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2020年10月05日

「ブランコ一回転!」第三章5〜8


 夕方、いなり公園。
 ぼくが早めに着いたせいか、レンはまだ来ていなかった。
 今日も、公園にはほかにだれもいない。
 一人でクスノキの下のブランコにのりながら、ぼくはいろいろ、かんがえている。
 ブランコはあまり強くこがない。
 ぎりぎりいっぱいまで高くこいで、「水平のカベ」をこえようとは、もう思っていない。
 その方向で一回転はできない。
 それはこの二〜三日でよくわかったし、それより前からも、なんとなくわかってはいた。
 タツジンが見切りをつけた時点で、もう半分ぐらいはできないとわかっていたし、トノサマの情報や、マサムネ先生の話を聞いて、のこり半分もなっとくできた。
 ケガをするとわかり切っていることは、さすがにもうできない。
 それでもまだ、ぼくはブランコをこいでいる。
 不可能だとわかっても、その先にまだなにかあるんじゃないかと、そう考えているぼくがいる。
 タツジンは、天才的な運動神経や体の感覚で、一回転は不可能だと見切りをつけた。
 トノサマは、こまかく調べ上げることで、うちの学校の伝説をほとんど解明してしまった。
 その先に行くとしたら、何がある?
 タツジンでもトノサマでもなく、ぼくだけにできることってなんだろう?
 昨日のレンを思いかえす。
 意味はよくわからなかったけど、ブランコ一回転について話しながら、みごとにブランコをけりあげて見せたレン。
 まだちゃんとたしかめてはいないけど、レンはたぶん「ブランコ一回転」について、なにか知ってる。
 すくなくとも、ぼくと同じように、一回転という不可能なことを、なんとかしようとしている。
 レンは、タツジンと同じか、それ以上の運動の天才だ。
 ただ、タイプはちがう。
 野球のピッチャーにたとえるなら、タツジンは直球勝負で、レンは変化球投手みたいな気がする。
 まともにぶつからないで、かわして技でなんとかするタイプではないだろうか。
 同じ運動の天才でも、タイプのちがいが、ブランコ一回転に見切りをつけるかどうかのちがいになっている。
 ぼくは、どうか?
 運動の才能はあまりないから、くらべるとしたらトノサマだ。
 トノサマはなんでも真正面からまともに調べ上げて、一直線に、最短距離で正解をさがそうとする。
 運動と勉強のちがいはあるけど、タイプでわけるなら、トノサマはタツジンと同じ、直球勝負タイプだ。
 ぼくは?
 ブランコにゆられているうちに、ハッとひらめくものがあった。
 そうか、わかった!
 ぼくは、「ものの見方」の変化球投手なんだ!
 なにか解けない問題があったとき、見方を変えて考える。
 まっすぐ見ないで、横から、ななめから、ときにはうらがわ、逆方向からながめてみる。
 真正面からの正解じゃなくても、結果が同じなら、それで良しとする。
 そういうところがある。
 そして、そういうところは、あのレンの、つかみどころのない態度と似ているかもしれない。
 そこまでかんがえて、ふと公園の入り口の方を見ると、そこにレンが立っていた。
 ニッと、笑っていた。
 その顔を見ると、ぼくの心のチャンネルは切りかわってしまう。


「昨日いってたあれ、どういうこと?」
 二人ならんでブランコにのりながら、ぼくは聞いた。
「あれってなに? オレ、なんかいったっけ?」
「ほら、あれ。『やるヤツがいて、それを見るヤツがいる』っていうの」
 レンは小首をかしげながらいった。
「ああ、そんなこともいったかなあ……」
「いったよ。『そこにカギがある』ともいってた」
「うん、なんとなく思い出してきた」
「教えてよ」
 レンは少し考えてから、いった。
「ヒサトはマンガとか、本とか読むだろ?」
「読むよ。けっこう好きだ」
「映画とかお芝居は?」
「たまに見るくらいなら」
「見て、面白いと思う?」
「う〜ん、面白いのは面白いし、つまんないのはつまんない」
「そりゃそうだ」
 レンはぼくの答えに、プッとふきだした。
「じゃあ、マンガや本や映画、なんでもいいから、面白いの限定で聞くけど、ヒサトはそういう作品を見て、本気で笑ったり泣いたりする?」
「するする! そうなるのが面白い作品ってことでしょ!」
「でも、作品ってことは、本当じゃないってことだよな?」
「まあ、作りモノだよね」
「作りモノを見て本気で笑ったり泣いたりするって、ちょっとフシギじゃないか?」
「いわれてみればそうかも。ウソから本当の心が作られるってことだもんね」
「やってることは本当じゃないんだけど、やる方と見る方の間で、本当のことの幻が生まれることがある。それがカギだ」
「それは、ブランコ一回転のこと?」
「それもあるけど、それだけじゃない」
 そこまでいって、レンはふっと目をそらした。
 フワッとブランコからとびおりる。
 例の、体重がないみたいな動きだ。
「……ちょっと長く話しすぎた。もう行かなきゃ」


「明日は土曜日だけど、来れる?」
 ふりかえったレンが聞いてきた。
「ごめん、明日はちょっと……」
 ぼくは答える。
「午前中習い事で、お昼からは映画を見にいくんだ。お母さんといくから、そのあと買い物とかで、おそくなるかも」
「そうかあ……」
 レンは少しうつむいた。
 レンががっかりしてるみたいに見えたので、ぼくはあわてていった。
「あさってだったら、一日あいてるよ。ゆっくり遊ぼうよ」
「ごめん。おれ、日曜日もこの時間しか遊べないんだ」
 申しわけなさそうにいう。
 ぼくはわざと明るく答えた。
「ぜんぜんいいよ! じゃあ、あさっての五時ごろ、ここでいい?」
「うん、それから……」
 レンは少しくちごもる。
「なに?」
「う〜ん、やっぱりいいや! 日曜日、ぜったい来てくれよ!」
「うん、ぜったい来るって!」
 今日はレンより先に、ぼくがブランコを立った。
 公園入口の自転車にまたがってふりかえると、ブランコから立ったレンが、こっちを見ていた。
 ぼくが「バイバイ」と手をふると、レンもニコッと笑って手をふった。
 そろそろわかってきたけど、レンには二つの笑顔がある。
「ニッ」という、あやしい笑顔と、「ニコッ」という、あやしくない笑顔。
 今は、あやしくない方の笑顔だった。
 思ったより暗くなってしまった帰り道、ぼくは自転車をとばして家へといそいだ。

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 夜。
 フロ上がりのぼくは、リビングにむかった。
 フロに入ってるとき、物音と声で、お父さんが帰ってきたのがわかった。
 今は晩ごはんを食べてるはずだ。
 ぼくのお父さんは地元出身で、ぼくと同じ二子浦小学校に通っていた。
 今、三十四才。
 小学生が七才から十二才までだとすると、お父さんが小学校に通っていたのは二十二年以上前ということになる。
 マサムネ先生から教えてもらった「最初のブランコ事件」と、ちょうど重なってるんじゃないか?
 もしかしたら、事件のことを知ってるんじゃないか?
 というのが、トノサマの意見だ。
 お父さんは、今、一人でお酒を飲みながら晩ごはんを食べている。
 タイミング良く、お母さんは洗たく中だ。
 今なら洗たく機の音で、ブランコ一回転の話をしても聞こえないだろう。
 お母さんがいるとまずいけど、お父さんなら、ブランコ一回転のことを話してもだいじょうぶだろう。
 うまくいけば、ノリノリで教えてくれるかも……
posted by 九郎 at 00:00| Comment(0) | ブランコ一回転! | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする