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2020年09月29日

「ブランコ一回転!」第二章1〜2

第二章


 翌日。
 九月二十六日、木曜日。
 ぼくは給食のあと、クラスの自分の席で、考えことをしていた。
 昨日の夕方、商店街の公園で出会った少年、レンのことが頭からはなれなくなっていた。
 だれもいない夕ぐれの公園
 とつぜんあらわれた、なぞの美少年
 思い返してみると、なんだか夢の中のできごとのような気がしてくる。
 そして。
 ブランコのロープが、上の鉄棒に一回引っかかっていた、あのフシギ……
 どうなんだろう?
 あれは本当に、ブランコが一回転したあとなのだろうか?
 ブランコのロープやクサリが、上の鉄パイプに引っかかってぶら下がっているという、たんにそれだけのことなら、今までにも見たことがある。
 自分でやったこともある。
 でもそれは、ブランコが本当に一回転したあとではない。
 すわる板の高さ調節などのために、持ち上げたりひっぱりあげたりして、回したものだ。
 ブランコの高さ調節なら、ほかにもいくつか方法がある。
 板の部分を縦にグルグル回転させてクサリにねじれを作り、そのぶん短くする方法。
 クサリの両方で輪っかを作り、板のはしっこを引っかける方法などだ。
 わざわざ板の部分を持ち上げて上の鉄パイプに引っかけるのは、一番めんどくさい。
 骨組みづたいに上までよじのぼって、ブランコをひっぱり上げなければならないし、元にもどしにくいので評判の悪いやり方だ。
 たまに実行するヤツがいたとしても、それは高さ調節というよりは、イタズラ目的だ。
 どちらにしろ、あまりそんなことをやるヤツはいない。
 昨日いなり公園で見たあれも、ふつうに考えれば、たんなるイタズラだったのだろう。
 美少年レン本人がやったのかもしれないし、たまたま先にイタズラされたブランコにのっていただけなのかもしれない。
 おとつい同じ公園に行った時には、ブランコにとくにかわったところはなかった。
 ここでぼくは、もうひとつ気になることを、思い出してしまう。
 それは、ぼくがブランコ一回転にチャレンジしはじめた夏休み明けごろから、きのうのブランコみたいに上の鉄棒に一回引っかかるイタズラが、あちこちの公園でみつかっていたことだ。
 ふつうはあまりやらないイタズラが、この一カ月近く連続している。
 小学生のあいだで「またやってるヤツがいる!」とウワサになっている。
 でも、犯行現場を見たヤツも、一人もいない。
 そしてあの、レンのこと。
 ニッと笑った美少年レンの、あやしいフンイキ。
 まるで体重がないみたいな、フワッとした身ごなし……
 連続イタズラ事件と、レンのあいだには何か関係があるんだろうか?

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「よう、ヒサト!」
 もの思いにふけっているところに、友だちのタツジンが声をかけてきた。
 タツジンの本名は、土橋タツジ。
 ニックネームどおり、色んな遊びの達人だ。
 ぼくとは1年のころからの友だちだ。
 今までハマってきた遊び、釣りもタコ上げもケンダマも、みんなタツジンにおそわった。
 およそ体をつかった遊びで、タツジンに苦手なことはない。
 背はぼくとおなじくらいでチビだけど、ぼくとちがって運動神経バツグンなんだ。
 ちょっと人見知りで無口、マイペースなところがあるので、友だちはあまり多くないけど、似たようなところがあるぼくとは、なんとなく話があう。
 じつは、今ぼくがハマっているブランコ一回転も、タツジンといっしょにはじめた。
 それは、夏休み明けの、タツジンのこんな一言がきっかけだった。
「ブランコで一回転って、ほんとにできるのかな?」
 ふつうに考えたらできないんだけど、ぼくたちが通う二子浦小学校には、ある「伝説」があった。
 子どもたちのあいだで広まっている伝説。
 本当かウソかよくわからないウワサ話。
 それは、かんたんにまとめると、こんな感じだ。
「今から十年前、ブランコ一回転に成功した伝説の子どもがいるらしい」
 けっこう広まっているウワサで、うちの小学校の生徒なら、たぶんだれでも一度は聞いたことがあるはずだ。
 もちろん、そんなウワサ話を、みんながそのまま信じこんでいるわけではない。
 低学年のころは、わりと本気で信じている子が多かった。
 ぼくもけっこう本気にしていた。
 けど、学年が進むとともに、だんだん本気にしなくなってくる。
 いくらブランコをこいでみても、だれ一人成功しないので、自然に「よくあるいいかげんなウワサ話」だと思うようになるんだ。
 そこを、もう一回やってみようとするのが、タツジンの変わったところだ。
 タツジンのいい分は、こうだった。
「一度できないと思ってしまうと、もうだれもチャレンジしなくなる。でも、低学年のころできなかったことでも、4年の今なら、できるんじゃないか? 逆に、もっと大きくなったらできなくなることも、今の体の大きさと力の強さのバランスなら、できることがあるんじゃないか? 鉄棒で大車輪ができるんだから、ブランコ一回転だって本当はできるんじゃないか?」
 それは、体を使った遊びの天才、タツジンならではの発想だった。
 だから、二人でチャレンジすることにした。
 自分ではできなくとも、タツジンならなんとかなるんじゃないかと思った。
 タツジンがそれを成功させるなら、その現場をナマで見たかった。
 ところが。
 一週間くらいトレーニングをつんだあと、タツジンは「うーん」と、うなった。
 そして、「ヒサト、わるい。これ、やっぱりできんわ」と、それだけいいのこしてやめてしまった。
 タツジンといっしょのトレーニングは、それきりになった。
 きっとタツジンにはタツジンなりの「見切り」がついたんだろうと思う。
 理屈ではなく、体を動かしてみた感覚で「できる」「できない」がわかってしまうのがタツジンだ。
 今までにも、いろいろチャレンジしてきて、できたこともあれば、できなかったこともあった。
 だからブランコ一回転をあきらめることも、たくさんの成功やたくさんの失敗の中の一つなので、べつにめずらしいことじゃない。
 天才のものの考え方、感じ方は、ぼくにはわからないけど、タツジンが「できない」と思ったのなら、たぶんそれは正しい。
 でも、ぼくはやめなかった。
 タツジンに引っぱられて、小さいころとはくらべものにならないほどブランコが高くこげるようになって、楽しくなってきてしまった。
 それに、なんとなくだけど、ふつうに考えつくのとはちがう、なにかべつの方法のようなものがあるんじゃないかと、そう思ったんだ。
「じゃあ、ぼくはもうちょっとやってみる!」
 そういって、あとは一人でつづけてきた。
 ぼくとタツジンは、いつもつるんでいるわけじゃない。
 どっちかというと二人とも、だれかとずっといっしょというのは苦手なのだ。
 つるむのは、もりあがった時だけでいい。
 あとはそれぞれ、マイペースでかまわない。
 ぼくとタツジンは、そういう友だちだった。
「それで、ブランコ一回転はどうなった?」
 とくにからかっているようすでもなく、タツジンが聞いてくる。
「おまえだったら、まともにこぐだけじゃなくて、なんか工夫しようとしてるんだろ?」
 さすがタツジンは、ぼくのことがわかってる!

posted by 九郎 at 00:00| Comment(0) | ブランコ一回転! | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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