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2014年05月03日

戦国まつり5


 来光寺へとのぼる石段の途中、何か所かある石垣の踊り場のようなところの一つに、「雑賀鉢」をかぶり、鎧を身につけた一団が、火縄銃をかついで整列した。
 ガシャガシャときしむ鎧の音が、静まりかえった会場に小さくひびく。担ぎあげた火縄銃はさすがに本物の迫力だ。かなりの重量があるらしいことが、鉄砲隊の動きからも伝わってくる。さっき担いでいた模型とは迫力が全然ちがう。
「火縄かけい!」
 采配を持った鎧武者の一人が、号令をかけた。
「構え!」
 ガシャガシャ、と鉄砲が同じ角度でならぶ。
「火ぶた切れ!」
 それぞれの鎧武者の右手が小さく動く。
「はなて!」
 ど っ ぱ ー ー ー ー ん
 銃口から盛大な火柱が走り、轟音が耳をつんざいた。
 粉雪のような灰があたりに舞い散り、硝煙が鼻をついた。
 せまい二子浦の湾内に、銃声のこだまが何度も返った。

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 コーサクをはじめとする、浦小の子供たちは、文字通り目を丸くし、口をポカンと開けたまま、その場に固まってしまった。日ごろしっかりしているトノサマや神原シオネまでが、驚きのあまり硬直してしまっていた。女子たちはせっかく持ってきているデジカメを使うことも、完全に忘れてしまっていた。
 子供たちばかりではなく、その場にいる大人も含めた全員が、「腰を抜かす」という言葉の意味を実感していた。
 あまりの音量、あまりの迫力。
(すげー! すげー! 火縄銃すげー!)
 火縄銃ってこんなんだったのかと、コーサクは本気で感動していた。
 たった数丁でこの迫力。
 戦国時代の合戦で数百、数千の鉄砲が乱れ打たれた時どうなるのか、ちょっと想像もつかない。
 それほど歴史にくわしくないコーサクでも、学習マンガなどを読んで、火縄銃について簡単な知識くらいはあった。そのイメージは、現在の銃にくらべてものすごく性能が悪く、連射もきかず、あつかいにくい原始的な武器というものだった。しかし、実際の発砲を見ると、そんなマイナスの印象は見事に吹っ飛んでしまった。
 これはものすごい武器だ! 火縄銃がこんなにすごいとは思わなかった!
「センセー、あれって本当に弾飛ばしてるの?」
 コーサクは、近くにいた三又先生に質問した。
「いや、火薬だけの空砲だろうな」
 一斉射撃に続いて、今度は連射の演武があった。例によって「火縄かけ、構え、火ぶた切れ、はなて!」の号令がかかり、采配者側から順に連続で発砲された。
 ダーン、ダーン、ダーン、ダーン、ダーン……
 引き金が引かれるたびに大音声がひびき、あたりに硝煙がたちこめる。様々に射撃パターンを変え、メンバーが入れ替わりながら鉄砲演武は続く。中には道着に袴姿、鉢巻も凛々しい若い女性の姿もあり、ぼう然としたまま演武をながめていたマンガ部女子三人組は、ハッとわれにかえり、今まで撮りそこなった分をばん回するように、デジカメのシャッターを切りまくった。
 やがて観衆の心をわしづかみにしたまま、鉄砲演武は終了した。
「和歌山市からおこしの、雑賀鉄砲衆の皆さんによる、鉄砲演武でした。皆様、盛大な拍手でお見送りください!」
 女性司会の声に送られ、鉄砲衆は退場した。
「こちらのステージの方は、午後一時までお休みとさせていただきます。会場内には色んなお店がございますので、皆様ぜひお楽しみください!」


 そのころ、来光寺から海の方へと突き出した小さな岸壁、今はもう使われていない老朽化した灯台の辺りにたむろする子供たちがいた。
 まん中の一人は背が高くがっちりしている。
 小学生ばなれした体格で、いかにもスポーツマンタイプ。肩幅がすばらしく広く、「ボス」のオーラをまとっている。
 脇を固める他の二人も、それぞれに一くせも二くせもありそうだ。
 一人は三人組の中では一番背が高い。こちらはやせたノッポさんで、細身の体だが、よわよわしい感じはない。走らせたら快速スプリンターだろうし、野球のピッチャーをやらせたら速球を投げそうな印象だ。
 最後の一人は背が低い。小柄だがバネの効いたフットワークで、いかにも動きが速そうだ。顔のあちこちには、これまでのケンカの勲章だろうか、薄く傷跡が残っている。
 名前はそれぞれ、タイショー、ノボ、キョウ。
 二子浦小学校6年、美術部の面々と同じクラスの「ボスグループ三人組」である。
 三人組は何やら話し合っているようである。
 身ぶり手振りを加えて主にしゃべっているのは小柄なキョウ。
 ボス格のタイショーは、腕組みをしながらそれを聞いている。表情にはとくになにも現れておらず、ただ黙ってキョウの言うことを聞いている。
 熱心に話すキョウの手には、何かがにぎられている。
 ピストル型のおもちゃで、どうやらフリーマーケットで売っていた連発式の輪ゴム鉄砲であるらしい。
「とにかく、やっちまえばいいんだよ!」
 断言するキョウ。
 タイショーはしばらくの沈黙のあと、ゆっくりうなづいたのだった。
(第四章おわり。第五章「寺内町と鉄砲衆」につづく)


posted by 九郎 at 23:00| 図工室の鉄砲合戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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