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2020年09月30日

「ブランコ一回転!」第二章3〜5


「ヒサト君、ちょっといいかな?」
 タツジンとそんな話をしている時、クラス委員の「トノサマ」が、なかま入りしてきた。
 トノサマも、ぼくとはけっこう仲が良い友だちだ。
 本名は殿山マサル。
 背がひょろりと高く、おぼっちゃん風で、名前のひびきがなんとなく「トノサマ」なのだ。
 ニックネームだけでなく、じっさい家は金持ちっぽい。
 地元で昔からつづいている旧家というやつで、古くて大きなお屋敷に住んでいる。
 成績バツグンの優等生で、いつもクラス委員をやっている。
 まわりのことはいっさい気にしないマイペースな性格だけど、おぼっちゃん育ちらしくおっとりしているので、きらわれはしない。
 けど、友だちはそれほど多くない。
 というか、友だちがどうとか、自分がどう思われてるとか、そういうことにトノサマ本人はぜんぜん興味をもっていないのだ。
 だから、トノサマほどではないけど、似たようなところがあるぼくやタツジンとは、多少ウマが合う。

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「キミがブランコで一回転を目指しているって聞いて、ちょっと興味が出て調べてみたんだよ」
 トノサマは言った。
「ネットでもいろいろ調べてみたんだけど、結論から言うと、ふつうのブランコをひとりの人間がこいでるかぎり、一回転というのは不可能みたいだね」
 ぼくやタツジンにおかまいなく、トノサマは自分の話に早くも夢中だ。
「理論的に、水平の高さまでは行けるんだけどね、それ以上こごうとしても、失速してもどっちゃうんだよ」
 ぼくはだまって話を聞きながら、頭の中ではいろいろ答えている。
(わかってるよ、「水平のカベ」だろ?)
(わざわざ調べなくても、じっさいやってみて、タツジンもぼくもそう思ったよ)
(タツジンなんて、ちょっと練習しただけで、すぐわかっちゃったよ)
(こっちはそこから先をなんとかできないかと、がんばってるんじゃないか!)
 ぼくはトノサマの説明を、ちょっとうんざりしながらも、一通りはうなずきながらきいた。
 トノサマなら、なにかぼくの知らない情報を探し当ててる可能性もあるからだ。
「不可能というか、けっこう危険みたいだよ。ムリして水平以上にこごうとすると、ブランコのクサリがたわんで、落下事故をおこすかもしれないんだって」
「でもよー、鉄棒で大車輪ってあるよな。あれはなんでできるんだ?」
 タツジンが口をはさむ。
「うん、あれはね、クサリやロープみたいな、たわむものじゃなくて、両腕でしっかり支えてるからまわれるんだって」
「じゃあ、クサリじゃなくて一本のしっかりした棒みたいなのでつってあるブランコだったら、一回転できるってこと?」
「理論的には可能だけど、大車輪みたいに自分の体重だけじゃなく、ブランコの板や、つってる鉄の棒の重さもプラスされるから、子どもの体力だけだと、むずかしいんだってさ。だれかに押してもらったりしたら、できるかもしれないらしいけど」
 さすがトノサマ、よく調べてきている。
 自分の興味が八十パーセント、ぼくへの親切心が二十パーセントってところかな。
 茶化したりするだけのやつらよりはぜんぜんマシだけど、基本的に「わかってないな」と、ぼくは思った。
 ぼくはなにも、調べて「正解」を知りたいわけじゃないんだよ……


 ぼくはちょっと話題をかえてみた。
「トノサマは、十年前の伝説の子どものウワサをどう思う?」
「ああ、十年前にブランコ一回転に成功した子どもがいるっていう、あのウワサ?」
「そうそう。あれはたんなるいいかげんなウワサ話なのかな?」
 トノサマは口もとに手をあてて、ちょっと考えた。
「そのウワサについて、調べるのはおもしろそうだと思うね」
「おもしろいって、どういうこと?」
「ちょっと整理してみようか。『十年前』というウワサは、かなり前からある。少なくとも、ぼくたちが小学校に入ったころには、もうあったよね。たぶん、もっと昔からあったんだろう。だから『十年』という数字自体は、ぜんぜんあてにならないね」
 ちょっとびっくりした。
 さすがトノサマだ。
 ぼくはそんなふうに考えたことは、今までに一度もなかった。
 トノサマはつづけた。
「ぼくたちがそのウワサをさいしょに聞いてからだって、もう四年たってる。マジメに考えたら、毎年一年ずつ数が増えていかないとおかしいけど、みんなそのまま『十年前』といいつづけてる」
「じゃあ、やっぱりいいかげんなウワサだったってこと?」
 トノサマは首をふりながら「まだそうとはいいきれない」といった。
「調べると、『ブランコ一回転に成功した子どもがいる』というウワサ話は、わりとあちこちにあるようなんだ。でも、本当に成功した子どもはいない。物理的にムリなんだから当り前だけど」
「じゃあ、やっぱり……」
「いやいや、ちょっとまって。気になるのは、うちの学校のウワサ話に、『十年前』という条件がついてることなんだ。これには、なにか意味があるのかもしれない。
 ぼくは『ブランコ一回転』が本当にできるとは思わないけど、『十年前』と区切ったウワサが、なぜうちの小学校にだけ伝わってるかということには興味があるんだよ」
 聞きながら、ぼくは感心していた。
 ブランコ一回転をじっさいやってみるんじゃなくて、調べて、考える。
 それがこんなに奥深いなんて。
 じつは、はじめのうちはトノサマの話を、ちょっとバカにしながら聞いてた。
 じっさいやりもしないで調べるだけなんて、なにがおもしろいんだと思ってた。
 でも今は、調べるっていうこと、考えるっていうことも、これはこれで、じゅうぶん冒険じゃないかって、そう思い始めている。
「昔の二子浦小学校を知っている人に話を聞いたら、何かわかるかもしれない。ちょっと調べてみるから、なにかわかったらまた話すよ」
 ぼくはトノサマにお礼をいった。
「そういえば、ぼくのお父さんはこの小学校出身だから、なにか知ってるかもしれないな」
 トノサマがすかさず質問してくる。
「ヒサト君のお父さんは、今何才?」
「たしか三十四才」
 うなずきながら、トノサマの頭はもう回転しはじめているらしい。
「タツジ君のお父さんは?」
「おれのおやじはたしか三十六才だけど、このへんの生まれじゃないぜ」
 タツジンが答える。
 トノサマはいった。
「うちのお父さんはこの小学校出身で、今四十五才。年代のちがう卒業生たちに話を聞けば、あのウワサがいつごろからはじまったのか、わかるかもしれないね……」
 トノサマすげー!
 ぼくは内心、舌を巻いた。


 そのとき、チャイムが鳴った。
 そろそろお昼休みがおわって、午後の授業が始まる。
 そのとき、ぼくはふと気づいた。
 そういえば、ぼくはあのなぞの美少年、レンのことを、さいごまで口にしなかった。
 べつにわざとじゃない。
 なんとなく話しの流れでそうなっただけなんだけど、気づいてみると、われながらちょっとフシギな気がした。
 タツジンやトノサマと、さんざんブランコ一回転の話をしたのに、なぜぼくはレンのことにふれなかったんだろう?
 わざと話さなかったというよりは、まったく思い出しもしなかった。
 あんなにインパクトの強い美少年だったのに……
 頭の中にレンのあの「ニッ」という笑顔が浮かんできて、なぜかちょっとゾクゾクしてしまった。

posted by 九郎 at 00:00| Comment(0) | ブランコ一回転! | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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