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2014年04月19日

出遅れた新学期1

第二章「出遅れた新学期」

 ラストスパートで階段をかけ上ると、始業チャイムの余いんが残っているうちに、6年1組の教室にかけ込むことができた。一時間目の授業にはすべりこみセーフだが、朝のホームルームには間に合わなかった。
 あ〜あ、やっと学校へ来れたと思ったら、いきなり遅刻か……
 コーサクはおそるおそる教室を見まわした。
 始業式からの最初の三日間を病欠していた彼にとって、初めての教室だ。もしかしてまちがった部屋に入っていないかと緊張したが、窓ぎわの席にタツジンの姿をみとめて一安心。
 タツジンがこちらに気付いて「よ!」と片手をあげている。コーサクも背中のランドセルを指さしてみせる。ここに「新兵器」の輪ゴム鉄砲が入っているというゼスチャーなのだが、もちろんタツジンにはすぐに通じたようだ。
 あらためて教室を見回してみるが、担任の先生の姿がない。生徒たちは思い思いのグループに分かれて、まだガヤガヤと私語を交わしている。
「鈴木くん、おひさしぶり! もう風邪は治ったの?」
 すらりと背の高い少女が声をかけてきた。長い髪を後ろでまとめ、いかにも活動的な様子だ。「鈴木くん」というのは、コーサクの本名のことである。
「鈴木くんの席はこっち。さ、急いで急いで! ほらランドセルはロッカーへ!」
 いきなり仕切り始める。
(ああ、クラス委員はやっぱり神原になったのか……)

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 すらりとした少女の名前は神原シオネ。成績優秀、スポーツ万能、おまけに容姿端麗ときている。ちなみに「容姿端麗」は「ヨウシタンレイ」と読み、「ルックスが良い」という意味の、むずかしくてカッコいい表現である。
 ことわざに「天は二物を与えず」というのがあるが、ときとして神様は、一人の人間に平気で二つも三つも才能を与えるという不公平をする。神原シオネなどは、その良い見本だ。
 6年生にもなると、クラス委員に選ばれる顔ぶれはけっこう決まってくる。浦小6年生の場合、だいたい女子では神原シオネが選ばれ、男子では学校一の秀才・殿山マサルが選ばれることが多い。ただ、殿山マサルの場合、あまり社交的とは言えないマイペース型なのが玉に傷。低学年のころは単純に一番勉強のできる殿山マサルがクラス委員に選ばれていたが、学年が上がるとともに、面倒見の良い神原シオネの出番の方が増えてきた。
「一時間目の算数は、先生が用事で自習になったの。はい、これプリントね。三枚あるから、ほらほら、今確認しといてよ!」
 ぽん、ぽん、ぽん、とたたみかけ、コーサクにしゃべるすきを与えない。バスケのドリブルのようなリズムで、神原シオネの仕切りは続く。こういうところが、ヨウシタンレイであるにもかかわらず、いまいち男子からは評判のよろしくない原因である。そのかわり女子の間では、男子を仕切りたおす痛快な姿が大人気で、バレンタインデーにはチョコが段ボール一杯分届いたりする。
「それでね、鈴木くんは算数係に決まったから、一時間目は前の席に座って、みんなにプリントをさせて、授業の終わりに全員分あつめといてね!」
(さんすうがかりぃ? なんじゃそりゃ!)
 コーサクは内心で悲鳴を上げた。始業式の日に休むと、変なクラス役員に勝手に決められたりしがちである。これで一学期の間、なんの興味も無い「算数係」を務めなければならなくなってしまった。
 続いて神原シオネはコーサクを黒板前まで連行し、そこにいたもう一人の算数係を紹介した。
「こちらは佐竹アキノブくん。転校生よ。こちらは鈴木ヒサトくん。仲良くね!」
 黒板の前にすわるそいつを前に、コーサクはおもわず息をのんだ。
 そいつはどうみても小学生には見えなかった。小学校の教室風景の中、まわりの子どもたちにくらべて、ひときわ目立つ体格。すわっていてさえ、その圧倒的なボリュームが伝わってきた。教室内で見なければ、とても小学生には見えなかっただろう。中学生、場合によってはそれ以上に見えたかもしれない。どこもかしこもまるまるとふくらんでいるのだが、目つきがけっこうするどくて、いかにも「あなどれない」という感じがする。
「じゃあ、あと、よろしくね!」
 それだけ言い残して神原シオネは軽やかに去った。コーサクはなんともコメントできないままに、超大型少年の隣の席に着いた。いかにも当惑気味の態度だったが、内心では少々事情がちがっていた。
(つづく)


posted by 九郎 at 22:56| 図工室の鉄砲合戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年04月20日

出遅れた新学期2


 そいつの顔を見た時、コーサクは心の中で「あっ!」と思った。瞬間的に「こいつとは友達になる」とわかったのだ。
 それはこれまでに何度か経験した感覚だった。友達になれる相手は、初対面で顔を見た瞬間に、わけもなくわかってしまうことがある。初めて会ったのに、どこかで会ったことがあるような気がする。そう度々あることではないが、今までに何人か、同じような感覚で「あらかじめわかった」友達がいた。
 今度の相手は、これまでに見たことのないような超大型少年で、しかも外見的にはとっつきやすい方ではない。見た目に圧倒されて、反発するか敬遠されることの方が多いことだろう。条件で言えばマイナスばかりだったにもかかわらず、コーサクは超大型少年に対して、理屈ぬきに好感を持ってしまった。
(こいつ、ぜったいいいヤツだ。まちがいない!)
 われ知らずほほ笑みながら、コーサクは隣の席に着いたのだった。
 当の超大型少年の方にとっても、コーサクの反応は予想外だったらしい。
かつてこんな風に、初対面でニコッと笑いながら自分に接近してきた相手はいない。たいていは自分の体格に、なんらかの驚きの反応を示すはずなのだ。
 少々とまどいながら、この小柄でメガネをかけた少年が隣の席にすわるのを見ていた。ただ、その内心のとまどいは、表情にはまったくあらわれず、ブスッとしたままだった。 

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「バンブーでいいぜ」
 超大型少年がぼそりと言った。
「バンブー?」
 コーサクはつられたようにきいた。どう接したらよいか対応に困っていたところだったので、この際相手のほうから話しかけてくれるのはありがたい。
「おれのあだ名だ。前の学校でそう呼ばれてた」
「へ〜」
 本名はたしか「佐竹アキノブ」だったっけ。なんでそれが「バンブー」に?
 コーサクの内心の疑問に答えるように、「バンブー」は解説してくれた。
「佐竹の『竹』は、英語で『バンブー』なんだってよ。前の学校で英語が得意だったやつがそう言ってた。名前もアキノブで、最後に『ブ』がつくからな。だからバンブーだ」
「あ、そうなんだ」
「あと、おれ太ってるからな。ブーでいいんだ」
「……」
 ちょっと返事に困るコーサク。
「おまえはなんていうんだ?」
「ぼく? ぼくはまあ、コーサクって呼ばれてるけど」
「コーサク? なんで? だっておまえ鈴木ヒサトだろ?」
「うん、でも工作ばっかりやってるからコーサクなんだってさ」 
 バンブーはちょっと笑った。
「なんじゃそりゃ。そのままじゃん!」
「うん、そのまま」
 コーサクもつられてちょっと笑った。
 しばらく会話がとぎれた。
 先生不在の教室はだんだん空気がゆるんできて、子供たちは立ち歩いたりし始めている。算数係としては注意をうながしてプリントをさせなければならない場面なのだが、あいにく当の算数係の二人に全くその意欲がない。自習を仕切る仕事はほったらかしにしながら、プリントの問題を解くともなく解いていると、またバンブーがぼそりと言った。
「コーサクって、頭良いのか?」
「え? べつに勉強はふつうだけど、なんで?」
「いや、なんか、かしこそうだから」
「ああ、これかけてるから?」
 コーサクはちょっとずれたメガネを指先でなおしながら答えた。
「勉強で目が悪くなったんじゃないんだ。生まれつき弱視でね」
「……そうなのか?」
「でも今はもう、メガネはずしてもほとんどふつうに見えるんだよ。昔は視力の訓練もしてたんだけどね」
「……」
「工作で細かい作業の時は、まだかけてた方が楽だしね。あと、いったん『メガネかけてるヤツ』で通っちゃうと、はずすのがなんか色々めんどくさくて」
「ふーん……」
 また、しばらく会話がとだえた。
 話題を変えようと、コーサクは殿山マサルを指さして言った。
「一番勉強できるのは、ほら、あいつ」
 指された当人はかなりざわついてきた教室の空気とは無関係に、いかにも優等生らしく勉強中だ。配られたプリントはもう終わってしまったらしく、問題集を取りだして、独自の勉強を始めている。
「殿山マサルだから、みんなにはトノサマって呼ばれてる。あと、さっきのクラス委員の神原も、かなり勉強できるよ」
「ああ、あの女な」
 バンブーはさして興味もなさそうに答え、それから教室のうしろの方にたむろしている一団を指さして言った。
「あいつらは、どんなやつらなんだ?」
 指差した先には、ガッチリ、ノッポ、はしっこそうなチビの三人組を中心に、7〜8人のグループが、がやがやと談笑している。中心にいる三人組とバンブーの間には、その日の朝、少々バトルがあったのだが、もちろんコーサクはそのことを知らない。
「ああ、あの三人組ね。真ん中にいるちょっといかついのが織田ヒロト。ヒロトは漢字で大翔と書くから、みんなには『タイショー』って呼ばれてる」
 コーサクが自分のプリントのはしっこに「大翔」と書きながら説明した。
「名字が『織田』だし、キャラが大将っぽいしね」
「大将ねえ……」
 バンブーはフッと鼻で笑いながら言った。
「で、あいつって、強いのか?」
 コーサクは少し考えてから答えた。
「4年生ぐらいまでは、いじめっ子タイプだったけど、今はそんなに乱暴でもないかな。まあスポーツが得意だから、クラスで遊ぶときはリーダーだね」
 今も昔もクラスの中で「イケてる」男子は、スポーツマンタイプなのだ。
「あと二人、背の高いのが米田ノボルで『ノボ』、小さいのが相田キョウイチで『キョウ』。ああ、キョウは今でもちょっとけんかっ早いな」
「ま、大したことないだろ」
 コーサクは、しばらく前からキョウがちらちらとこちらを見ていることに気がついた。それはひじょうに「ジトッ」とした目つきだった。
「もしかしてあいつらと何かあった?」
「いや、べつに」
 それ以上「三人組」については会話を続けず、バンブーは話題を変えた。
「コーサクはどこのグループなんだ?」
「ぼくはグループとかめんどくさいから。あの窓ぎわにいるタツジン(土橋タツジ)とはよく遊ぶよ。あと、トノサマともよくしゃべる。でもまあ、一番はタツジンかな。二人ともクラブ活動は『達人クラブ』だしね。」
「タツジンクラブ? なんだそりゃ?」
「達人クラブっていうのはねえ、え〜と、ちょっと待って」
 コーサクは席を立ってロッカーまで走り、ランドセルからボール紙を二つ折りにしたものをぬきとってきた。
「クラブ活動なんだけど、今、作ってるのがコレなんだ」
 折ったボール紙を開くと、そこには今朝まで作り続けていた新作輪ゴム鉄砲が入っていた。
「うわ! 何それ! かっけー!」
 そこまでしゃべった時、神原シオネがつかつかと二人の方に向かってきた。
「ちょっと! のんきにしゃべってないで、みんなにプリントやらせなさいよ! もう一時間目終わっちゃうじゃないの!」
 しかしすでに手遅れで、終了チャイムが鳴り始めてしまった。きわめて不熱心な算数係のおかげで、クラスの大半が完成していないプリントを提出しなければならなくなってしまった。
(つづく)
posted by 九郎 at 22:29| 図工室の鉄砲合戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年04月21日

出遅れた新学期3


 一時間目の休み時間、コーサクはさっそく「新兵器」の輪ゴム鉄砲をタツジンに見せに行った。
 新しい得物を手にしたタツジンはすこぶるごきげんで、六時間目のクラブ活動の時間にさっそくためしてみようと約束した。
 二時間目以降は担任の斎木マモル先生も教室にもどった。コーサクは5年生のころから受け持ってもらっている先生である。
 まだ若く、おそらく三十歳には届いていないだろう。背がヒョロっと高く、細いふちのメガネをかけている。小学校の男の先生は、ふだんの授業をわりとラフな服装で行う人が多いが、斎木先生はいつもきちんとスーツ着用である。
 もの静かで、声を荒げて怒るということもない。授業はわかりやすいのだが、ギャグで笑わせるということが一切ないので、生徒の受けはいま一つだ。
「真面目でいい先生だけど、地味」
 それがおおかたの生徒の斎木先生評だった。
 さすがに先生がかえってきてからはだらけた雰囲気にはならず、午前の授業は過ぎて行った。
 お昼の給食をはさんで、午後の理科の時間は「雲の観察」だった。授業の前半、校庭に出て空の雲を観察し、後半で結果をそれぞれ発表する。
 よく晴れて、雲もてきとうに浮かんでおり、観察にはもってこいの天候だった。6年1組の生徒たちは三々五々、校庭に散らばってのどかな午後の授業を楽しんでいる。二子浦小学校は海辺の高台にあるので、南側は海への眺望が開けており、空は広くよく見える立地だ。
 コーサクは一人、雲の観察を始めていた。すべり台にねころんで空をながめると、視界が空の青と雲の白でいっぱいになる。雲は風に流れて、少しずつ形を変えながら移動している。風の方向は西から東、雲もだいたいはその方向に動いている。ずっと見ていると、自分が動いている気がしてくる。ぼーっと空をながめているのもそれなりに気分の良いものだったが、手持ちのプリントに気に入った雲のスケッチと観察記録をつけなければならない。さてどの雲にしようかなと物色しているうちに、ちょっと変わった雲を見つけた。
 その小さめの雲は、他の雲と動きが違っていた。ゆっくり西から東へ流れる他の雲とは無関係に、少し速いスピードで南から北へ動いていた。雲は風に乗って動くものなので、ふつうは一つだけ違う方向に流れたりはしないものだ。
(へ〜、こんなこともあるんだ)
 ちょうど良いと思ったコーサクは、その雲のことをプリントに記入した。

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 斎木先生の吹くホイッスルが校庭にひびいた。雲の観察時間終了の合図だ。一人で観察していたコーサクも、プリントを二つ折りにして立ち上がった。
 ホイッスルの音は十分聞こえたはずなのだが、生徒の動きはにぶい。クラス委員の神原シオネがここでも活躍して、まだその場から動き始める気配のない生徒たちに声をかけてまわっている。
 コーサクはその姿を眺めながら、いつかTVで見た牧羊犬のことを思い出したりしていた。
(つづく)
posted by 九郎 at 22:32| 図工室の鉄砲合戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年04月22日

出遅れた新学期4


 なんとかクラス全員が教室に戻ると、観察結果の発表が始まった。全員が発表する時間はないので、斎木先生の指名した何人かが、前に出てスケッチを見せながら観察内容を発表することになった。続けて二人の発表があったが、雲の形がちがうだけで、西から東へゆっくり流れていったという観察結果にはとくにかわりはなかった。
 コーサクが自分のプリントに目を落としながら、「へ〜、一つだけちがう動きをしていた雲には、みんな気づかなかったんだな」と思っていると、突然、斎木先生から声がかかった。
「じゃあ、次は鈴木くん。発表をどうぞ」
 まるで内心のつぶやきを読み取るようなタイミングだったので、コーサクはあわてて立ち上がった。
「は、はい!」
 突然の動きだったので、すわっていたイスが後ろにひっくりかえり、盛大な音を立てた。教室中がドッと笑いにゆれる。
(うわ、最悪!)
 冷や汗をかきながら黒板の前まであたふたと進む。
 コーサクは、一つだけ他とは違った動きをする雲があったことを、手元のプリントのスケッチを見せながら簡単に説明した。変わり映えのしない発表が続いていたので、少し毛色の変わった内容に、生徒たちも多少興味をひかれた。
「ほとんどの雲は同じように動くけど、中には変わった動きをするのもあるとわかりました」
 自分なりの結論をまとめると、クラスのみんなが感心しているのが伝わってきて、少しいい気分を味わうことができた。
(これでイスをひっくり返した失敗をばん回できたかな)
そう思っていたのだが、コーサクの幸せは長くは続かなかった。
「先生!」
 学校一の秀才・殿山マサル(通称トノサマ)が手を挙げて発言を求めた。
「はい、殿山くん。何か意見があるかな?」
 トノサマが立ちあがって意見を述べる。
「雲の動きは大気の流れで決まるので、鈴木くんが発表したみたいに一つだけちがう動きをするのはおかしいと思います」
(な、なにを言い出すんだトノサマ!)
 突然のつっこみに、コーサクはおどろいた。

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「まわりの雲が全部同じ方向に動いているのに、そこだけちがう方向の風が吹いていたとは考えられないです。もし本当にあったのなら、その理由が知りたいです」
 トノサマは、まゆ毛のあたりまでの前髪を指でサッと払いのけた。いかにも育ちのよさそうな顔立ちが、浮世ばなれした秀才にはお似合いだ。
「でも、でも、本当に見たんです!」
 必死で反論しようとするが、学校一の秀才と対決しても、世論は当たり前のように秀才の方にかたむいてしまう。さっきまでコーサクの意見に感心していた生徒たちが、手のひらを返してクスクス笑い始めている。笑っていないのは質問に立ったトノサマ本人と、真面目な神原シオネと、一番後ろの席で腕組みをしているバンブーと、窓際の席で外をながめているタツジンくらいのものだ。
「鈴木くんはウソの発表をするようなタイプではないと思います。その点は信用しているんですけど、ありえないことを目撃したというなら、何か見まちがえたんじゃないかと思います」
 とどめを刺すようなトノサマの結論。
「コーサクはまだ熱でもあるんじゃねーの!」
「幻覚でも見たのか?」
 ヤジが飛び、教室は爆笑の渦。何も言えないコーサクは立ち尽くすばかり。なんだか自分でも自分のことが信じられなくなってきて、ふと「僕が見たのはマボロシだったのか?」という気すらしてきた。
「はい、静かに静かに」
 斎木先生が事態の収拾にかかった。
「殿山くんの意見はもっともだ。でも、鈴木くんの実際の観察結果というのも、大事にしないといけないと先生は思います。見まちがいかどうかは簡単に決めつけずに、他の可能性がないかどうか、よく考えてみた方がいい」
 トノサマは少し首をかしげながらも、一応納得した様子で着席した。
「今日はもう時間がないから、この件は保留にしておきましょう。次の時間はクラブ活動だから、それぞれの教室にに移動すること。以上です」
先生がしゃべり終わるのと同時に、終業のチャイムが鳴りはじめた。
 チャイムに救われるコーサク。そう言えばこの先生はいつも、チャイムぴったりに授業を終わらせるよな、と変な所に感心しながら、ほっと一息ついた。
(つづく)
posted by 九郎 at 22:35| 図工室の鉄砲合戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年04月23日

出遅れた新学期5


 休み時間が始まった。
(やれやれ、ろくでもない目にあった……)
 コーサクは一人ため息をついた。
 いきなりの遅刻、勝手に算数係にされ、雲の観察ではバカあつかい。
 色々あったけど、ようやくお待ちかねのクラブ活動だ。
 しかし気持ちよく部活に向かうために、どうしてもい一言いっておかねばならないことがある。
 コーサクは殿山マサルの席へと、まっすぐむかった。
「トノサマ、かんべんしてよ」
「かんべんって、なんのこと?」
「ぼくらって友だちだよな? 友だちを授業中にやっつけることはないじゃん」
 トノサマは、心の底から不審そうに、こう言った。
「キミは友だちだけど、それと観察記録の正確さは、なんの関係もないよ」
(ああ、ダメだこりゃ……)
 わざわざ声をかけてみたものの、学校一の秀才と自分とでは、しょせん住んでいる世界がちがうことを確認しただけに終わった。
 タツジンはさっさとクラブの教室に行ってしまったらしい。
 待ってくれてもよさそうなものだが、タツジンはそういうキャラだからしかたがない。
 自分の友だちは、なんだかクールなヤツばっかだなと思った。
 どいつもこいつも、よく言えばマイペース、悪く言えば協調性がない。
 しかし考えてみれば、コーサク自身が少なからずそういう性格をしているのだから、他人に文句は言えない。
 そんなことを考えていると、バンブーが「ぬ〜」という感じで近づいてきた。
「なあコーサク、次のクラブ活動なんだけど、おまえがさっき言ってた『達人クラブ』とかいうのについて行っていいか?」
 そういえば転校生のバンブーにとっては、はじめてのクラブの時間だったなと、コーサクは気付いた。
「もちろん! じゃあ図工室までいっしょに行こうか」
「図工室?」
「うん、『達人クラブ』っていうのは、美術部の中で、工作メインでやってるグループのことなんだ」
「へ〜」
「まあ、グループっていっても、ぼくとタツジンの二人だけなんだけどね」
 コーサクは少し照れながら、そう言って笑った。

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(第二章おわり 第三章につづく)
posted by 九郎 at 20:36| 図工室の鉄砲合戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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