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2020年10月10日

「ブランコ一回転!」第五章7〜9


「どうだった、ヒサト。おもしろかった?」
 休憩時間に入ってから、ぼくの様子をうかがうようにおばあちゃんが聞いてきた。
「うん、すごくおもしろかったよ!」
「ああ、よかった! 時代劇が好きで、剣道も習っているヒサトなら、きっと気に入るだろうと思ってたけど、実はちょっと心配もしてたのよ。ほら、他に子どものお客さんはいないからねえ……」
「とくに花蓮さんと蓮蔵さんの戦いに迫力があって、こっちは見てるだけなのに息が止まりそうだった」
「そうそう、この劇団は殺陣の迫力で人気なんだよ。花蓮さんも蓮蔵さんも、昔から天才的に体が効いたからね」
「昔から?」
「二人とも小学生のころから子役で舞台に立っててね、派手なアクロバットで人気だったんだよ」
「へ〜、そうだったんだ」
「お芝居はこれで終わったけど、この後、第三部のグランドショーがあるよ。本当をいうとね、おばあちゃんはお芝居より最後のショーの方が好きで楽しみなんだ。そういうファンの人、けっこう多くてね」
 劇団がやってる「大衆演劇」だけど、お芝居がメインじゃなくて、ショー目当てのお客さんが多い?
 またちょっと頭が混乱してきたけど、おばあちゃんは例によって「見ればわかる!」と笑っていた。
 ぼくにお芝居の感想を聞くまで、実は不安があったそうなんだけど、今度は本当に、自信たっぷりの様子だった。


 あくまでお客さんへのあいさつ、軽目の顔見せという感じだった第一部のミニショーとちがって、第三部のグランドショーは、出演する役者さん全員の「本気モード」が見えた気がした。
 衣装や照明が豪華だったし、踊りや芸も全開だった。
 一応「和風の見た目」はベースにしてあるけれども、BGMは演歌もPOPSも洋楽もなんでもありで、お客さん本位の自由な雰囲気は相変わらずだった。
 これでもかこれでもかというほど演目はつづき、中でも主役級の花蓮さんと蓮蔵さんの二人は出番が多く、どちらか一人は常に舞台に立っているような状態だった。
 この「白蓮座」は、とにかくこの二人をカッコよく、きれいに見せるための劇団なのかもしれないと思った。
 そして、第三部も中盤にさしかかった時、ぼくは登場したある役者さんに目をうばわれた。
 三味線をかき鳴らすBGM、はげしいスモークの中から現れたのは、全身黒づくめの衣装に、目のあたりだけ開いた覆面を被った忍者、それも、細身で小柄な子供の忍者だったのだ!
「あら、なつかしい! 少年忍者じゃない!」
 となりの席で、おばあちゃんが小さく叫んだ。
「少年忍者?」
「この劇団の子役はね、アクロバットを活かした『少年忍者』の演目で舞台デビューすることが多いんだよ。花蓮さんも蓮蔵さんも、最初はそうだったの。花蓮さんが二十年くらい、蓮蔵さんが十年くらい前だったっけ……」
 おばあちゃんは昔を思い出しながら言った。
「そうか、もう新しい子役さんが出てくる時代になったんだねえ……」
 話している間にも、舞台上の忍者少年は、はげしいアクションをくり広げていた。
 前転、後転、側転、宙返り、バック宙なんかをおりまぜながら、はげしく動き、はげしく踊り狂っている。
 腰にさした短刀を抜き、大人の役者さん数人の敵役を相手に大立ち回りを演じる。
 舞台セットのあちこちから、消えては出、出ては消える。
 小柄な体格を活かして神出鬼没、まるで手品みたいな大活躍だ。
 覆面で顔は見えないけれども、年かっこうは、たぶんぼくと同じくらいに見える。
 それなのに、お客さんが大ぜいつめかけた舞台で、自由自在に跳ね回り、歓声を浴びている。

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 すごい!
 すごい!
 こんなすごい子供が、本当にいるんだ!
 感動するのと同時に、ぼくの頭の中には、ここ最近の様々な出来事やシーンが、高速で再生されていく。
 そして、パズルのピースが次々にはまるように、きれいに一つの「絵」が組みあがっていく……

 あっ!
 あっ!
 あーーーーーっ!

 心の中で声が上がる。

 自分と同じ年かっこうの、小柄で細身な「少年忍者」!
 大衆演劇専門の劇場と、その近所のいなり公園!
 アクロバットの天才一家!
 花蓮さんは「カレン」さん!
 蓮蔵さんは「レンゾウ」さん!
 そして……

 なぞの美少年「レン」!!

 ブランコ一回転!!

 ぼくは思わず、客席から立ち上がってしまった。
 その時、舞台上の少年忍者が、一瞬だけ立ち止まり、きらりと光る眼でこっちを見た、
 ……ような気がした。


 その後も演目はつづき、劇団「白蓮座」九月公演、楽日昼の部、第三部グランドショーは、クライマックスへとなだれ込んでいった。
 最後の演目はやっぱりこの人、女座長・浪川花蓮さんの独演舞踊だった。
 今までにもまして派手な衣装、照明の中、BGMだけは静かな邦楽、はじめはゆったりしたテンポで、花蓮さんは舞い始めた。
 途中、片袖でサッと顔をぬぐう仕草を見せた次の瞬間、花蓮さんのあのきれいな顔が、突然恐ろしい般若の仮面に変わった。
 そしてしばらく舞った後、くるりとふり返ると、また元の花蓮さんの顔。
 般若の仮面はどこにも見当たらない。
 BGMが徐々にアップテンポになってくると、花蓮さんの舞いもはげしくなってくる。
 大きくジャンプしてしゃがみこみ、伏せた顔をサッと上げると、そこには牙をむき、つりあがった目の狐面。
 人間ではないケモノの舞がしばらく続き、くるりとふりかえるとまた元の顔。
 般若。
 狐。
 花蓮。
 少しずつ変身のテンポは上がっていく。
 花蓮。
 般若。
 花蓮、狐。
 狐、般若、花蓮。
 花蓮、狐、般若、狐、花蓮。
 最後にはもう、ほとんど一挙動ずつ、クルクルと顔が入れ代わる。
 そして……
 タンッ!
 BGMが突然消え、闇の中、無音で浮かび上がった花蓮さんの両手には、それぞれ般若と狐の仮面がかざされている。
 その両手の仮面も、花蓮さんがくるりと手を回転させた瞬間、魔法のように消えてしまった。
 潮が満ちるように歓声と拍手が起きて、幕は閉まっていった。

 短いアンコールの後、ぼくは夢見心地のまま、おばあちゃんと劇場を後にした。
posted by 九郎 at 00:00| Comment(0) | ブランコ一回転! | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする