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2020年10月01日

「ブランコ一回転!」第二章6〜8


 その日の放課後も、ぼくは一人、トレーニングだ。
 お昼のトノサマの話で、まともにこいでブランコで一回転するのは、どうやらムリらしいということはわかった。
 まあ、うすうすわかってはいたんだけど、今日はじめて、頭でなっとくできた。
 それはそれとして、ぼくは少し前から、まともに一回転するのじゃない工夫をさぐりはじめていた。
 一回転じゃないけど、一回転。
 そんな方法が、きっとあるはずだ。
 ものの見方をかえるんだ。
 そして、ものの見方をかえるには、今のふつうのものの見かたを、最後の最後までつきつめなくちゃいけない。
 今できるのは、トレーニングをつづけることだ。
 一通りコースを巡るころには、太陽がかなりかたむき、風には冷たさがまじってきている。
 ついこの間まで夏休みのような気がしていたのに、もうずいぶん「秋」だなと思う。
 こういう冷たい風が吹く時間帯も、どんどん早まってきているような気がする。
 まだ夏服のままなので、ちょっと寒い。
 ブルッと身ぶるい一つしながら、ぼくはトレーニングコースの最後にむかう。
 いなり公園だ。
 駅前商店街をぬけながら、思わず知らず、ぼくはドキドキしてきている。
 ぼくはいつの間にか、いなり公園のブランコにむかう目的が、トレーニングのためなのか、レンともう一度会うためなのか、わからなくなってきた。
 あいつ、本当に今日も来ているのだろうか?
 いっしょにブランコに乗ることができるのだろうか?
 もうすぐ公園に到着する。
 飲食店の角を曲がると、時代劇をやっている劇場が見えてくる。
 あいかわらずハデな色のカンバンが見えてくる。
 そして、そのカンバンの横の路地をまがると、もうすぐにいなり公園がある。


 公園が近づくと、ブランコをこいでいる音が聞こえてきた。
 一人ブランコをこいでいる少年が見えてくる。
 遠くからでもすぐわかる。
 あのなぞの美少年、レンだ。
 うすぐらくなってきたビルの谷間の公園に、今日もレンは一人でいた。
 ぼくが公園入り口あたりに自転車を止めると、気づいたレンもブランコを止め、「ニッ」と笑った。
 あの、あやしい笑顔だ。
「来たよ!」
 ぼくはそれだけいって、さっそくレンのとなりのブランコにのる。
 たくさん聞きたいこと、話したいことがあった気がするんだけど、ぜんぶ頭からとんでしまった。
 そもそも、ぼくとレンは昨日会ったばかりで、少し話して、いっしょにブランコにのっただけだ。
 まだ「友だち」といえる自信は、ぼくにはない。
 ぼくのほうは、一目見たときからレンのことが気になってしかたがなくて、できれば友だちになりたいと思っている。
 でも、レンはどう思っているのか、わからない。
 レンの笑顔を見ると、ぼくはなんにもいえなくなった。
 だからさっそくブランコをこぎはじめる。
 そんなぼくを、レンは自分のブランコにすわって、だまって見ている。

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 しばらくこぐと、ブランコのふりは大きくなり、だんだん「水平のカベ」に近づいていく。
(もう少し、もう少し……)
 そして、前の方にゆれきったちょう点で、足もとのブランコの板がふっと消えてしまったような感じになる。
 水平のカベだ。
 それ以上はちょっとこわくなって、こげなくなってしまう。
 頭ではいっしょうけんめいなんだけど、どうしても体の方がついてこない。
 怖さから、体に勝手にブレーキがかかってしまう。
 やがてぼくはあきらめ、立ちこぎをやめる。
 まだ大きく動き続けているブランコの板にすわり、一息ついて、ブランコが自然に止まるまでのゆれに身をまかせる。
 同じだ。
 いつもここで行きづまる。
「そう、そこからどうするかなんだよね」
 レンがいきなり声をかけてきた。
「ブランコ一回転のカギは、そこ」
 まるでぼくの頭の中を、そのままのぞきこんでるようなことばだった。
「ヒサトはどう思ってる? そのまま力まかせってわけじゃないんでしょ?」
「まともにぶつかってもできないってことは、よくわかったよ」
 ぼくは答える。
「このままだと、たぶんケガする」
「そうだね」
 レンはブランコからおりて、まわりにある鉄パイプのさくの上に、スッと立つ。
 両手でバランスをとることもなく、むぞうさに歩いていく。
 やってることはつなわたりに近いはずなのに、レンの動きだけ見てると、道路の白線の上を、なにげなく歩いているだけみたいだ。
 やがてさくのさいごまで歩くと、フワッと地面にとびおりた。
 そして、さっきまで自分がのっていたブランコのうしろにまわり、すわるためのプラスティック板を、グンッと、ける。
 押すような、のびのあるけり。
 ブランコが、たった一発のけりで、大きくスイングする。
 もどってくるブランコに、レンは次々にけりを入れていった。
 細くて長い足が、おどるように回転しながら、ブランコを加速させていく。
 ただ力まかせに足をぶつけてるんじゃなくて、もどってきたブランコが再び前にゆれもどす動きにあわせて、うまく自分の足の力をプラスしているのがわかる。
 公園のブランコを足でけりまくっているのに、レンのけりのフォームがきれいなせいか、少しも乱暴には見えなかった。
「ヒサトは、なんでここのブランコで一回転にチャレンジしてるの?」
 けりながら、息も切らさずレンが聞いてくる。
「……材料が軽くて、低いから」
「やっぱり、そこまでわかってたんだね」
 レンは連続してけりを入れながら、じわじわ前に移動していった。
 そして、前にふりきったブランコの、ほとんど真下まで移動したとき、ブランコのふり幅は、ちょうどぼくの考える「水平のカベ」の状態になった。
 レンはさいごに一つ、大きな動きでブランコにけりをいれると、スッと横に身をかわした。
 一瞬あとに、さっきまでレンが立っていた位置に、ガシャンと音を立てながらブランコのプラスチック板が落ちてきた。
「やるヤツがいて、それを見るヤツがいる。そこになにかカギがあるはずなんだ」
 ひとり言のように、そういった。
「ごめん、ヒサト」
 レンはこちらをふりかえった。
「オレ、そろそろ行かなきゃ」
 レンの動きに見とれたようになっていたぼくは、ハッとわれにかえった。
「レン、明日も来れる?」
 今日はぼくのほうからきいてみた。
 レンはニコッと笑った。
「もちろん!」
 あまりあやしくない笑顔だった。
「じゃあ」
「うん、また明日」
 レンはそのまま音もなく、公園から走り去った。
 劇場の角を曲がって、姿は消えていく。
 ふと気づいて、レンがのっていた方のブランコのロープを、下から上へと目でなぞった。
 今日は、上の鉄の骨組みに、引っかかってはいなかった。


 その夜、晩ご飯を食べたあと、ぼくは洗いものをしているお母さんに聞いた。
「今日はお父さん、何時くらいに帰ってくる?」
「今日はちょっとおそいみたい。九時半ぐらいかな」
 話を聞くのはちょっとムリか。
「じゃあ、明日は?」
「明日はそんなにおそくならないと思うけど、どうしたの?」
「いや、ちょっと聞きたいことがあって」
「聞きたいことって?」
「うん、昔の二子浦小学校について調べてるんだ」
 ぼくは「ブランコ一回転」のことをかくしながら話すのに苦労した。
 お母さんにバレると「あぶない」とか「校区外の公園に行くな」とか、いろいろ話がややこしくなるに決まってるので、なんとかごまかさないといけない。
「なにそれ、宿題かなにか?」
 ちなみにお母さんは、うちの小学校出身ではないので、ブランコ一回転のウワサについて聞く必要はない。
「え〜と……」
 ぼくはほんの一瞬だけ、答えを考えた。
 お母さんはぼくの悪事を見抜くことにかけては達人だ。
 ほとんど超能力者みたいに感じることがある。
 なので、よけいなことはいっさい話さないにかぎる。
 そして、ウソはいけない。
 ウソをつくと、言葉のはしっこが弱くなって、すぐばれる。
 答えるのにあまり長い時間をかけてもいけない。
「宿題ってわけじゃないんだけど、トノサマが昔の小学校について調べてて、その手伝いなんだ」
 今、ぼくはべつにウソはついていない。
 ただ、全部はしゃべっていないだけだ。
「トノサマって、殿山マサル君?」
「そうそう!」
 トノサマの名前を聞いて、お母さんは一安心したようだ。
 さすが優等生のクラス委員は、うちの親にも信用がある。
 こういうときは、タツジンの名前は出さない方がいい。
 今まで何回もいっしょにあぶない遊びをして、おこられてきた前科がある。
 これ以上よけいなことをしゃべってボロが出ないうちに、ぼくはさっさとフロに入ることにした。
 明日の夜、お父さんに話を聞けば、なにか新しいことがわかるかもしれない。

posted by 九郎 at 00:00| Comment(0) | ブランコ一回転! | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする