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2014年05月01日

戦国まつり3


 ビーチに広がるフリーマーケットの風景をぬけ、来光寺が近付くと、昔ながらの縁日の露店風景の一画もあった。
 お祭の中心、二子浦来光寺は、ビーチから石段を上ったところにある。自然の岸壁と、人工の石垣が入り混じった斜面に、つづら折りの急な石段が刻まれている。お寺の背後には地元で「殿山」と呼ばれる小さな岩山が続いていて、ゴツゴツとした岩肌から松の木などがまばらに生えている。昔は小さなお城があったということなのだが、そんな痕跡はほとんど残っていない。岩の間にちらちら見える石垣が、わずかにそんなイメージを伝えてくるだけだ。
 ちなみに、学校一の秀才・殿山マサルは、お寺の背後に続く「殿山」の、北側のふもとに住んでいる。けっこう古くから続く、地元ではちょっと知られた旧家のお坊ちゃんなのだ。
 お寺のすぐ下にある石垣のところには大きな横断幕が吊られている。「二子浦来光寺 戦国寺内まつり」と、なかなか迫力のある筆文字で大書してある。
「戦国てらうちまつり?」
 コーサクが首をかしげながらつぶやくと、横から斎木先生が解説してくれた。
「戦国寺内まつりの『寺内』は、『じない』と読むんだよ。話によると戦国時代の二子浦は、来光寺を中心にした『寺内町(じないまち)』として栄えた歴史があるんだってさ。殿山にあったというお城も、寺内町と一体のものだったそうだ」
「へ〜、そうなんですか……」
 コーサクは一応うなずいたが「お城とお寺が一体のものだった」と言われても、もう一つピンとこなかった。
「まあ、そのあたりは後ほどお坊さんに解説をしてもらうとしよう」
 するとそのとき、話し声をさえぎるほどの大音声がきこえてきた。

 ぼおおおお〜〜〜〜
 ぶをうお〜〜〜〜〜
 どんどこどこどこ
 どんどこどこどこ

 空気をゆるがす法螺貝と太鼓の音に、周囲の雰囲気が一変する。
「お! いよいよ鎧武者行列がきたな!」
 いつの間にか、三又先生も合流していた。
「センセー、お店どうしたの?」
「そろそろイベント開始だろ。どうせお客もこっちに集まるから、店は休憩だ」
 チャリティーなので、あまり商売熱心にもうけるつもりはないらしい。
「あの武者行列は、駅前からここまで、三十分ぐらいかけて行進してきてるんだぜ。このお祭は今年が第一回目だから、この辺の人もさぞびっくりしただろうな」

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 一体どこから集まってきたのか、鎧武者の行列はけっこう人数がいて、小さな二子浦ビーチはしばしものものしい鎧武者に占領されたような格好になった。
「すげー、こんなに鎧を持ってる人がいるんだ……」
「コーサク。あの甲冑行列は、皆さんが全部自分で作って着てるんだぜ」
「えっ! そうなの?」
 がぜんコーサクのテンションも上がってくる。「自作」と聞いては、工作マニアの血が騒いでくる。あとでぜったい作り方を教えてもらおうと決心する。
 マンガ部の女子三人は、それぞれ手持ちのデジカメで熱心に撮影を始めている。お気に入りの武将が前を通りかかると、キャーキャー手をふりながら、シャッターを切りまくる。あれはオダノブナガ、あれはナオエカネツグなどと、鎧兜の形から読み取ってチェックしている。三人とも「歴女」の名に恥じぬ知識量だ。
 通過する行列を見ながら、三又先生はコーサクの肩をポン、と叩いた。
「おまえも作ってみたいか?」
「うん! やりたいやりたい!」
「そうか! ああいうコスプレならマンガ部の女子三人も食いつくかもしれんな。よーし、今度、美術部で作ってみるか……」
「小学生でもできるの?」
「この人たちはたぶん、材料にアルミ板を使ってるみたいだから、ちょっとむずかしいな。でもおれがちゃんとやりやすいように考えてやるから、ま、心配すんな! 授業でやるのは難しいけど、美術部メンバーなら、なんとか作れるだろ」
 そのうち、白いのぼりをはためかせた十人ほどの鎧武者が行進してきた。今まで通り過ぎて行った色とりどりの派手な甲冑姿にくらべると、黒づくめのその一団はちょっと地味に見えた。しかしよく見ると、頭の上が平らで前後にやや長いその兜は、なかなか渋いカッコよさがあることがわかった。そして何より、みんな火縄銃の模型を担いでいるところが目を引いた。
「あの兜、ちょっと変わってるだろ。『雑賀鉢』っていうんだ」
 三又先生が解説してくれる。
「さいかばち?」
「そう、あの三本足のカラスのマークが、有名なヤタガラスだな」
 その一団のかかげる白いのぼりには、黒々とカラスのようなマークが染め抜かれており、「雑賀衆」と大書してあった。
(さいがしゅう? ゲームやマンガに出てくる雑賀孫市の?)
 コーサクはゲームをあまりやらないので、記憶が不確かだったが、信長の敵役としてそんなのがいた気がする。
 そう、たしか鉄砲を武器にしていたはずだ。
「あれが、今日の鉄砲演武を見せてくれる、和歌山の『雑賀鉄砲衆』の皆さんだ」
「え? でも、あの火縄銃は、なんだかつくりものみたいだったよ」
「バカ、本物の銃を街中で持ち歩けるわけないだろ! 行進にはああいう一目でオモチャとわかるやつしか使えないんだよ。後でちゃんと本物も撃ってくれる」
 あれこれしゃべっているうちに、鎧武者の行列は通り過ぎて行った。
(つづく)


posted by 九郎 at 22:07| 図工室の鉄砲合戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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