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2014年04月25日

マンガ部と達人クラブ2


 コーサクとバンブーが到着するととも、ちょうど六時間目のチャイムが鳴った。図工室に入ると、すでに女子部員たちは集まって活動を開始していた。
 メンバーは神原シオネ、花村ナオミ、小島ハルカの三人だ。
 神原シオネは言わずと知れた6年1組のスーパークラス委員。勉強、スポーツにプラスして、絵まで描ける。ついでに言うと容姿端麗だ。
 花村ナオミはマンガ・イラストの実力派。一学年上のセミプロ先輩が卒業した後は、誰もが認める「浦小で一番絵が上手い女の子」になった。おとなしく真面目な性格。基本、いつも笑顔だ。
 小島ハルカは、ギャグタッチのかわいいキャラクターを描くのが得意。そして、ちょっと浮世ばなれした「不思議ちゃん」でもある。
 全員6年1組だが、6年生は2クラスしかないので、部員がみんな同じクラスというのはとくに珍しいことではない。
 女子部員三人は、これまでの作品をまとめた冊子作りにいそしんでいた。机を六つほど並べて広い作業台を作り、これまで描きためたマンガやイラストを広げながら、ページ割りについてあれこれ相談している。セミプロ女子先輩を中心にもりあがっていた前の6年生がごっそり抜けたあとなので、なんとか新5年生をどっさり勧誘しようと、はりきっている。
 部屋に入ってきた男子二人に気付いて、女子三人はしばし手を止めて顔をあげた。神原シオネはコーサクについてきたバンブーの姿に少しおどろいたようだったが、すぐにニコッと笑って手を振ってきた。コーサクは軽く手をあげてこたえたが、バンブーはあいかわらずぶすっとしたままだった。
(バンブーは女嫌いなのかな?)
 言葉には出さずに、コーサクは今日初めて会った転校生の性格について考えていた。女子に興味がないという小6男子は、別に珍しくない。この年代の男子は、まだまだ男の子同士で遊ぶのが楽しいし、女子はそんな男子を「子供っぽい」と思って、ちょっとバカにしているのがふつうなのである。

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 教室窓際の電動工具が並んでいるあたりでは、はやくもタツジンが自分の輪ゴム鉄砲で射撃訓練を開始していた。いかにも孤高の達人らしく、新人勧誘などにはまったく興味がないようだ。
 タツジンはいつものように、戦国武将をモデルにしたフィギュアを的に、射撃訓練にはげんでいた。以前は消しゴムなどを適当に並べて的に使っていたのだが、ガシャポンで戦国武将のシリーズを見つけて以来、それを集めて使用している。輪ゴム鉄砲の的としては、大きすぎず、小さすぎず、フィギュアの頭部のあたりにうまく的中させないとたおれないので、訓練にはもってこいなのだ。なにより、いかにも「いくさ」をしている雰囲気が味わえるのがよかった。
 机を三つ、横一列に並べ、そこに適当な間かくでフィギュアを配置する。近すぎると外れ弾が隣に当ったりするので練習にならない。技をみがく修行は、あくまで自分に厳しくあらねばならない。
 並べた机の下から背後の壁にかけては、広くブルーシートがかけてあって、撃った輪ゴムの後始末にそなえてある。このあたりは同じ教室で活動しているスーパークラス委員、神原シオネの強い指示による。「後片づけまでちゃんと自分たちでやってよね」というわけである。
 タツジンが今、手にしているのは、前にコーサクと一緒に作った、割りばしを材料にしたものだ。かなり工夫し、改良に改良を重ねた一丁で、割りばしを材料にしている中では最高と思われる性能をほこっていた。3メートルほどの距離では、タツジンならまず間違いなく百発百中。コーサクでも八割方、当るレベルまで達していた。小気味よく戦国フィギュアを撃ち抜いていくタツジンを見て、バンブーは思わず「すげーな」とつぶやいた。
 男子なら誰でも射撃術には興味がある。それがたとえオモチャの輪ゴム鉄砲でも、目の前で見事な腕前を見せられれば、自分でもやりたくてうずうずしてしまう。男の子には生まれつき、そういう狩猟本能がそなわっているのだ。
 タツジンがふと手を止めて、バンブーの方をふりかえった。
「やってみる?」
 割りばし鉄砲を差し出した。コーサクはちょっと意外な感じがした。タツジンが自分の方から他人に話しかけるのは珍しいのだ。よほどバンブーの様子が興味津々に見えたらしい。
「おお、やりたいやりたい!」
 まよわず鉄砲を受け取り、輪ゴムをひっかけて構えてみる。鉄砲を持つ右手を前に突き出した、半身の構えだ。ためしに引き金を引いてみる。
 ビシュン、と空気を切る音がするが、輪ゴムは的のはるか下、机の足の間を飛んで行ってしまう。二発、三発とくりかえしてみるが、どうしても弾は下へ下へと流れていく。
「バンブー、片手撃ちは難しいから、左手を鉄砲にそえてみなよ」
 コーサクが身ぶりをまじえてアドバイスする。
 輪ゴム鉄砲の射撃術で最初に問題になるのが、引き金を引く瞬間だ。何も考えずに引き金を引くと、その動作で銃口が下がってしまうので、弾は的の下へ飛んで行く。だからできるだけ銃身をしっかり固定して、そっと引き金を引かなければならない。どうしても右手が力みがちになるのだが、むしろ銃身を固定する左手をしっかりさせ、右手の指先は力を抜かなければならない。このあたりは、カメラで「手ブレ」をふせぐための心がまえとよく似ている。
 コーサクのアドバイスにしたがってみると、なるほど輪ゴムが机の下をくぐるようなことはなくなり、何発かに一回は的に当たるようになってきた。
「輪ゴムを鉄砲に引っかけるところから気をつけた方がいいよ。左右どちらかだけ引っぱると、飛ぶ方向が狂ってくるから、なるべくまっすぐ引っぱって」
 これも、やってみるとすぐ効果があらわれる。
 コーサクのアドバイスは続く。
「輪ゴム鉄砲はそれぞれクセがあるんだ。ねらったところからどんなふうにずれるかよく観察してみるといいよ」
 あるていど上達すると、今度は割りばしと輪ゴムいう材料自体の問題点が分かってくる。威力を増すには、まず弾になる輪ゴムを限界近くまで伸ばさなければならない。すると、銃本体にかなり強い力がかかることになる。その輪ゴムの力に対して、材料の割りばしは弱すぎるのだ。輪ゴムを引っかけた時点で、銃身がゆがんでしまっているので、なかなかねらった所に飛ばなくなる。
 それに、もともと輪ゴム鉄砲はまっすぐ飛ぶわけではなく、的との距離が離れるほど、やや落ちて下の位置に飛ぶものなのだ。
 対策としては、ねらった所と実際に飛ぶ位置のずれをあらかじめ計算に入れることが大切になる。たとえば「的から右に2センチ、上に1センチ」という風に、最初からねらいをずらすことによって、実際の命中率を上げることができるのだ。
 ふたたびコーサクのアドバイスに従って試射してみると、だんだん的に命中するようになってきた。
「なるほどなあ……」
 バンブーは感心した。外れる理由を筋道立てて説明してもらうと、短期間にみるみる効果が上がり、がぜん面白くなってきた。
 輪ゴム鉄砲ぐらいは、自分でも今までに何度か作ったことがあった。それなりに楽しかったが、何発か撃ってみたら、すぐにあきてしまった。まさか練習次第でこんなに上達するとは、思ってもみなかった。なにより、上達のためのコツを言葉で説明して人にわからせてしまうコーサクに感心していた。
「コーサク、そろそろ新兵器を見せてくれよ」
 バンブーが十分にハマるのを見てとってから、タツジンが声をかけた。
(つづく)


posted by 九郎 at 22:52| 図工室の鉄砲合戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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