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2020年10月02日

「ブランコ一回転!」第三章1〜4

第三章


 翌日、九月二十七日。
 金曜日の放課後だ。
 トノサマ、タツジン、ぼくの三人は、梶原マサムネ先生のいる体育準備室にむかった。
 マサムネ先生は体育の担当、ものすごく体の大きなオジサン先生だ。
 なんでも若いころは、けっこう有名な柔道の選手だったらしい。
 怒ると、ものすごくこわい。
 怒っていなくても、こわい。
 顔がこわい。
 声や話し方が、もうこわい。
 できればあんまりお近づきになりたくないんだけど、今日はしかたがない。
 トノサマの調べによると、先生の中で、一番昔からの二子浦小学校を知っているのがこの先生なのだ。
 なにしろ、二十年くらい前から知っているそうなので、例の「伝説のブランコ一回転」のウワサ話のことを質問するなら、マサムネ先生をおいてほかにいない。
 体育準備室は、体育館の中にある。
 ぼくとタツジンは、ふだんからよく怒られているので、ここは優等生のトノサマを先頭におしたてて、うしろにかくれるようにつづいた。
 トノサマは、ぼくたちとちがって、ほとんど怒られたことがない。
 だから、タツジンとぼくがなにをそんなにこわがっているのか、ぜんぜんわからないようだった。
 わからないことを先生に質問しにいくのに、なんのえんりょがいるものかと、平気で前へ進んでいく。
 もう少しゆっくり歩いてくれた方が心の準備ができるのだけど、そんなことをトノサマにいっても、どうせわかってくれない。
 ぼくたち三人は、歩きながら、これまでにわかったことを確認した。
 まず、トノサマの報告は、こうだ。
「ぼくのお父さんは、そんなウワサ聞いたことがないって。お父さんは今四十五才だから、三十年以上前には、例のウワサはなかったということになるね。まあ、昔のことだから、たんにお父さんがわすれてるだけって可能性もあるけど。ヒサト君はどうだった?」
「うちのお父さんは、昨日帰りがおそかったから聞けなかった。でも、今夜はたぶん、聞けると思う」
 残る一人、タツジンのお父さんは、地元出身ではない。
「う〜ん、今のところ、大して収穫なしだね。これはマサムネ先生に期待だなあ」
 トノサマはますます足をはやめ、ぼくとタツジンはしぶしぶそれについていく。
 しばらくして、体育準備室に到着した。
 開いていたドアから中をのぞきこむぼくたちを、古びたソファにすわった梶原マサムネ先生が、じろりとにらんだ。
「なんだおまえら」
 やっぱり、こわい。
 何もしゃべらないうちから、もう怒られているような気がしてくる。
 ぼくとタツジンは、トノサマをたまよけのシールドとして前にグイッとおしやった。
「梶原先生、おいそがしいところ、失礼します。ちょっと質問したいことがあるんですけど、今いいですか?」
 さすがトノサマ。
 先生に対してちゃんとした言葉づかいができる。
 マサムネ先生も、こちらにむいてすわりなおして「まあ入んなさい」と、部屋にまねきいれてくれた。
 でも、「こわくない」マサムネ先生は、そんなに長くはつづかなかった。

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「なにい! 十年前にブランコ一回転に成功した伝説の子供だと!」
 マサムネ先生は、トノサマの質問に目をむいた。
「まだそんなバカなウワサがつづいてるのか! めんどうなことになってきたもんだ……」
 うでぐみしながら、ふきげんそうにつぶやく。
「じゃあ先生は、そのウワサを聞いたことがあるんですね?」
 トノサマがそう聞くと、マサムネ先生はちょっとすわりなおしてから、こういった。
「あのな、そのウワサ、たぶん出所はワシだ」
「えっ!」
 ぼくたち三人が、同時におどろきの声をあげる。
「先生がウワサ話を流した犯人なんですか?」
 ぼくが思わずそう聞く。
「バカ! 人聞きの悪いことをいうな!」
 一度声を荒げてから、思い直したようにトーンを落として言った。
「う〜ん……、仕方がないな。このさいちゃんと説明してやるから、よく聞いときなさい」
 マサムネ先生の説明は、こうだった。


「ずっと昔。そうだな、もう二十年以上前になるかな。この小学校で、ブランコで一回転しようとするのが大流行したことがあったんだ。なんでも当時、本当に一回転に成功した子どもが、いるとかいないとかいう話でな……」
「本当にいたんですか?」
 ぼくは思わず身をのりだした。
 マサムネ先生は、じろりとぼくをにらみつける。
「たんなるウワサだ。いいから、しばらくだまって聞いてなさい。第一、ブランコで一回転なんぞというのは、物理的に不可能なんだからな」
 トノサマはうなずき、ぼくはそっぽをむく。
 タツジンは無反応。
 マサムネ先生はつづけた。
「とにかく、ワシが教師になってすぐのことだったから、もう二十二〜三年前のことだ。
 当時、だれがいいだしたのか知らんが、ブランコで一回転した子どもがいるというウワサが一気に広まったことがあった。
 それでうちの小学校の生徒、とくにバカな男子連中が、われもわれもと一回転に挑戦しはじめてな。大流行になってしまった。
 遊びですんでるうちはよかったんだが、かげんのわからん子どものやることだ。
 ついにケガ人まで出て、さわぎが大きくなった。
 学校でも放っておけなくなって、『ブランコ一回転禁止!』となったわけだ。
 わざわざ全校集会を開いて、それが不可能であることと、いかに危険かということを説明して、放課後も校区内の公園を先生みんなでまわって注意したり、今思い出しても、あれは大変だった……」
「それで、どうなったんですか?」
「一応、そのときはそれでおさまったんだが、その後も何年かに一度、『ブランコ一回転の伝説の子ども』のウワサが広まるようになって、そのたびに生徒を集めて注意しなければならなくなったんだ。
 とくに、最初の事件から十年後くらいに、かなりウワサがもりあがったことがあってな。そのときにも、ちょっとケガ人が出た。
 ほうっておけないから、また全校生徒を集めて厳重注意だ。そのときにワシは、こう言ったんだ。『今から十年前にも、ブランコ一回転した子どものウワサが広まって、ケガ人が出たことがある。そういうことは危険だし、不可能だから、ぜったいにやらないように』とな……
 するとだ、それから後のウワサでは、『ブランコ一回転した伝説の子ども』に、『十年前』という言葉がつくようになってしまったんだ」
 ぼくたち三人は、意外な話の展開にちょっとおどろいた。
「ということは、先生の注意が伝言ゲームみたいに伝わるうちに、変なふうに省略されて、『十年前にブランコ一回転に成功した伝説の子どもがいる』というふうに、広まってしまったということですね?」
 トノサマの推理に、マサムネ先生がうなずく。
「おそらく、そういうことだろうな。まったく子どもというのは、テキトーでこまる。しかし、ここ数年ウワサを聞かなかったと思ったら、また広まり出しているんだな……」
 うでぐみをしているマサムネ先生を見ながら、ぼくは、こういうのが「苦虫をかみつぶしたみたいな顔」というのかなと思った。
「いいか、おまえら。おかしなウワサを真に受けて、ブランコ一回転なんて、ぜったいにやっちゃいかんぞ。ウワサを流すのも禁止だし、流してるヤツを見かけたら、ちゃんと注意しとくんだぞ。本当に、たのむぞ」
 いつもこわい先生が、さいごの方は、ぼくたちにすがりつくような話し方になっていた。
 よほど昔の事件でひどいめにあってきたんだろう。
 ぼくたち三人は、お礼をいって、そそくさと体育準備室をあとにした。
 これ以上ねばって、話の流れでぼくが一回転に挑戦中であることがバレたりしたら、また話がややこしくなる。


「今の話、どう思った?」
 歩きながら、ぼくはトノサマに聞いてみた。
「う〜ん。うちの学校の『ブランコ一回転伝説』が、二十二〜三年前にはじまったらしいことはわかったし、それに『十年前』という条件がついた理由も、たぶん解明できたね。一応、うちの学校に伝わってるウワサの由来は、全部説明できてたと思うよ。」
「じゃあ、これで解決ってこと?」
「……それでもいいんだけどね。まだちょっとだけわからないことも、のこってる」
「わからないことって?」
「そもそも二十数年前の最初の事件のとき、なぜケガ人が出るほどブランコ一回転が大流行したのかっていう、スタート地点がはっきりしないね」
 たしかに、一回転を目指してみても、普通はこわくなって途中でやめるので、ケガをするところまでは行かない。
「でもよー、おまえ昨日、ブランコ一回転のウワサだけだと、けっこうどこにでもあるっていってたじゃん。だったら、そこは大して問題ないんじゃねーの?」
 これはタツジンの意見。
 トノサマはうなずく。
「そうだね。ケガ人が出るほどもりあがったってところは気になるけど、ぼくはまあ、なっとくしてるよ。あと、なにかわかるとしたら、ヒサト君のお父さんだね」
「うちのお父さん?」
「キミのお父さん、三十四才だったよね。さっき先生の話を聞いてて気づいたんだけど、最初のブランコ事件が二十二〜三年前だったとしたら、ちょうどキミのお父さんの小学生時代と重なってるんじゃないかな?」
「34―22=12か。ほんとだ。うちのお父さんが五年生か六年生のころになるね」
「もしかしたら、最初の事件を直接知ってるかもしれないよ。だから、あとはヒサト君のお父さんの情報次第って気がする」
 いつもながら、トノサマの分析には感心する。
 ぼくたちは、校門のところでわかれて、それぞれ帰ることにした。

posted by 九郎 at 00:00| Comment(0) | ブランコ一回転! | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする