htjc00.png

2014年05月02日

戦国まつり4


「先生、ちょっとお店見てまわっていいですか?」
 神原シオネが、おずおずという感じで、斎木先生におうかがいをたてた。
「もちろん。開会式にはしばらく時間があるから、散歩してきていいよ。十一時半にステージ前に集合。多分アナウンスがあると思うけど、おくれないようにね」
 まだ十五分ほどは、自由行動できることになる。
 女子三人は連れ立って出発し、男子はそれぞれ思い思いに散策することになった。
 コーサクはふと、「神原シオネは学校で見るのとちょっと感じがちがうな」と思った。
 今日はあまり仕切らないし、子供っぽくはしゃいでいる。
 スーパークラス委員にも、オフの時間はあるのかもしれない。
 コーサクが目をひかれたのは、やはり手作りオモチャなどを並べた店先だった。
 コマや剣玉やダルマ落としなど、昔ながらの木製おもちゃの中に、輪ゴム鉄砲を発見したのだ。銃身の短いピストル型で、六連発式になっている。さすがに形は本格的な拳銃模型のようで、連発の仕組みも細工がこまかい。
(こういうのはちゃんとした工作機械がないとできないよな……)

htjc19.jpg


 コーサクが見本を手にとってかまえながら考えていると、お店の人が「撃ってみるかい?」と声をかけてくれた。やり方を教わりながら、輪ゴムを6本かけ、小さな的を撃ってみる。距離が近いので、6発中4発は命中する。コーサクとしては不本意な結果だったが、初めての銃で練習なしならこんなものかもしれない。
「お! なかなかやるな!」
 お世辞もあるだろうが、それでもお店の人はほめてくれた。コーサクは連発式の仕組みについて質問しながら、「たしかにおもしろいけど、でも……」と、考え事をしていた。値段は800円で、買えなくはないけど、小学生にはちょっと高めだ。結局買わずに、お礼だけ言ってお店を後にした。
 いろんなお店の品物をのぞきながらぶらついていると、ちょっと気になる光景が目に入ってきた。
 同じクラスのタイショー(織田ヒロト)、ノボ(米田ノボル)、キョウ(相田キョウイチ)の三人組が、会場内をあるいていたのだ。
 三人組は単に遊びにきただけのようだったが、金曜日のキョウとの一件がある。また何か言われるかなと警戒したが、向こうはこちらに気づいているのかどうか、とくに何事もなく時間は過ぎて行った。


 午前十一時半になり、開会式のアナウンスがあった。浦小の面々や、ほかの参加者もわらわらとステージ前に集まってきた。
 ビーチの一角の、岸壁をくりぬいたようになっているところに作られたステージに、簡素な黒衣に身を包んだ来光寺のお坊さん、大西浄道さんが上った。
 お坊さんとはいえ、頭はツルツルではなくて、短く刈り込まれた髪が生えていた。大柄でがっしりしており、えらの張った頑丈そうな顔立ちは、こう言っては失礼だけど、お坊さんというより山賊の大将みたいな感じがした。
「本日は、皆様おいそがしい中、第一回『二子浦来光寺戦国寺内まつり』にご参集いただきまして、まことにありがとうございます」
 応援団みたいなガラガラ声だったが、まずは神妙な調子であいさつは始まった。
「こちら来光寺は戦国時代、大坂石山本願寺を中心とする一向一揆勢力の海上交易の拠点、寺内町として繁栄しておりました。かの織田信長公と一向一揆勢が互角の戦いをくりひろげた『石山合戦』においては、紀州雑賀水軍と、中国毛利水軍の連携の要所として、戦略上、重要な役割も果たしてきました」
 お坊さんの口調は、しだいに熱を帯びてくる。
「戦国時代の寺内町は、武士、農民、商人、職人、芸能民、山の民、海の民など、さまざまな民衆が身分の差を超えて、ともに自由自治を作り上げておりました。
 海運でもたらされた文物で市はにぎわい、人の交流で最新の情報が集まり、新しい芸能が生まれる文化発祥の地でもありました。石山合戦終結、一向一揆の敗北によって寺内町の夢は破れましたが、いまこそ夢をもう一度、かつての熱とにぎわいをよみがえらせるための『祭』を企画したしだいでございます。どうか皆様、本日は存分にお楽しみいただけますよう、祈願してやみません。簡単ながら、以上で開会のご挨拶とさせていただきます。ありがとうございました!」
 お坊さんが合掌して一歩さがると、あちこちからパラパラと拍手があがった。「割れんばかりの拍手」とはいかなかったが、それなりに盛り上がっていた。
 だまって聞いていたコーサクは、お坊さんの言葉に、ちょっと興味をひかれていた。大人向けの挨拶だったのでむずかしいところはよくわからなかったが、それでも話の大筋は聞きとることができた。織田信長といえば、日本史のなかでも一番有名な人物だ。その信長と互角に戦った人たちが、かつてここにいた……
 わが町ながらなんとも地味だと思っていた港町に、そんな歴史があったのかと、少しほこらしい気分になっていた。他の浦小の面々もそれは同じだったらしい。とくに歴史に詳しいトノサマは、熱心にメモを取りながら話に聞き入っていた。
「それでは続きまして、紀州雑賀鉄砲衆の皆様によります、鉄砲演武です!」
 女性司会の声がひびいた。いよいよ火縄銃による演武が始まるのだ。
(つづく)


posted by 九郎 at 23:00| 図工室の鉄砲合戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。