを木工用ボンドで接着し、動かないように目玉クリップで固定したところで時間切れになった。注意深くボール紙ではさみこみ、それぞれのカバンに収納する。
 達人クラブの三人は、明日の土曜日にコーサクの家に集まって続きを作ることにした。あとは引き金を付けて、何か所か補強の木ネジを打てば一応完成なので、一時間もあれば十分だ。もし時間に余裕があれば、グリップの部分が手になじむように削ればいいし、ついでに射撃訓練をしてもいい。
 下校時間になったので、てきとうに片付けて校舎を出る。校門のところで「バイバイ」して、それぞれの家路についた。
 一人歩きながら、バンブーは考える。まさか自分が美術部に入ることになろうとは、今朝までまったく考えていなかった。
(コーサクもタツジンも、変わったやつらだったな……)
 そんな感想を持ちながら、もう一度校門の方をふり返った時、気になる光景が目に飛び込んできた。自分とは反対方向に帰ろうとしているコーサクの後を、一人の少年が身をひそめながらつけて行っているようなのだ。
(あいつだ……)
 バンブーの記憶は朝の登校風景までまきもどされる。自分にちょっかいをかけてきた三人組のうちの、一番小さいやつ。少しだけシメてやったあいつだ。
 名前は確か、キョウとか言った…… 
 バンブーは少し考えてから、距離をおいて「尾行の尾行」を開始することにした。この超大型少年にとって、「目立たず動く」ことはひどく苦手な種類の仕事だったが、仕方なく追跡を開始したのだった。
(つづく)
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2014年04月28日

マンガ部と達人クラブ5


「おい、待てよ」
 漁港のところで、いきなり呼びとめられた。コーサクが声の主の方にふりかえると、そこにはキョウ、相田キョウイチがいた。
 ニヤニヤ笑っている。笑顔だが、およそ友好的なものではない。背はコーサクと同じくらいの高さなので、小柄である。しかし、メガネをかけた丸顔のコーサクと、顔に何カ所かうすい傷跡のあり、よくバネの効いた足取りのキョウとでは、同じ小学6年生でも雰囲気がまったくちがう。
「あのデブとずいぶん仲良しになったな」
「デブ?」
 どうやらバンブーのことらしい。コーサクはこの日の朝の、バンブーとタイショウ、ノボ、キョウの三人組の間にあった軽いバトルのことを知らない。なんの用事でキョウは自分に声をかけてきたのかさっぱりわからないが、どうやらあまり楽しい要件ではなさそうだ。そう言えば、一時間目の算数係のとき、こいつは気になる目つきでバンブーと自分の方を見ていたっけ……
「それ、ちょっと貸してみろよ。何が入ってんだ?」
 つかつかと近づいてきて、コーサクが手に持っていたビニール袋を取り上げた。袋の底の部分をつまみあげてバサバサゆすると、中身がアスファルトの上に散乱した。袋の中身はつい先ほどまで図工室で作っていた新型鉄砲だった。みんなで苦心した作品が、無残に道路に散らばる。
 コーサクの頭の中で、瞬間的にバチバチと火花が散った。
 大切なものをぶちまけられた怒りで、思わず体が勝手に動く。背負っていたランドセルを右手に持ちなおして、思い切りキョウの頭の上から振り下ろした。
 日頃おとなしいコーサクが相手だったので、完全に油断していた。さすがのはしっこいキョウも、ランドセルの一撃をよけきれなかった。手で頭をかばうが、けっこうまともにくらってしまう。
 小学6年生の背負うランドセルは、教科書やノートがいっぱいつまっていて、かなりの重量がある。おまけにあちこちに金属部品があるので、まともにぶつけられるとかなり効く。
 そのままたたみかければコーサクの勝ちも十分あり得たのだが、そこまでだった。
「痛!」
 短く叫ぶとともに、さすがにケンカ慣れしたキョウは、すかさず反撃する。
 ケンカで先手を打たれた場合、相手をそのまま勢いづかせてはならない。キョウの右てのひらが、コーサクの鼻がしらを軽く打った。てのひらの方がゲンコツより広いので、鼻に確実に当てられるのだ。

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 ごく軽い打撃だったが、ツーンと鼻の奥に激痛が走り、コーサクの目には涙がにじんでくる。とっさにずれたメガネを確かめる。どうやら壊されてはいないようで、一安心する。
 メガネが壊れると、色々めんどうなことが増えるのだ。母親に事情説明したりとか……
(ガマンだ! ここで引くな!)
 コーサクはくじけそうになる心を、必死でふるい立たせる。
 ここで引けば、このあとずっとやられっぱなしになる。今この場面、たとえ結果は負けでも、「こいつはちょっとめんどうだ」と思わせなければならない。相手は同じクラスなのだから、このラウンドが終わってもまだまだ先は長い。ここで引けば、こいつの顔を見るたびに、びくびくしないといけなくなる。
 基本的には平和主義のコーサクだったが、男子としてそのくらいのことがわかるていどの経験は積んでいた。グッと目に力を込めて、そのままにらみつける。にらみ合った姿勢のまま、二人はしばらく動かない。
 キョウにとっては意外な事の成り行きだった。手強いバンブーがいない間に、仲良くなりそうなヤツには軽く一発かましてやろうと思っていただけだった。
 相手は日頃おとなしい工作オタクなので、少しおどしてやればすぐに泣きが入ると思っていたのだが、ちょっと変なぐあいになってしまった。このままとっくみあいのケンカになれば、自分の方が勝つのは確実だが、人通りもけっこうあるこの場で、あまり長くさわぐのもまずい。
 どうしようか、と思っていたところ、コーサクの鼻から少し鼻血が出ているのに気づいた。一応、自分が勝った形にはなっている。
「ヘッ、メガネくんが弱いくせに!」
 これさいわいとそれだけ言いすてて、キョウはその場を去った。
 コーサクはキョウが十分はなれてから、道路の上にちらばった輪ゴム鉄砲の部品をひろいあつめた。
 ふーっと一息ついてから指で鼻血をぬぐい、もう止まっているのを確かめた。メガネを外して目じりをぬぐう。涙がにじんでいるのは鼻頭をはたかれた痛みのせいだ。決して「メガネくん」呼ばわりされたせいじゃない……
 病み上がりの新学期、ドタバタの一日だった。良いことも悪いことも、てんこもりでやってきたが、全部ひっくるめれば、まんざらでもない一日だった。
 ただ、さすがに疲れた。
 家に帰ったら、今夜はもう工作はせずに、さっさと寝よう……


「フーン……」
 堤防のかげにかくれて様子をうかがっていたバンブーは、最初から最後までコーサクとキョウのやりとりを見届けていた。途中、何度か出て行こうかと思った瞬間もあったが、やっぱりやめておいた。
「コーサク、けっこうやるじゃん」
 そうつぶやいて、元来た道を引き返して行った。
 少しうれしそうな顔をしていた。


 そろそろ日のかたむいた6年1組の教室に、たった一人、担任の斎木マモル先生の姿があった
 下校時間はとっくに過ぎており、教室にも校庭にも、生徒の姿はない。職員室には先生が残っているが、それ以外の校舎内はガランとして静まりかえっている。斎木先生は、教室をゆっくり巡回しながら、生徒による掃除が行きとどかなかった所を清めたり、ゆがんだ机をまっすぐ直したりしている。
 斎木先生はきれい好き、片付け好きだ。良く言えば几帳面、悪く言えば神経質ということになる。教室うしろの掲示板に貼ってあるプリントなども、かたむいたものははりなおしていく。水平、垂直がピシッと守られていないと納得いかないらしい。小学校の教室は、少しチェックをおこたれば、たちまちグシャグシャにくずれて行ってしまう。先生の納得できる状態を維持するには、日々の努力が欠かせない。
 このレベルの整理整頓魔になると、まわりからはうるさがられるのが普通なのだが、斎木先生の場合はとくにそういうこともない。自分の整理整頓に対するこだわりを、生徒もふくめて他人には決して強制しないからだ。 
 お片付けは、単に目の前のものを収納すれば良いというものではない。それぞれのものには、ふさわしい場所というものがある。理想的な位置に収まったものは、使いやすく、片付けやすく、ちらばりにくくなる。その「理想の位置」は、頭で考えただけでは出てこない。実際にものを使い、日々の生活をおくる中で、具合の良い位置を探って行かなければならない。
 この新しいクラスの教室は、まだまだ何をどこにおけば良いのかわかりきっていない。ちらばりやすく、一回一回の片付けに試行錯誤が必要なので、時間がかかる。ゆっくり教室内を見回し、ときに立ち止まって考え事をしながら、もの静かな先生は、放課後のひと時を過ごしている。
一つ一つの座席にすわる生徒の顔を、一人一人思い浮かべながら、何事かを考え続けている……
(第三章おわり 第四章につづく)
posted by 九郎 at 22:57| 図工室の鉄砲合戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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