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2014年05月23日

「図工室の鉄砲合戦」あとがき

 先月から連載してきた「図工室の鉄砲合戦」、ようやく完結しました。
 最後まで読んでくださった皆さん、ありがとうございます。
 私の運営する本家ブログ縁日草子読者の皆さんが多いことと思います。
 神仏にまつわるあれこれを、折々の興味のままに節操なく描き続けてきた私ですが、本作「図工室の鉄砲合戦」には、久々に「今自分が持っている全て」を投入できた感がある、とても気に入った作品です。
 今回、自分で絵をつけてネット公開できたことは、これはこれで現時点でベストの形だったのではないかと思います。
 絵については、一応児童文学である「この作品向けの絵柄」を、一から探りながら描いていった感じです。
 40枚ほど描いてようやく肩があたたまってきた所で完結になってしまったので、まだちょっと描き足りません(笑)
 せっかくキャラクターの顔立ちやプロポーションが安定してきた所なので、すでにアップした絵の手直しや、表紙絵、各章の扉絵など、今後もぼちぼち続けていきたいと思います。
 
 年齢的なものもあると思いますが、最近子供の頃のことをよく思い出します。
 本作「図工室の鉄砲合戦」は、小学生の頃の自分や友人たちのことを、現在の私が夢の中で思い出しながら、一緒になって遊び狂ったような作品でした。
 執筆を思い立ってから第一稿完成までの数ヵ月間、本当に楽しかったことが記憶に残っています。
 また懲りずに何か描けたらいいですね。

 このブログ「放課後達人倶楽部」は、今後も断続的に記事をあげていきます。
 こちらの特設ブログでは、本家「縁日草子」のようなアヤシイ記事はありませんので、小中学生にも安心してお勧めください!

 それでは本家「縁日草子」ともども、よろしくお願いします!


posted by 九郎 at 22:57| Comment(0) | 図工室の鉄砲合戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年05月22日

浦小鉄砲合戦始末記4


 やがて下校時間になった。
 図工室に集まっていた美術部メンバーも、てきとうに片付けて校舎を出、校門のところで「バイバイ」して、それぞれの家路についた。バンブーがみんなとわかれてしばらく歩くと、一人になるのを待っていたように、背後から声がかかった。
「よう」
 ふりかえると、そこにはタイショー、織田ヒロトの姿があった。
 今回は一人である。いつものような「三人組」ではない。
「……なんか用かい?」
 バンブーが答える。両者、しばらくの沈黙。
 別に用ってわけでもと、タイショーがガリガリと頭をかいた。
 そしてしばらくの沈黙のあと、こう言った。
「なんつーか……バンブーって呼んでもいいか?」
 ふとバンブーの表情がゆるんだ。
「……いいぜ、タイショー」
「ああ、そう」
 再び両者沈黙。
「……まあ、そんだけ。じゃあな」
 それだけ言うと、織田ヒロトはさっさとその場を後にしたのだった。


 そろそろ日のかたむいた6年1組の教室に、たった一人、担任の斎木マモル先生の姿があった。
 もう下校時間はずっと前に過ぎており、教室にも校庭にも、生徒の姿は一人もない。
 まだ午後五時前なので、職員室にはほとんど全ての先生が残っているが、それ以外の校舎内はガランとして静まりかえっている。
 斎木先生は、自分の教室をゆっくり巡回しながら、生徒による掃除が行きとどかなかった所を清めたり、ゆがんだ机をまっすぐ直したりしている。

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 斎木先生はきれい好き、片付け好きだ。
 お片付けは、単に目の前のものを整えたり収納したりすれば良いというものではない。
 それぞれのものには、それぞれに座りの良い場所というものがある、と斎木先生は考えている。
 理想的な位置に収まったものは、使いやすく、片付けやすく、ちらばりにくくなる。
 この新しいクラスの教室は、まだまだ使いこみが足りないので、何をどこにおけば良いのかわかりきっていない。
 ちらばりやすく、一回一回の片付けに試行錯誤が必要なので、時間がかかる。
 それでも新しいクラスがスタートして約一週間たった今、それなりに、ものの配置の方向性は見えてきたような気もする。
 ゆっくり教室内を見回し、ときに立ち止まって考え事をしながら、このもの静かな先生は、放課後のひと時を過ごしている。一つ一つの座席にすわる生徒の顔を、一人一人思い浮かべながら、何事かを考え続けている……

(「図工室の鉄砲合戦」完)

posted by 九郎 at 22:21| 図工室の鉄砲合戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年05月21日

浦小鉄砲合戦始末記3


 翌朝、登校したコーサクを待っていたように、殿山マサルが話しかけてきた。
「鈴木くん、ちょっといいかな?」
 手には何やら大きな図鑑を持っている。
「なんなの、トノサマ?」
「ちょっと、このページ見てくれる?」
 それは地球の大気の断面図を、見開きで図示したものだった。
 図の下の方には陸や海の様子がうすく描かれ、上の方には宇宙空間を表現する暗い星空が描かれている。そしてその中間の青空の部分には、様々な高さに様々な形の雲が描かれ、大気の流れの方向が矢印であちこちに書きそえてある。
「ほら、前の金曜日、理科の時間に、雲の観察をやったじゃない? あの時、キミがほかの雲とちがう動きをするのが一つだけあったと発表しただろう?」
「ああ、あれはもういいよう。きっとぼくの見まちがいだよ」
 コーサクは、ややうんざりしながら答えた。
「ちがうんだよ! かんちがいしてたのはぼくの方だったんだ。ほら、この図を見てごらんよ」
 なんなんだ、と思いながらコーサクはトノサマの開いた図鑑をのぞきこむ。
「地面から空を見上げると、雲はどれも同じような高さを飛んでるように見えるよね? でも、この図を見ればわかる通り、一言で『空』と言っても、ものすごく高度に幅があるんだね。だからそれぞれの高さで大気の動きはそれぞれちがって当たり前なんだよ」
「ということは……」
「そう、キミの観察通り、飛んでる雲の高度によっては、ちがう方向に流れるんだよ。だからこの前はごめん!」
「いや、いいよもう雲の話は……」
「ダメだよ! まちがってたことはちゃんと訂正しないと!」
 コーサクは苦笑した。やっぱり、秀才って、普通人と感覚がちがうよな……
「ほんとは一昨日くらいに気づいてたんだけど、例の鉄砲合戦さわぎで頭とんじゃってて。ぼくってほら、なにか一個気になりだすと、それに夢中になっちゃうから。報告が遅くなってごめんね」
 結局、こいつもいい友達だったんだなと、コーサクはあらためて思った。
「それから昨日の合戦中に佐竹くんが言ってた言葉、ぼくにも意味教えてくれないかな? ほら、キミが急に復活して百発百中になったやつ」
「闇夜に霜が降る如くってやつ?」
「そう、その言葉」
「いいよ。あれはね、戦国まつりのときに雑賀孫末さんが伝授してくれた、戦場での射撃の心がけのことなんだよ」
 それからコーサクとトノサマは、朝の時間を熱心に話しこんですごしたのだった。
    

 その日の放課後、図工室。美術部の面々が集まっている。新5年生の勧誘にむけて、そろそろクラブの代表を決めなければならないのだ。
 スーパークラス委員・神原シオネが、まず最初に意外な提案をした。
「あたしはコーサクくんがやったらいいと思う」
「え? なんで!」
 コーサクがおどろいて反問する。
「そんなの、神原がやりゃいいじゃん!」

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 当然そうなるものと思っていたのだ。
「残念でした。クラス委員はなるべく部長と兼任しないように言われてるの」
「……そうなのか。じゃあ、花村は? 浦小で絵が一番上手いし、美術部部長にはふさわしいだろ?」
「ナオミちゃんには、作品制作の方でがんばってほしいの! うちの部の主戦力アーティストに雑用なんかさせちゃダメよ!」
「う〜ん、そうかあ……」
 さすがのコーサクも、ほかのメンバーの名前は出しづらかった。何しろ自分以外で残っているのは、孤高の達人と、最近引っ越してきたばかりの転校生と、不思議ちゃんだったのだ。
(この状況だと、やっぱりぼくかなあ……)
 どうやら役職を受けざるをえない模様だ。
「わーかった! やるよ。やりゃいいんでしょ!」
 やけくそのように、そう宣言した。


 そのころ準備室では、図工教師・三又アツシ先生が、いつものように椅子に深々とすわって、目を閉じていた。
 眠っているのではない。じっと耳を澄ませている。
 準備室は図工室のすぐとなりにあり、図工室の小学生たちのやりとりは、みんな聞こえているが、三又先生は基本的に放置する。子供のことは、なるべく子供同士で、である。
 この日はとなりで美術部の代表を決めるミーティングが行われている。
(へ〜、コーサクのやつ、部長になるのを引き受けたか)
 意外な成り行きに、少しおどろいていた。
(マイペースな工作マニアも、一皮むけたな。前のあいつだったら、ぜったい部長になんかならなかったろうに……)
 椅子から立ち上がって、雑然とものが積み上げられた棚の方に行く。
(そろそろ、小学生でもできる鎧兜の作り方、考えとかないとな……)
 戦国時代の甲冑の資料集をとりだしてパラパラめくりながら、手持ちの材料をあれこれ物色し始める図工教師だった。
(次回、最終回)
posted by 九郎 at 22:19| 図工室の鉄砲合戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年05月20日

浦小鉄砲合戦始末記2


 職員室にかけ込んできた花村ナオミと小島ハルカに手をひかれ、6年1組担任の斎木マモル先生は、図工室へと入って行った。
 その日、放課後の図工室で何やら行われるらしいことは、三又先生から聞いてはいたのだが、「大して問題はないと思うが一応話を通しておく」というニュアンスだったので、さほど気にしていなかった。
 それでも念のため、何かあった時に連絡がつきやすいよう、放課後は職員室で用事をこなしていた。
そこに、美術部の二人がかけこんできたのだ。

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 図工室に入ってみると、腕組みをして仁王立ちになった梶原先生の姿があった。その前には、美術部4人(コーサク、タツジン、バンブー、神原シオネ)と、織田ヒロト、米田ノボル、相田キョウイチ、殿山マサルが立たされている。
 三又先生は渋い顔で頭をかきながら、そのかたわらに立っている。
「梶原先生、うちのクラスの生徒が、何かしましたか?」
 ごく静かな口調で、斎木先生が声をかける。斎木先生の場合はいつもこういう口調で、声を荒げたり、感情的になったりすることは、まずない。
「お、斎木先生! いや、参りましたよ。先生からも、この生徒たちに注意してやって下さいよ!」
 梶原先生が戸惑った様子で訴えてきた。厳しくこわもての体育教師が手こずっている様子は、ちょっとめずらしい反応である。
「斎木先生! あたしたち、怒られるようなことは、なんにもしてません!」
 スーパークラス委員・神原シオネがきっぱりと言い放つ。
「ぼくもそう思います。怒られる理由が理解できれば反省しますが、今回はぜんぜん理解できません」
 学校一の秀才・殿山マサルが、間髪おかずに保証する。
「おまえら、まだ屁理屈を言ううつもりか!」
 梶原先生がついつい声を荒げてしまう。
 ほかの子供たちは、困惑気味に体育教師と優等生二人のやりとりを見守っている。三又先生はというと、うんざりした表情でさかんに目配せをおくってくる。まるで「斎木ちゃん、なんとかしてくれ!」という声が聞こえてくるようだ。
 双方から事情を聞いてみる。
 梶原先生側の主張はシンプルである。
 放課後、教室内でさわぐのは、それだけでケシカラン。その上こいつらは輪ゴム鉄砲の撃ち合いなどをやっていて言語道断である。よって、この場の者は全員、謝罪の上、反省するように!
 神原&殿山の優等生コンビの主張は、こうである。
 さわいでいたのは逃げてしまった観客達であって、自分たちではない。そもそもこの輪ゴム鉄砲合戦は、美術部で作った鉄砲と買ってきた鉄砲の、性能を比べるための試合である。念のため、参加者は水中メガネをかけるなど、安全には十分気をつけているので、なんの問題もなく、謝罪も反省も必要ない!
 そして、三又先生とその他の子供たちの気分はというと、彼らの表情から察するに、こんな感じだろう。
 あ〜あ、クラス委員も秀才も、こまけーことで粘んなよな。そんなもん、怒鳴られたらテキトーに謝っちまえばすぐ済むのに。まったく、これだから怒られ慣れてない真面目なヤツらは困るんだよな……
 なんとなく事情ののみこめた斎木先生は、しばらく黙って考えた。
 構図的には「怒ったり怒られたりするのに慣れた人々」VS「いままで怒られたことがあまりない二人」であると分析する。
 双方、納得できる落とし所はどこか?
 斎木先生は、二人の方に話しかけた。
「神原さん、殿山くん、キミたちが自分たちなりによく考えて、活動するのはいいことだと思う」
 二人はうなずく。
「でも、頭の中の計画だけでなく、実際に何かをやるというのはとても難しいんだよ。常に予想外のことが起こるものだと考えなければいけない」
 殿山マサルが大きくうなずいた。
「ほんとにそう思いました。ぼくは今日の鉄砲合戦で、まさにそのことを勉強しました!」
 斎木先生もうなずきながら続けた。
「それなら、こう考えられないか? キミたちがやった鉄砲合戦には、たくさんの友達が見学に来ていたようだね。実際にゲームに参加しているキミたちは水中メガネをかけていたけど、見学していたみんなはどうだったかな?」
 意外な指摘に、神原シオネと殿山マサルは顔を見合わせた。
「かけていませんでした」
「では、もし輪ゴム鉄砲の流れ弾が、見学している子達の方に飛んで行ったらどうなるだろうか? たしかに可能性としては非常に低いけれどもね」
 殿山マサルが答えた。
「わかりました。確かに事故の確率0ではなかったと思います」
 神原シオネもそこは素直にうなずいた。
 二人とも論理で理解できればあっさりしたものである。頭ごなしを嫌うのと、間違いをすぐに認めるのは、方向は正反対でも、根っこは同じことなのだ。
「梶原先生、すみませんでした。これからは、人に輪ゴムが当たる可能性のあることは、しないようにします」
 神原シオネがクラス委員の務めを果たして、代表で謝罪する。
「うむ。今後は気をつけるように。それから、そろそろ下校時間を過ぎているから、もう帰りなさい」
 浦小を代表する優等生二人の意外な反撃をもてあましていた梶原先生は、内心ホッとしながら、そそくさと図工室をあとにした。
 ぺしぺしという特長のあるスリッパ音が、今日は心なしか小さく頼りなく聞こえるようだ。
 そしてペしぺし音が十分遠くなるのを確認してから、斎木先生は図工室に残る一同に向けて、こう言った。
「さあ、みんなで散らかった輪ゴムを片づけて、帰ろうか」
 こうして、図工室の鉄砲合戦は、ようやく終結したのだった。
(もう少しつづく)
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2014年05月19日

浦小鉄砲合戦始末記1

第八章「浦小鉄砲合戦始末記」

 二子浦小学校の体育教師、梶原マサムネは、その日、放課後の校舎の見回りをしていた。
 いかにも体育教師らしい、堂々たる体格である。超大型少年であるバンブーを、さらに二回りほども拡大したような体格をしている。少し股を開いた歩き方からすれば、おそらく柔道出身と言ったところだろう。
 45歳。
 さすがに足取りは昔のように軽くはないが、まだまだ子供たちににらみを利かせるには十分な体力が残っている。
 ぺしぺしと、スリッパの音をひびかせながら、校舎内を巡回する。
 もう下校時間が近いので、まだ残っている生徒がいれば、帰るようにうながさなくてはならない。
 北側校舎一階にさしかかった時、なにやら集団でさわいでいる声が聞こえてきた。
(また馬鹿どもがホタえとるな)
 梶原先生は、よく「ホタえる」という、どこの方言かわからない言葉を使う。
 正確な意味はわからないのだが、どうやら「ふざけている」という意味に近いらしいということを、浦小の子供たちはみんな、経験的に知っている。
(また一つカミナリでも落して、さっさと帰らせるか)
 ぺしぺしというスリッパ音を、さらに高くひびかせながら、梶原先生はさわぎの聞こえる方に向かう。
 この特長的なスリッパ音、実はけっこう、わざと立てている。「ほら、怖い先生がここまで来ているぞ」と、あらかじめ小学生たちに、警告してやっている面もある。
 子供はふざけていると、こわい大人に叱られる。
 当たり前のことだ。
 当たり前のことは当たり前として、しっかり子供に教えるのが大人の仕事だ。
 これだけわかりやすく警報を鳴らしてやっているのに、それでもホタえている子供には、一発お灸をすえてやるしかないのだ……

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 同じころ、図工準備室。
 図工教師、三又アツシは、いつものように椅子に深々とすわって、目を閉じていた。
 眠っているのではない。
 じっと耳を澄ませている。
 準備室は図工室のすぐとなりにあり、図工室の小学生たちのやりとりは、みんな聞こえているが、三又先生は基本的に放置する。
 その場に居合わせると、教師として一応注意はしなければならない場面も出てくるので、なるべく図工室の方には行かずに、準備室で過ごしている。
 きちんと注意を払いながらも、子供のことはなるべく子供同士で解決させる。
 大げさに言えば、それが三又先生の教育方針みたいなものだ。
 しかし、この日ほど自分の教育方針を破って、図工室の方に顔を出してみたい誘惑にかられたことはなかった。
 達人クラブ三人組+スーパークラス委員と、学校一の秀才+6年ボスグループ三人組。
 その両者が図工室を戦場にして輪ゴム鉄砲合戦をするというのだ。
(見たいなあ……)
 正直、そう思った。
 基本的に地味で退屈な学校生活の中で、こんな面白いショーはめったにない。
 しかし、同じ部屋で観戦してしまうと、図工室での輪ゴム鉄砲の撃ち合いを、図工教師公認でやっていることになってしまうので、それはさすがにマズいのだ。
 実は昨日、「撃ち合いをやるなら、念のため水中メガネをかけるように」とアドバイスをしたことも、けっこうマズいと言えばマズかった。
 先生が「輪ゴム鉄砲で打ち合いをする」ということ自体は認めたことになるからだ。
 三又先生の常識で言えば、輪ゴム鉄砲でケガをする可能性はきわめて低く、目さえちゃんと保護すれば、危険はほぼ0パーセントになるはずだ。
 しかし学校内で(たとえ輪ゴム鉄砲であっても)銃撃戦が行われたと知られれば、文句をつけられる可能性は十分ある。
 なるべく無駄な騒ぎは起こらない方が良いので、昨日輪ゴム鉄砲合戦の話が子供たちの間で盛り上がったとき、一旦は止めようかとも考えた。
 しかし、やらせた場合のプラスとマイナスを考え、結局やらせる方を選んだ。
 コーサクやタツジンのやっている、バカバカしくもハイレベルな工作の値打ちを、他の生徒たちにも教えてやりたかったのだ。
 なんでも金を出して買えばいいと思っている子供たちに、手作りパワーを思い知らせてやりたかったのだ。
 それは工作好きの図工教師の悲願でもあった。
 そして今日、コーサクは見事、大役を果たし終えた。
 時間にすればほんの数分の鉄砲合戦だったが、聞き耳をたてているだけでも血の騒ぐいい戦だったようだ。
 図工室にひびきわたる「コーサク・コール」を準備室で聞きながら、三又先生は会心の笑みを浮かべていた。
 合戦の模様を自分の目で観戦できなかったのは残念だが、事故もなく良い結果が出て一安心した。
 少し図工室が盛り上がりすぎてやかましくなっているので、そろそろ止めに行こうかと考えていた時、三又先生の耳に、ぺしぺしという特長のあるスリッパの音が聞こえてきた。
(しまった、梶原先生だ!)
 図工室のさわぎにまぎれて、いつもなら聞き逃すはずのないスリッパ音に気づかなかったのだ。
 あわてて図工室に入り、子供たちを止めようとしたが、時すでに遅し。
「こらあ! おまえら何をやっとるか!」
 壁の向こうで、雷が鳴りひびいてしまった。
 三又先生は、とっさに教室を見まわす。
 逃げ足の速い観客の男子生徒たちは、梶原先生が怒鳴りこむのと同時に、ドッと反対側の出入り口から脱走していく。
 取り残されているのは鉄砲合戦をしていた当事者の、美術部4人とボス三人組+殿山マサルだけだ。
 輪ゴム鉄砲を持ち、水中メガネをかけた異様な風体なので、梶原先生の視線にがっちりロックオンされてしまい、逃げるに逃げられない。
 三又先生はさらに図工室を見回し、すみっこに逃げ遅れた美術部二人、花村ナオミと小島ハルカを発見した。
 そっと移動して二人に耳打ちする。
「おい、斎木ちゃん呼んで来い。たぶん職員室にいる。いそげ!」
(つづく)
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2014年05月18日

図工室の鉄砲合戦5

12

――闇夜に霜が降る如く「ひそ」と撃て……
 それは古来より近代の軍隊にいたるまで、戦場での射撃の心構えを説くために、口伝されてきた言葉だという。
 感情を制御し、力みをはなれるための、初歩にして極意の言葉だ。
――闇夜に霜が降る如く「ひそ」と撃て……
 深呼吸をひとつ。
 コーサクは一旦、鉄砲をおろして脱力した。
 目を閉じ、ゆっくり五つ数をかぞえた。
 相手チームはまた一体、たおしたようだ。
 しかし、それは自分の射撃とは関係ない。
 目の前の敵にとらわれてはならない。
 敵は自分の中にある。
 コーサクの心は図工室に存在する体から抜け出し、暗闇の荒野の風景に一人立っていた。
――闇夜に霜が降る如く「ひそ」と撃て……
 今は闇夜だ。
 しんしんと音もなく霜の降る、凍てついた闇夜だ……
 再び目を開いた時、コーサクの顔からはあらゆる表情が消えていた。
 勝ちたい、とは思わない。
 当てたい、とも思わない。
 ただ、理想の角度に体を整え、「ひそ」と引き金を引くだけ。
 射撃は引き金を引くまでの段階で、すでに完成している。
 銃口から出た弾は、そのあとコースが変わったりはしない。
 かまえた時点で、すべて決定している。
 様々な「思い」はそれを狂わせる。
 力みはそれを狂わせる。
 かまえたら、あとは引き金を「ひそ」と引くだけ……

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13

「あっ! すごい!」
 殿山マサルは思わず声をあげた。
 コーサクがなぜか調子を崩している間に、あと一歩まで追い上げることができた。このまま行けば逆転勝利も夢ではない、そう思った瞬間、コーサクの放つオーラが一変したのだ。
 バンブーの叫んだ一言がきっかけだったことは間違いない。
(闇夜に霜の降る如く?)
 なんだろう、なにかのお呪いだろうか?
 まったく意味はわからなかったが、コーサクが突然別人のようになったのは事実だ。
 6体目、7体目が連続して倒された。
 非常にゆったりとしたペースで遠距離射撃を続けているのだが、さっきまでと違ってねらいが正確無比になった。
 まるで自分と的以外何もない、無人の空間にいるように、無表情のまま淡々と大型ゴムバンドをかけ、ねらいをつけ、引き金を引いていく。
 すると嘘のように、戦国フィギュアが倒れていく。
 8体目、9体目
 凄い!
 一体、何が起こったのだろうか?
 知りたい! 自分はそれを勉強したい!
 殿山マサルはぼうぜんと眺めながら、そう考えていた。

14

 体が自動で動いていた。
 コーサクの意識は、依然としてその体から半ば浮き上がって、まったく別のことを他人のように考えていた。
(ハハハ、みんな水中メガネかけて何やってんだ?)
 コーサクは意識の中だけでクスクス笑う。「みんな」の中には、無表情に遠距離射撃を続ける自分の姿も入っている。
(みんなメガネくんだ……)
 コーサク! コーサク! コーサク!
 どこか遠くから、名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
(コーサク? 誰だそれ?)
 コーサク! コーサク! コーサク!
(ぼくはメガネくんだよ?)
 コーサク! コーサク! コーサク!
(ああ、そうか。コーサクってぼくのことか。そう言えば、もう別にメガネは、かけなくてもよかったんだっけ。かけてる方が、色々楽だっただけで……)
「コーサク! やったな!」
 ドンッと背中をたたかれた。
 そのショックで、すとん、と心と体が一致した。
 さっきまでの心と体がバラバラになったような特別な状態は一瞬にして消え去り、普段のコーサクが目を覚ましたように戻ってきた。
「あっ! バンブー? 試合はどうなった?」
 あわててあたりを見回し、状況を把握しようとする。
 もちろん、コーサクは敵陣フィギュア全てを、倒し終えていた。
 バンブーが笑っている。
 神原シオネが拍手している。
 タツジンが親指を立てている。
 花村ナオミと小島ハルカが、キャーキャー抱き合っている。
 トノサマが拍手している。
 美術部の仲間たちだけではない。タイショーが拍手し、それに引きずられるようにノボとキョウもつき合って拍手している。
 美術部もトノサマも乱入三人組も、そして図工室に集まったクラスメイトたちも、まわりのみんなが、拍手とともに自分の名前をコールし続けていた。
「ごめん、完勝はできなかった。けっこう追い上げられちゃったね……」
 照れかくしに謝ると、バンブーにまたドンッと背中をたたかれた。
「なに言ってんだ! 試合が盛り上がったから、結果オーライ!」
 地味な工作マニアが、はじめてクラスのみんなの喝采を浴びる。
 その甘美な時間はいつまでも続くかに思えたが、突然の怒声とともに、打ち切られた。
「こらあ! おまえら何をやっとるか!」
(第七章おわり。第八章につづく)



次章、戦後処理!
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2014年05月17日

図工室の鉄砲合戦4


 織田ヒロト、通称「タイショー」は、いきどおっていた。
 何に?
 中途半端な自分に、だ。
 覚悟も準備もせずに、キョウをはじめ、まわりに引きずられ、いい加減な気持ちで戦争を仕掛けてしまった自分の愚かさに、だ。
 約一週間前、転校してきた超大型少年を見たとき、対応に迷ってしまったのがことの始まりだった。
 同級生相手に、一対一で「勝てないかもしれない」と思ったのは初めてだった。
 同じ学年で、自分よりデカいやつを見ること自体珍しい。
 幼いころから体格がよく、空手も習っていた織田ヒロトは、これまでケンカに負けたことが一度もなかった。
 小学校低学年の段階で、すでに上級生からも一目置かれ、手出しされることはなかった。
 織田ヒロト本人は、実はそれほどケンカ好きでもなかったのだが、まわりから「タイショー、タイショー」とかつぎあげられ、ふりかかってくる火の粉を避けないでいるうちに、いつの間にか「浦小のボス」ということになってしまった。
 今時の小学生は一昔二昔前ほどにはケンカなどせず、あまりはっきりした「ボス」はいないのが普通だが、それでも男子は本能的に「ケンカしたらだれが一番強いか」ということは意識しているものだ。
 織田ヒロトの場合、その強さが飛び抜けすぎていたので、今では珍しい「ボス」的な存在になっていたのだ。
 ほんの一週間前までは、そんな自分になんの疑問ももたなかった。
 超大型転校生のバンブーが現れたことで、心が揺らぎ始めるのを感じた。
 単にデカいというだけではない、自分の何もかもを見すかされているような不気味さが、あの転校生にはあった。
 あいつの視線を感じていると、これまで気づかなかった自分の姿が、鏡に写したように自分自身で見え始めていた。
 望んでなった「ボス」ではなかったが、ずっとその立ち位置にいるうちに、それ以外の生き方ができなくなってしまっていたことに気づいたのだ。
 神輿にかつがれ、取り巻きに囲まれるうちに、負けるのが怖くなった。
 くだらないメンツでがんじがらめにしばられて、どうにも身動きできなくなった。
 美術部のやつらには、申し訳ないことをしたという気分も無いではない。
 あいつらが、こんなに気合の入ったやつらだとは思わなかった。たんなるオタクの集まりくらいにしか思っていなかった。
 それに比べて自分はどうだ。
 情けない。
 しかし、このままでは終われない。
 せめて一矢報いなければならない。
 美術部のやつらが全てをかけて戦いに臨んだように、こちらも自分の持っているものを、全部ぶつけなければ気がすまないのだ……

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10

 自陣のフィギュアは次々にたおされ、こちらはまだ一体もたおせていない。
(どうする? このままなす術なしか……)
 トノサマがそう考えた時、となりから低い声で指示が飛んだ。
「おまえら、おちつけ。実はそんなに痛くないぞ」
 タイショー、織田ヒロトの声だった。
(そんなに痛くない?)
 トノサマはためしに右手をのばして撃つふりだけしてみた。
 ピシッと当然のように、手の甲に痛みが走る。敵ながら見事なタツジンの腕前だ。しかし、言われてみれば確かにそんなに痛くはない。
(なるほど! 輪ゴムで撃たれるとすごく痛いという先入観があるから、実際より大袈裟に痛みを感じていたんだな!)
 撃たれれば痛いことは痛いのだが、事前に心の準備をしておけば、大騒ぎするほどではないとわかった。ただ、頭でわかっていても、体の方が反射で「ビクッ」となるのは止めようがない。
 再び、低い声の指示が飛んだ。
「片手撃ちをやめろ! 右手の脇をしめて、左手も鉄砲にそえて固定しろ!」
 言われた通りにしてみると、確かに銃身が安定して、手を輪ゴムで撃たれてもぶれにくくなった。
 鉄砲を持つ右手を思いきり的にむけて伸ばしているより、実際にはねらいがつけやすいとわかった。
「足を肩幅にして、かかとをちょっと開け。つま先の方を狭く。そう、ハの字だ。それからひざを軽くおとす」
 試してみると、なるほど足元が滑らなくなった。下半身ががっちり固定されて、ねらいが格段に安定する。
(よし! まだいける!)
 すでに自分たちの陣地の戦国フィギュアは5体たおされていたが、トノサマは巻き返しの希望を持ちなおすことができた。


11

 残り5つ。
 しかし、コーサクの心は、再びゆれはじめていた。
 何がきっかけだったのか、相手チームの射撃が突然安定しだしたのだ。美術部メンバーの射撃技術から見れば、まだまだ初歩的なレベルに過ぎなかったが、「銃身を固定する」という基本中の基本に、相手チームは戦いの中で気づいたようなのだ。
 落ち着いて連発されると少々危ないなと思う間に、自陣の一体目が、ついにたおされてしまった。相手チームが勢いづくのがわかる。
(ちくしょう! 完勝は逃したか!)
 心のゆれは、そのままコーサクの遠距離射撃にも影響する。そこから連続ではずしてしまい、相手チームはさらに一体たおす。
(勝ちたい! タツジン、バンブー、クラス委員のためにも!)
 そう強く強く願うことが体を力ませ、遠距離射撃に必要な微妙な角度調節を狂わせる。
 また連続してはずれ。
 相手チームはさらに一体。その差、二体と追い上げられる。
(ちくしょう! ちくしょう! 勝ちたいよ!)
 コーサクの目尻に、不覚にも涙がにじんでくる。
 工作に熱中したおかげで、仲間ができた。仲間に認めてもらえたおかげで、「メガネくん」から「コーサク」になれた。
 生まれつき目が悪いという身体的特長から自由になって、自分の特技で呼んでもらえるようになった。
 その仲間の信頼を受けて、最高の舞台を用意してもらった。
 ここで勝たなければ、自分はクズだ!
「コーサク! 思い出せ!」
 バンブーの声が飛んでくる。
「闇夜に霜が降る如くだ!」
(そうだ! そうだった!)
 コーサクの脳裏に、戦国まつりで鉄砲衆の雑賀孫末さんに教えてもらった言葉が、電光のようにひらめいた。
(つづく)


次回、ついに決着!


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2014年05月16日

図工室の鉄砲合戦3


 コーサクのはなった一発目が命中してからしばらくおいて、図工室につめかけて観戦していたクラスメイトたちから、どよめきが起こった。
「やった! コーサクがあんな遠くから当てやがった!」
「すげー!」
 男子にとって「凄腕のスナイパー」という存在は、特別である。
 スポーツができるということと同じ種類の尊敬を集めることができる。
 それはたかが輪ゴム鉄砲であってもかわらない。
 しかし、コーサク本人は、まったくうれしそうではなかった。
(今のは、ラッキーだ)
 冷静に分析する。
 はじめから最初の2〜3発は、大型ゴムバンドの軌道と、銃身を固定する角度の確認に使うつもりだった。たまたま一発目に当たってくれたおかげで、何度か試射して確認する手間が省けた。素直に、自分の「つき」に感謝する。サポートしてくれるタツジン、バンブー、神原シオネのためにも、自分はぜったい負けられないのだ。
(さあ、ここからは、単なるラッキーじゃないぞ!)
 ゴムバンドをかけ、銃身の上下角は一発目のまま固定。あとは、次の標的に対して、まっすぐの方向に銃身を振る。引き金を、力まずそっと引く。
 バヒュン!
 一拍置いて、敵陣の戦国フィギュアがゴムバンドに巻き込まれて落下する。
 2体目命中、残り8つ。
 あわてず、ていねいに、次のゴムバンドをかける。
 同様に、三発目。
 バヒュン!
 命中。
 残り7つ……

htjc33.jpg



「ちくしょう! 調子にのりやがって!」
 いらだったキョウが、コーサクに向けて輪ゴムを乱射する。
「無駄弾を撃つな! 的に集中しろ!」
 トノサマは、とっさに自分の口から、意外なほどするどい言葉が出たことにおどろく。
 椅子の向こうで身を隠して遠隔射撃を行っているコーサクに、何発撃ってもまったくの無意味だ。そんな時間と弾があるなら、一発でも多く戦国フィギュアに向けて撃った方がいい。
 しかし、キョウの焦る気持ちもわかる。こちらはまだ一体もたおせていないのだ。
 タツジン、バンブー、神原シオネの三人一組による超早撃ちは、まことに厄介な戦法だった。とにかく、ねらいをつけようと右手をのばす度に、手の甲に鋭い痛みが走るのだからどうしようもない。
 それに、さっきからどうにも気になるのが、足元だった。
 なぜか、微妙に滑るのだ。
 ツルツルというわけではないが、狙いをつけて踏ん張ろうとすると、少しだけ滑る。
 ねらいをつけようとした時に、どうも気になって集中できない。
 まるで床のワックスがけをした翌日のような感触。ワックスがけ自体は、この図工室も三週間ほど前の学年末の大掃除で行われているはずだ。しかし、それがいまだに残っているわけがないのだが……


 相手チームが微妙に足元を気にしている様子に、神原シオネはチラッとバンブーの方を見る。バンブーは気づいているのかいないのか、とくになんの反応も示していない。
(この子、本当にずる賢いなあ……)
 しかし、自分もその片棒を担いでしまったのだから、人のことは言えない。
 この日の朝の情景が頭の中によみがえってくる。
 約束通り朝一で待ち合わせ、校門が開くと同時に校舎に入った二人は、倉庫からワックスがけに使ったモップを持ち出し、図工室の床の真ん中あたり、ちょうど今、双方の陣地に挟まれた範囲を、念入りにモップがけしていたのである。
「モップに残ってるワックスだけだから、あんまり滑るようにならないけど、こんなのでいいの?」
 神原シオネが質問する。
「あんまり露骨にツルツルだと怪しまれるだろ」
 バンブーはあいかわらずブスッとした顔で言った。
「微妙に滑るってぐらいが、一番神経にさわるんだ」
 一応真面目で模範的なクラス委員で通っている神原シオネは、バンブーの説明に苦笑するしかない。
「いいか、もしバレたら、『図工室を勝手に試合に使うから、せめて事前に掃除しとこうと思った』って言うんだぞ」
 神原シオネは、その時「はいはい」と返事をするしかなかったのだった……
(つづく)
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2014年05月15日

図工室の鉄砲合戦2


 殿山マサルは連発式鉄砲を片手に、相手陣地にかけつけた。
 学校一の秀才の立てた作戦は、ごくシンプルだった。
 6連発式輪ゴム鉄砲を持った4人全員が相手の陣地に攻めよせ、並べてある机から、さらに右手をのばして、なるべく近距離から輪ゴムを乱射するのだ。
 机から的までは約2・7メートルあるが、身を乗り出して手をのばせば、実質2メートルほどまで短縮することができるだろう。
 弾になる輪ゴムはビニール袋にいっぱいつめていき、敵陣についたら、まず袋の輪ゴムを出して机の上に積み上げる。装てん済みの6本を撃ちつくしたら、その場ですばやく装てんしなおす。
 トノサマは、おそらく美術部チームも同様の作戦をとってくるはずだと読んでいた。的を最短時間でたおすだけなら、他の作戦は考えられない。
 あとは6連発式の「物量」と、美術部側の射撃の「質」の競争になるはずだ。
 他の三人組はともかくトノサマ本人は、美術部側の「質」はかなり高く、強敵だと思っていた。それでも「物量」が勝つと判断したのは、トノサマの日本史に関する知識による。
 あの戦国まつりで、お坊さんや鉄砲隊の人たちに聞いた話は、非常に考えさせられる内容だった。寺内町や雑賀鉄砲衆という、学校では習ったことのない歴史に、興味をそそられ、がらにもなく興奮してしまった。
 それまでのトノサマは、歴史とは教科書の年表に出てくるような、有名な人物やできごとのことだと思っていた。戦国時代であれば信長、秀吉、家康という天下統一の流れこそがただ一つの正解で、その他はやっぱりどこか劣っていたり間違っていたりしたからこそ、歴史にならなかったのだと考えていた。
 しかし、年表にあらわれない歴史の事実関係をくわしく調べてみれば、寺内町のように他の戦国大名とはちがう国造りもあったのだと理解できたし、織田軍の鉄砲隊が必ずしも戦国最強ではなく、雑賀衆というユニークな集団が存在したこともわかった。
 歴史にたった一つの正解はなく、今学校で教えられている以外にも、様々な可能性があったのだ。
 そこまでは納得できた。
 しかし、とトノサマは考える。
(でもやっぱり、最後は織田軍の「物量」が勝ったんだよね)
 原理原則で言えば、そうなるはずなのだ。織田鉄砲隊をしのぐ実力を持った雑賀鉄砲衆も、石山合戦を勝利に導くことはできなかったのだ。
 現実はもしかしたら、原理原則通りにはいかないのかもしれない。それはわかる。ならばぜひ一度、それを直接自分で体験してみたかった。
「学校の勉強と現実は違うよ」
 誰もが認める秀才であるトノサマは、まわりの大人から度々かけられるこの一言が、ずっと気になっていた。
 大人は子供に勉強することを熱心に勧めるくせに、文句をつけようもないほど勉強した子供に対しては、こういうことを言いたがる。
 トノサマはそんな言葉を投げかけられるたびに、「ふ〜ん、そんなものか」と思うだけで、別に腹はたたなかった。じゃあ、いずれその「勉強とは違う現実」とやらを、勉強してやろうと思っていた。
 知らないことは、勉強すればいい。簡単なことだ。
 機会さえあれば、自分は「現実」とかいうものを勉強しつくして、自分のものにできるという自信があった。
 今回の鉄砲合戦は、良いチャンスだと思っていた。自分の予想には自信があったが、もしかしたら美術部の面々なら、予想を上回ってくれるのではないかという期待があった。
 現時点の自分の勉強を上回る「現実」に出合った時、自分の心に何が起こるのか? 目の前で起こる不測の事態に、自分は即座に対応できるのか?
 ものすごく興味があった。
(さて、どう出る? 美術部のみんな)
 そして、美術部の陣地に到着してみると、そこに予想外の「現実」が待っていた。一瞬「おどろき」に満たされたトノサマの心は、次の瞬間には「喜び」に置きかえられていた。


(なんだ、これは!)
 トノサマは敵陣の前に並べられた机の上に、輪ゴムをどっさりのせながら、喜びとともに「観察」した。
 美術部側は、誰一人陣地から出てこなかった。戦国フィギュアを並べた台の左右に、独自に机と椅子を使って「柵」を作っていた。向かって右には、タツジン、バンブー、神原シオネの三人、左にはコーサクが一人、「柵」のうしろに隠れるように位置していた。
 この「柵」は、雑賀衆が主に防戦に使った戦術、「鉄砲構え」という陣地の作り方をもとにしているのだが、トノサマはそれを知らない。
(なにが始まるんだ?)
 そう考えながらも、自分の正面の戦国フィギュアにむけて、一気に6本の輪ゴムを浴びせようとしたとき、鉄砲をにぎった右手の甲に、異変が起こった。
「痛!」
 ビシッというするどい痛みが走ったのだ。どうやら手元を狙撃されたらしい。
「つっ!」
「あいて!」
「いって〜!」
 自分のチームの他の三人からも、次々に悲鳴が上がる。
(あれか!)
 向かって右側の、美術部三人こもっている柵の方をみると、タツジンが次々に輪ゴムを撃ちかけてきているのがわかった。ものすごい連射のスピードである。ほぼ1〜2秒に一発の間かくで、正確に狙撃してくる。
(速すぎる! もしかして連発式を使ってるのか?)
 もちろんそうではなかった。椅子の柵のむこう側にちらちら見えている輪ゴム鉄砲は、何度も見たコーサク考案のものだ。
 単発式の鉄砲で、撃っているのはタツジン一人。なのにどうしたわけか、こちらのチームの4人ともが、かまえようとするたびに正確に右手を撃ち抜かれる。痛みでねらいが定まらない。それでもなんとか引き金を引きまくるのだが、痛みに耐えながらの射撃では、まったく戦国フィギュアに当たらない。
(なんでそんな早撃ちができるんだ?)
 答えはすぐにわかった。タツジンのうしろにひかえるバンブーと神原シオネが、何丁もの輪ゴム鉄砲をとりかえ、輪ゴムを装てんしながらバックアップしているのだ。
 撃っているタツジン本人は、うしろをふりかえりもせずに、リレーのバトンのように装てん済みの鉄砲を右手で受け取っている。
 一発一発輪ゴムの装てんのために体勢を崩さずにすむので、いつもに増して射撃が正確だ。撃ち終わった鉄砲は左手でうしろの二人の方へ回しており、三人の一連の動作が、まるで工業用ロボットのように整然としている。
(すごい! 機能美ってああいうものか!)
 トノサマは敵の姿に感動している。

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(でも、いくら迎撃しても、こちらのチームの戦国フィギュアをたおさなければ、むこうの勝ちにはならないはず。どうやってこっちの陣の的を撃つつもりなんだろう?)
 はじめは三人を防戦にあて、残るコーサク一人が出陣するのかと思った。それなら、こちらのチームも一人は迎撃に回した方がいいかとも考えたのだが、当のコーサクはむかって左の「柵」から出てくる気配はない。柵にしている椅子の背もたれの部分に輪ゴム鉄砲の銃身をのせ、なにやら角度を慎重に調節している模様だ。
 一体、何をするのかと思っていると、いきなり他の輪ゴム鉄砲の発砲音とはまったく違う音が、空気を切り裂いた。
 バヒュン!
 普通の輪ゴムとは違う大型のゴムバンドが、うなりを上げて飛んでいく。コースは真っ直ぐではなく、野球の遠投のような山なりだ。頂点で勢いを失ったゴムバンドが、トノサマのチームの陣地に吸い込まれるように落下していく。
(当たる? まさか!)
 その「まさか」が起こった。
 当った。
 戦国フィギュアの一体が、ゴムバンドに巻き込まれるように椅子から落下していった。
 ぞく、
 ぞく、
 ぞく……
 トノサマの背筋を何かが走り抜けていく……
(つづく)
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2014年05月14日

図工室の鉄砲合戦1

第七章「図工室の鉄砲合戦」


 そしてついに、決戦の日が来た。
 時は火曜日の放課後、所は図工室。
 そのとき、コーサクは緊張しきっていた。
(なんでこんなことになってんだ?)
 自慢の輪ゴム鉄砲をにぎる手は、じっとりと汗ばんでいる。
(けっこう人が集まっちゃってるよ……)
 図工室には美術部6人と、乱入三人組+殿山マサル以外にも、けっこうな人数の観客が集まっていた。いずれも6年1組のクラスメイトたち、男子生徒を中心に十数名。そうとうなにぎわいである。
 キョウが休み時間中に、図工室で輪ゴム鉄砲の決戦をやると宣伝してしまったのだ。
 コーサク自身は観客を集めることなど、まったく望んでいなかったのだが、相手が勝手にやることは止められない。
 意外だったのは、クラス委員の神原シオネまでもが、「図工室の鉄砲合戦」が行われることを認め、みんなにも見に来てほしいと説明していたことだった。
 不安になったコーサクがバンブーに意見を求めると、そのまま人を集めさせておいた方がいい、という答えが返ってきた。
「審判のいるきちんとしたゲームじゃねーからな。ボロ負けに逆ギレした相手側が、なにか反則したり無茶したりするかもしれねー。観客がいっぱい見てる前ならめったなことはできんだろう」
 そんなものかと、一応コーサクは納得した。
 トノサマ(殿山マサル)が、集まった観客に向ってルール説明をしている。
「今日は、美術部が作った高性能の輪ゴム鉄砲と、ぼくたちがお店で買った6連発式の輪ゴム鉄砲で、試合をしたいと思います。それぞれのチームメンバーを紹介しましょう。美術部チームが神原シオネさん、鈴木ヒサトくん(コーサク)、土橋タツジくん(タツジン)、佐竹アキノブくん(バンブー)の4人。
 連発鉄砲チームが、織田ヒロトくん(タイショー)、米田ノボルくん(ノボ)、相田キョウイチくん(キョウ)、そしてぼく、殿山マサルの4人です。
 今、この図工室には、机と椅子を使って双方の陣地が作られています。要するに、それぞれの陣地はお祭の射的のお店のようなものと考えてください。
 よーいドンで双方の陣地から4人のメンバーが出陣し、相手の陣地の戦国フィギュアを、先に十体たおしたチームの勝ちです。相手チームのメンバーを輪ゴム鉄砲で撃って邪魔するのは一応「アリ」ですが、ドッジボール方式で、肩より上をねらうのは反則です。
 なお、安全のために参加者は全員、水中メガネをかけることになっています。ルール説明は以上です。何か質問のある人はいますか?」
「そんなのはいいから、さっさとはじめろよ!」
 すかさずヤジが飛ぶ。
 タイショー、ノボ、キョウの乱入三人組は、ニヤニヤ余裕をかまして笑っている。自分たちが負ける可能性など、まったく考えていないのだろう。しかし、気の毒だが、恥をさらすことになるのは、おそらくむこうの方だ。
(でも……)
 ざわざわと好奇の視線飛び交う図工室で、コーサクはたった一人、迷子になったような心細さを感じている。
 今朝学校に来るまでは、ぜったいの自信を持っていた。達人クラブの三人と、スーパークラス委員・神原シオネが共闘するのだから、相手が誰であっても圧勝するしかないと予想していた。おかげで昨夜はよく眠れたし、登校する時も心は弾んでいた。
 そんな上々の気分が木っ端みじんに壊されたのは、今日の朝、学校に来てから、タツジン、バンブー、神原シオネと作戦会議をした時のことだった。
 バンブーの意外な提案で、局面がまったく変わってしまったのだ。


 その朝、美術部チームで集まったとき、バンブーはいきなりこんな提案をしてきた。
「おれと神原は、輪ゴムを鉄砲に引っかけることに集中することにした」
「えっ!?」
 いきなりのことに、おどろくコーサク。
「今日の決戦では単に勝つだけじゃなく、工作隊の実力を見せつけてやるんだ」
「どういうこと?」
「よーいドンで同時に的を撃ち始めたら、先に十体全部倒すのはぜったいこっちだ。それは間違いない」
 コーサクはうなずいた。自分もそう考えていたので、安心しきっていたのだ。
 バンブーは続けた。
「でも、あっちもまぐれで何体かはたおすだろう。あいつらに運があれば、けっこう追い上げられるかもしれない。負けることはないだろうが、そうなると、せっかくおまえの開発した新型輪ゴム鉄砲の値打ちが落ちる。相手に『惜しかった』と思わせたらダメだ。やるときはボロ勝ちして完全に息の根を止めないと、あいつら、いつまでも嫌がらせを続けてくるぞ」
 たしかにその通りかもしれないと、コーサクは思った。
 では、どうするか?
 バンブーの立てた作戦は、こうだった。
 美術部側のメンバー4人のうち、バンブーと神原シオネは、鉄砲に輪ゴムを装てんすることに集中する。そしてタツジンは、二人が輪ゴムを装てんした鉄砲を、射撃することだけに集中する。
 タツジンの早撃ちの技術で、二人のバックアップがあれば、むこうの連発式以上の速さで連続射撃が可能になるはずだ。
 この三人のグループは、自分の陣地にこもって、相手のメンバーを迎撃する。
 いくら連発式でも、手元を撃たれ続けたらねらいをつけられなくなり、まぐれあたりもなくなるだろう。三人がそれぞれの鉄砲を持って迎撃にあたってもいいが、バンブーと神原シオネには、相手の手元だけを、はずさず正確に撃ち続けられるほどの技術はない。
 そんなことができるのはタツジンだけだ。
「戦国まつりで孫末さんに教えてもらったことを応用するんだ」
 たしかに雑賀孫末さんに教えてもらった、戦国時代の雑賀鉄砲衆の戦法と同じ発想だ、と思った。
 ある伝承によれば、雑賀衆は数人が一組のチームを作って、一人の熟練の射手を残りのメンバーがサポートする戦術をとっていたという。
 射撃名人一人にたいして、何丁かの火縄銃と、弾込めに必要な人員を用意して、正確で素早い連続射撃を可能にしていたというのだ。それは織田信長が「長篠の戦い」で行ったという射手三人三交代による「三段撃ち」よりはるかに効率的で、信憑性の高い戦術だったという。
 一応、バンブーの作戦は理解できたのだが、コーサクはすぐに疑問もわいてきた。
「でも、迎撃するばかりじゃ、こっちの勝ちにはならないんじゃないの?」
「そこでコーサクの出番だ」
 タツジン、バンブー、神原シオネの三人は迎撃に専念し、残るコーサクは相手の陣地の戦国フィギュアを倒すことに専念するのだ、とバンブーは説明する。
「でも、相手もこっちをマネして、迎撃要員をつけてくるんじゃないの?」
「大丈夫だ。おまえには例の得意技があるだろう?」
「得意技?」
「あれだよ、遠距離射撃。おまえもこっちの陣地にこもって遠距離射撃でねらえば、相手の迎撃なんて関係ないだろ」
 なるほどと思った。しかしコーサクは、すぐにあることに気づいてしまった。
「ということは、ぼくが戦国フィギュアをたおせなかったら……」
「そう、おれたちの負けだ。この作戦はおまえの射撃にすべてがかかってる」
「……!」
 コーサクはおどろいてタツジンの方を見た。
「いい作戦だ」
 タツジンはたった一言、答えた。
 タツジンがそういうなら、そうなんだろう。
 神原シオネも笑ってうなずいた。このスパークラス委員は、事前に説明を聞いていたようだ。
「コーサク、まかせたぞ。達人クラブの実力を見せつけてやれ! おまえの開発した輪ゴム鉄砲の性能を見せつけてやれ! おまえの技を見せてやれ!」


 バンブーがドンッ!とコーサクの背中をたたいた。
「コーサク! はじまるぞ!」
 バンブーの声が鋭くひびき、コーサクは現実に引き戻される。
 そうだ、ここは戦場だった!
 朝、新しい作戦を聞いてから、休み時間、お昼休みを使って、タツジン中心の連続射撃の連携と、コーサクの遠距離射撃の特訓は積んできた。
 ここまできたら、やるしかない!
 ここは戦場だ。
 戦場では、やられるまえにやれ!
 開戦の時は来た。どこからともなく、法螺貝と陣太鼓の音がひびいてくる。続いて盛大な鬨の声。それはまるで、図工室に戦国時代がそのまま出現したような大音響だった。
(なんだこれ?)
 コーサクがあたりを見回してみると、美術部不思議ちゃん、小島ハルカがCDラジカセの再生ボタンを押しているのが見えた。ものすごく真剣な顔つきで、自分の役目を果たしている雰囲気である。
(不思議ちゃん、すげー。どこからこんな効果音を?)
 そう思った瞬間、また背中をドンッとたたかれた。
「コーサク、ボーっとすんな! 配置につけ!」
 バンブーが叫んだ。
 花村ナオミが開戦を告げるクラッカーを「パンッ!」と鳴らした。
 図工室の鉄砲合戦が今、火ぶたを切って落とされたのだ。

htjc31.JPG

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(つづく)
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2014年05月13日

開戦前夜5


「よう、ちょっと待ってくれよ」
 いきなり背後から声をかけられて、おどろいた。
 児童公園での射撃訓練を解散し、一人家路を急いでいた神原シオネがふりかえると、そこにはぬーっという感じで超大型少年が立っていた。
「わっ! な、なに? 佐竹くん?」
 新学年がはじまってからもうすぐ一週間、そろそろこの少年の体格にも慣れてきたつもりだったが、それでもいきなり目に飛び込んでくるとおどろいてしまう。
 失礼だとは思うのだが、反射でビクッとなるのはなかなか止められない。
「ちょっと話があるんだけどよ」
 ぶすっとした顔でバンブーが言った。
「明日のこと? 練習だったら家でもちゃんとやっとくよ。ぜったい足引っぱらないから」
 コーサクから借りた鉄砲の入っている包みを、パンパンと叩きながら「まかせといて!」と言った。
「実は作戦を考えたんだ。単なる勝ちじゃなくて、あいつら徹底的に潰して完勝したい。コーサクとタツジンにはまだ話してないけど、あんたに先に話を通しとこうと思ってな」
「それ、どういうこと?」
「コーサクにカッコつけさせてやりてーんだよ。迷惑かけたからな」
「迷惑?」
「あいつらが美術部にからんできたのは、おれが目的だ。おれ、デカくて目立つからな。くだらんメンツにこだわるクズどもは、どこの学校にもいる」
「……」
「おれはもう誰が一番強いとか、誰がクラスをシメるとか、なんの興味もねーんだが、小6にもなってまだそんなことにこだわってるバカもいるんだよ」
「織田くんのこと?」
「タイショーってやつか? あいつ本人は、もうそういうのから半分ぐらい卒業してるみたいだが、まわりの手前、引けないこともあるんだろうな」
 そうか、そういうことだったのか、と神原シオネはなんとなく事情を理解できてきた。
 乱入三人組の態度はあまりに理不尽で、なんでこんな言いがかりをつけなければならなかったのか、まったく意味不明だった。その理不尽さに、激しくいきどおりを感じていたのだが、ようやく事情が飲みこめてきた。
「タイショーってやつは、迷ってるんだ。おれと直接やりあうのはリスクがあると判断したんだろうな。あのキョウとかいうチビがはねっかえるのを放置して様子を見てやがる。だからおれ本人より、まわりにいるコーサクが割りをくっちまってる」
「あたしには男子のメンツのことなんてよくわかんないけど、あなたが織田くんと決着つけちゃえば、それで解決なんじゃないの?」
「あいつとおれが直接やりあったら、子供のケンカのレベルじゃなくなるんだよ。たぶんどっちも無事には済まないし、話がデカくなる。むこうもそれがわかってるから様子を見てんだろう」
「ふ〜ん、複雑なんだね。ごちゃごちゃ言わないでやっちゃえばいいのに」
 まだ戦闘モードが残っている神原シオネが、やや挑発気味に言う。
「だから、おれはもう、そんなのには興味ねーって。6年生の一年間、テキトーにすごせりゃそれでいいんだ。でも、そのためには反撃しとかなきゃならない。それも、コーサクの凄さを見せる形でだ」
「ずいぶんコーサクくんを買ってるんだね」
「あいつははじめて会った時から、おれを全然色眼鏡で見なかった。そんなやつ、なかなかいねー」
 バンブーは言った。
「バカだけどいいやつだ」
「うん、知ってる」
 神原シオネは笑ってうなずいた。意外に友だち思いな超大型少年の提案を、受け入れる気になっていた。
「で、あたしはどうすればいいの?」
「おれの考えた作戦は、こうだ」
 ぼそぼそと、バンブーは思いもよらない作戦を口にした。
「……何それ! 本気?」
「もちろんマジだ。せっかくのあんたの射撃訓練が無駄になるから、先に話を通しときたかった。たのむ、納得してくれ」
「下手したら、こっちが負けるよ。それでもいいの?」
「負けねーさ」
 バンブーはニヤッと笑った。
「こっちには極上の鉄砲名人が二人もいるんだからな」
「わかった。あたしも腹くくるわ」
 スーパークラス委員の決断は早い。
「あなたの作戦にのることにする」
「あと、もう一つ聞いときたいことがある」
「何?」
「浦小でも大掃除のとき、床のワックスがけってやるよな?」
「やるけど、それがどうしたの?」
 ついこの間の学年末大掃除でも、床のワックスがけをやったところだ、と教えた。
「それに使ったモップって、どのへんに置いてある?」
「ちょっと! あなたなに考えてんの?」
「いいから、場所だけ教えてくれよ。あとはおれが勝手にやることだ」
 クラス委員は、ふーっとため息をついた。
「いいわ。何企んでんのか知らないけど、ここまできたらあたしも付き合う。どうすんの?」
「おい、おれだけで十分なんだから、場所だけ教えてくれよ」
「掃除用具が入ってるのは校舎の真ん中の階段の下にある倉庫だよ」
 少しいたずらっぽい感じで、神原シオネは笑った。
「でも、中はごちゃごちゃだから、このまえ片づけたクラス委員のあたしがいないと、モップがどこにあるかなんて、わかんないよ」
「……ふ〜ん、クラス委員なんかにしとくのはもったいねーな……」
 バンブーは少し考えてからうなずいた。
「わかった、たのむ。明日、朝一で校門前に来てくれ」
 神原シオネは大きくうなずいた。
 明日、何が起こるのか、楽しくて仕方がなくなってきた。
 生真面目な優等生。
 男勝りの冒険家。
 彼女の中で、二つの顔は両方とも真実だった……

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(第六章おわり。第七章「図工室の鉄砲合戦」につづく)



次章、遂に最終決戦!



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2014年05月12日

開戦前夜4


 そのころ、美術部担当の三又アツシ先生は、図工準備室の一画で、じっと椅子にすわっていた。
 準備室はすぐとなりにあるので、図工室で繰り広げられている小学生たちのやりとりは、みんな聞こえている。
 三又先生は、小学生同士の言い争いは、基本的にいつも放置する。
 ケンカも、集団で一人を攻撃するような悪質なものや、年齢差や体格差が大きい場合をのぞいては、見て見ぬふりをすることが多い。
 普通の小学生程度の体力なら、素手で一対一であるかぎり、めったに大事には至らないと知っているからだ。  ケンカに限らず、子供同士の問題はよほどのことがない限り、子供同士で解決した方がいいと思っている。
 その場に居合わせると、教師として注意はしなければならなくなるので、授業以外ではなるべく図工室の方には行かずに、準備室で用事をしている。
 しかし、子供にたいして無関心ということではないので、それとなく気配をうかがいながら過ごしている。
 この日も準備室で、ことの成り行きに聞き耳を立てていた。

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 耳をすませながら「コーサク大変だな」とか、「クラス委員、男前だな」とか、「お! いよいよ謎の超大型転校生が正体をあらわすか?」とか、「トノサマ、意外とテンネンだな」とか、けっこう無責任にバトルを楽しんでもいた。
 ところが話の成り行きで、明日図工室で「鉄砲合戦」が行われるらしいことがわかってくると、さすがにあまり気楽にはかまえていられなくなった。
(図工室で銃撃戦か……)
 三又先生は頭の中で様々にシミュレートする。
(危険はない思うが、ほかの先生に知られると、ちょっとまずいかな?)
 達人クラブのバカ三人と、6年1組のボス三人組だけだと何かしでかすかもしれないが、優等生の殿山マサルと神原シオネも一枚かんでいるのだから、めったなことはおこるまい、と判断する。
(エアガンとかじゃなくて、しょせん輪ゴム鉄砲だからな……)
 まさかケガ人は出ないだろう。
 強いて挙げれば、目の安全だけは考えておく必要がある。
(どうする? サバイバルゲームのゴーグルなんか、小学生が持ってるわけないしな……)
 しばらく考えて、浦小のような海辺の小学校の生徒なら、かならず全員持っているはずのものを思いついた。
(よっしゃ、これでいこう)
 深々とすわっていた椅子から、よっこらしょと立ちあがり、準備室と図工室の間のドアをあけた。
 大きく息を吸い込んでから、盛り上がっている子供たちに声をかけた。
「お〜い、おまえら。水中メガネもってるか?」
 面白くなってきたという思いと、ちょっと面倒になってきたという思いが、相半ばしてこの図工教師の胸に浮かんでは消えた。
(担任の斎木ちゃんには、一声かけとかないとな……)


 学校一の秀才・トノサマの、予想外の仕切りによって、乱入者三人は一応引き返させることができた。
 思わぬ騒ぎのせいで、もう下校時間が来てしまった。美術部の面々は、場所を移動して作戦会議をすることにした。
 決戦は明日なので、輪ゴム鉄砲に不慣れな神原シオネの射撃訓練が主な目的だった。
 学校近くの児童公園で、訓練を行った。
 神原シオネは、もちろん輪ゴム鉄砲の経験ぐらいはある。しかし当然ながら、コーサクやタツジンのような、変態的なこだわりで技術を磨いたことはない。せいぜい一発二発撃って楽しんだていどだ。
 コーサクはいくつか作っていた最新式輪ゴム鉄砲の予備をクラス委員にわたして、手に取った感触を確かめさせた。
「これがいい!」
 神原シオネが気に入った一丁を選び、コーサクの射撃指導が始まった。
 基本的には前の金曜日、バンブーにアドバイスしたのと同じだ。
 輪ゴムを左右にずれないようにまっすぐ伸ばしてセットし、両手で構え、銃身をしっかり固定し、銃口部分がぶれないように、そっと引き金を引く。輪ゴムはほぼ真っ直ぐ飛ぶが、微妙にクセがあるので、それをあらかじめ計算に入れてねらいをつける。
 神原シオネは筋がよく、飲み込みが早かった。
 タツジンという極上のお手本がいて、輪ゴム鉄砲でどれだけのことが可能か、目の前で実演して見せてくれたせいもある。明日の実戦に近い距離、約2・7メートルの感覚が、繰り返し引き金を引くごとに、体にしみこんでくる感じがした。
(なんだ、けっこう面白いじゃん!)
 今までマンガ部の活動が忙しかったので、達人クラブのやっていることにはノータッチで来たが、実際やってみると男子三人がハマるのもわかる気がした。
(これなら自分も戦える!)
 自信ができると明日の「決戦」が楽しみになってきた。撃ちあいには加わらない花村ナオミと小島ハルカも、「応援するからぜったい勝ってね!」とエールを送ってくれる。
 指導を行っていたコーサクも、「これなら十分戦力になる」と、一安心していた。
 率直にいえば、バンブーの言うとおり、明日の鉄砲戦は美術部側の圧勝だろうと予想していた。いくら6連発できたところで、一発一発の命中精度が低いものは使い物にならない。とくにあの連発鉄砲は拳銃型の片手撃ちで、引き金を引いた時の手ブレをふせぐのが難しい。
 不安要素としては、むこうのチームにトノサマが入ったことだ。トノサマは前の金曜日、図工室で工作隊の射撃練習を見ている。こちらのチームにどんなことができるかという判断材料は持っているだろう。その上で、「連発式が有利」だと考えているとしたら、それなりの勝算はあるのかもしれない。
(でもまあトノサマは、ぼくらがお寺でやった演武を見ていないからな)
 金曜以降かなり上達した状態を見ておらず、演武のあと、雑賀鉄砲衆の人に教えてもらった鉄砲術に関するアドバイスも聞いていない。
(トノサマ、キミが頭の中で考える以上に、ぼくらは進化してるんだよ!)
 神原シオネの急速な上達ぶりをながめながら、コーサクは明日の決戦について、楽観的になっていった。
 しかし、盛り上がる美術部の面々の中で、ただ一人、だまって何事か考え込んでいるメンバーがいた。
 バンブーだった。


 一方、乱入三人組+トノサマも、学校近くの堤防で一応練習はしていた。
 三人組は、自分たちが負ける可能性など万に一つも考えていないので緊張感に乏しく、身を入れた練習にはなっていなかった。
 美術部から借り受けた戦国フィギュア何体かを、低めのコンクリートガードに並べて撃つのだが、やり方がテキトーで、とても実戦を想定しているとは思えなかった。フィギュアのすぐ近くから連射して、ひっくりかえる様子をゲラゲラ笑ったりしている。
 その点、トノサマは違っていた。コーサクたちの輪ゴム鉄砲術は、手造りの単発鉄砲という条件の中では、最高レベルに近いと評価していた。6連発式という「物量」の優位はゆるがないにしても、油断したら危ない。
「明日の試合では、もっとはなれて撃つことになるはずだから、そんなに近くからじゃ練習の意味がないよ」
 さすがに見かねて、トノサマが注意する。
「いいんだよ、そんなのは。だいたいねらいをつけて連射すりゃ、一発ぐらい当たるだろ!」
 キョウが反論する。
「う〜ん、まあそうなんだけどね」
 トノサマも、まさにそのように計算していた。
 訓練で命中率を上げるより、連発できる仕組みを作った方が効率がいいと考えて、「連発式が勝つ」と判断したのだ。
 それにしても、緊張感なさすぎじゃないの、と思う。
「せめて輪ゴムを装てんする練習ぐらいやろうよ。連発式は弾こめに時間がかかるのだけが不安要素なんだから」
 そんな辛気臭いことやってられるかと言わんばかりの三人組に、さすがにトノサマも必勝の信念がゆらぎはじめていた……
(つづく)
posted by 九郎 at 20:59| 図工室の鉄砲合戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年05月11日

開戦前夜3


 トノサマの、ある意味見事な間のはずしっぷりに、図工室でもめていた美術部6人と乱入3人組は、すっかり毒気を抜かれてしまった。なんだかわけのわからないうちにトノサマのペースに巻き込まれて、どちらの輪ゴム鉄砲の性能が上か、実験することになってしまったのだ。
 それならルールを決めよう、ということになって、図工室の黒板を使用してルールミーティングが開かれることになった。このあたりの議事進行は、さすがに昔からクラス委員を度々つとめてきたトノサマの手腕が冴えた。
「まず、どうやって鉄砲の優劣を決めるかだけど、なにか意見はあるかな?」
「そんなの決まってんだろ! おたがい打ち合いをして勝ち負けを決めりゃいいんだ!」
 キョウがさっそく噛みついてくる。
「なんだったら、今からでも銃撃戦を始めりゃいいんだ!」
「下っぱが低能だと、ボスの頭の中身まで疑われるな」
 バンブーがあいかわらずキョウを無視して、タイショーだけを視界に入れながらボソッとつぶやく。
「あんだと!」
 すぐにキョウは反応するが、さすがにもう「デブ!」とは言わなくなった。
「おい、飼い主。バカ犬にちゃんとシツケしとけ!」
 挑発を続けるバンブー。タイショーは、ややうんざりしたように言った。
「キョウ、ここは殿山に仕切らせとけ」
 受け流しながら議事進行をうながす。トノサマはうなずいて論点を整理する。
「いくつか的を並べて、同じ人数で同じ距離から撃って、どちらが早く全部倒せるかを比べればいいんじゃないかな?」
トノサマの意見に、コーサクがアイデアを付け足す。
「それなら、図工室の両はしに、おたがいの陣地を築いて、そこに戦国フィギュアを同じ数だけ並べて、どっちが先に全部たおせるか競争したらいいと思う」
 黒板に簡単な図を描いて説明した。
 要するに、縁日の射的のお店みたいなのを二つ、机を使って教室の両側に作り、よーいドンで戦国フィギュアを撃ち抜く競争をしようということだ。

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「なんだ、人間は撃たねーのか。つまんねーな!」
 キョウが不満を述べる。
「相手チームのメンバーを撃って、射撃を邪魔するのはOKにしようぜ。」
 輪ゴム鉄砲は、当たっても「ちょっと痛い」だけで、めったにケガはしないものだと知っているコーサクが、また意見を付け足す。
「ドッジボール方式で、肩より上をねらうのはナシにしといた方がいい。目に当たったらちょっと危ないから」
 コーサクの意見に、トノサマも同意する。
「それならいいんじゃないかな。でもたぶん、相手チームの邪魔なんかしてるより、一人でも多く的を撃つのに回した方が有利だと思うけどね」
「試合のメンバーはどうするんだ? やっぱり工作隊3人とそっちの三人か?」
 参加者を確認するバンブーに、トノサマは意外な答えを返してきた。
「いや、実はぼくも、6連発鉄砲の方が優れているんじゃないかと思ってるから、織田君たちのチームに参加させてほしいんだよ」
 意外なことを聞く、と一同は注目する。
「少し見学させてもらったことがあるから、鈴木くんの作った鉄砲や、美術部のみんなの腕がけっこうすごいことは知ってる。でも、それを考え合わせても、6連発できるという性能にはかなわないと思う。よーいドンでどちらが的を早くたおせるかと考えると、やっぱり連発できるのが有利じゃないかな? だから、自分の説を自分の手で確認してみたいんだよ」
「トノサマよう、おまえ、参加するのはいいけど、鉄砲はどうするんだ? おれら、連発式は人数分しか持ってねーぞ」
 キョウが疑問をはさむ。
「ご心配なく。ぼくも昨日のお祭で、連発式を買ったんだよ」
 めずらしく、少し照れながらトノサマは言った。
「お坊さんや鉄砲衆の人たちのお話に、がらでもなく興奮しちゃってね。インタビューのあと、お寺のまわりを取材している時に店先で見かけて、ついつい衝動買いしちゃったんだ」
 その場の一同は、「へ〜」という顔でトノサマを見た。浮世ばなれした学校一の秀才にも、世間なみな一面があるんだなと、変に納得したのだった。
「じゃあ、こっちチームは4人ってことかよ。おまえらはどうすんだ?」
 キョウが、今度は美術部側に問いかける。美術部工作隊の方は、コーサク、タツジン、バンブーの3人なので、人数的に釣り合いが取れないのだ。
「じゃあ、あたしもやる!」
 ガタッと椅子をけって、スーパークラス委員、神原シオネが立ちあがる。トノサマの仲裁が入るまでにすっかり戦闘モードに入っていたので、自分の中に起動してしまった闘争心を持て余していたのだろう。
「おいおい、女が混ざるのかよ。鉄砲は持ってんのか?」
 キョウがバカにしたように聞く。
「あ、それだったら、こっちにはけっこう余分のがあるから大丈夫」
 すぐにコーサクがフォローする。
 参加メンバーが決まると、あとは細々とした注意点を決めて行った。はじめはいきなり出現したトノサマの仕切りに面食らっていた一同も、ルールが決まって話が具体的になるとがぜん面白くなり、けっこう本気で話し合った。
「で、決戦はいつやるんだ?」
 バンブーはあいかわらずタイショー相手にしかしゃべらない。
「おれらはいつだっていいんだぜ。なんなら、今すぐでも」
「今すぐはちょっとかんべんしてよ」
 タイショーに代わって、トノサマが答える。
「キミたちの腕前はよく知ってるからね。ぼくたちにも練習の時間がほしい」
「連発式の方が有利だったんじゃないのか?」
「その判断に間違いはないと思ってる。でも、試合会場は図工室だし、射撃方法もキミたちがふだんやってるのに近い。『地の利』はキミたちにあるんだから、せめて練習時間ぐらいはもらわないと不公平だよ」
「ふん、まあ理屈は通ってる。じゃあ、明日の放課後でどうだ?」
「え? 明日?」
「そもそも、おまえらの方から乱入してきた話で、おれらは別にやりたくてやってるわけじゃないからな。それ以上は待たないぜ」
「それはそのとおりだね。う〜ん、じゃあ、明日でもいいかな?」
 トノサマが自分のチームをふりかえると、三人は「べつにそれでいい」とうなずいた。三人は完全に工作隊の手作り鉄砲をナメているので、練習すら必要ないと思っていた。「金払って買ったものが、ショボい手作りに負けるわけがない」と頭から決め込んでいて、一度も疑わなかった。
 要は、工作隊がコツコツと積み上げた努力の結晶を、否定して笑えればいいだけなので、日時は別にどうでもよかったのだ。
(つづく)
posted by 九郎 at 19:58| 図工室の鉄砲合戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年05月10日

開戦前夜2


 図工室のストレスが最高潮に達した時点から、少し時間を巻き戻してみよう。
 ここは図書室である。
 放課後はまだ始まったばかりで、室内に生徒の数はまばらだ。窓際の席で何冊か本を積み上げて調べものをしている少年がいる。学校一の秀才・殿山マサル(通称トノサマ)である。
 トノサマは今、「石山合戦」について調べている。日曜日の戦国まつりで、お坊さんや雑賀鉄砲衆の人たちに教わったことをもとに、さらに調べを進めようとしている。
 昨日のお祭は、意外と勉強になったと思う。
 きわめて勉強熱心なトノサマだが、当然ながらごく普通の小学生という一面もある。たまには塾を休んで、のんびり祭見物でもしてみたい気分になることもあるのだ。
 ただ、一応「秀才」の看板を背負っているので、ちょっと自分からは言い出しにくい。その点、昨日のお祭は、歴史研究部の取材活動という理由がつけられるので、休むにしても自分を納得させやすくて助かった。
 実際にお祭を取材してみて、お坊さんのお話は面白かったし、火縄銃についても実物を目の前で見るということは、色々新しい発見につながるのだなとわかった。
 お祭の感動がまだ新しいうちに、もう少し勉強を進めてみようと思った。勉強は、やる気が出た時にすぐに手を付けるのがよい。そんな時の勉強は楽しいし、すごくはかどるものなのだ。
 なにか参考になる本はないかと図書室に来てみたのだが、期待はずれに終わった。
 校内の本は、せいぜい教科書に毛がはえたていど。信長についてはそれなりに書いてあるが、本願寺や寺内町のことについては、ほとんど説明がなかった。雑賀衆については、どの本にも名前すら載っていなかった。これは市立図書館で大人向けの資料を探さないとしょうがないなとあきらめる。
 社会科の棚に本を戻し、となりの理科の棚にさしかかった時、ふと立ち止まって図鑑を一冊とりだした。
 パラパラとページをめくってから、お目当ての見開きをみつける。
 それは地球の大気の断面図である。図の下の方には陸や海の様子が描かれ、上の方には宇宙空間が描かれている。そしてその中間の青空の部分には、様々な高さに様々な形の雲が描かれ、大気の流れの方向が矢印であちこちに書きそえてある。
 しばらくその図をながめたあと、トノサマは何事かに「あっ!」と気付いて、パタンと図鑑を閉じた。そのまま図書室のカウンターに向かい、貸し出し手続きをしてもらう。
(これは発見だ。鈴木くんに言っとかないと!)
 トノサマは何かしらの「発見」を胸の図鑑にかかえて、「鈴木くん」(つまりコーサク)のいる図工室へと急いだのだった。

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 図工室についてみると、なんだかいつもより人が集まっていた。なにをもめているのか知らないが、けっこう険悪な雰囲気。もめている人の輪の中に、トノサマお目当てのコーサクもいたが、ちょっと話しかけづらい状況だった。
 トノサマはふだん、あまりまわりの空気を読まないマイペースタイプだ。頭脳はきわめて優秀なのだが、友だち付き合いにはきわめて無頓着。
 なにか興味の対象があるときの集中力には驚異的なものがあったが、そのぶん、まわりは見えなくなってしまう。そんなトノサマですら「いまここで割りこむのはまずそうだ」とわかるくらい、図工室の雰囲気は険悪だった。
(え〜と、いったいなにをもめてるのかな? はやく鈴木くんに伝えたいことがあるんだけど……)
 しばらく立ち聞きすると、どうやら輪ゴム鉄砲のことで言い争っているらしい。
 話を聞いているうちに、だんだんその話題自体に興味が出てきた。戦国時代の鉄砲戦術について並々ならぬ関心を抱いていたタイミングである。
 美術部と、ほかの三人の論争は、トノサマの耳には「技能VS物量」の比較であると聞こえた。一発必中をほこる美術部の輪ゴム鉄砲テクニックと、6連発式輪ゴム鉄砲の物量では、どちらが早く正確に的をたおすことができるのか意見交換をしている、と聞こえたのだ。
 実際には、乱入者三人と美術部が、おたがい感情的な意地の張り合いになっていただけだ。しかし幸か不幸か、トノサマはそうした人間関係については、とんと無頓着であった。
 言い争いはトノサマの脳内で、きわめて学術的な討論に変換されていたのである。
 いったん興味を持ってしまうと、トノサマはがぜん行動的になる。
 まわりの空気を読むことなどそっちのけで、思ったことを口にせずにはいられなくなる。
 かくして、突然の介入は実行にうつされたのであった。
「じゃあ、どっちが勝つか、みんなで実験してみたらどうかな?」
 トノサマとしては、ごくまっとうな提案として、そのセリフは出てきたのだが、いきなり声をかけられた一同は、ポカンと口を開けるばかりだった……
(つづく)
posted by 九郎 at 21:56| 図工室の鉄砲合戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年05月09日

開戦前夜1

第六章「開戦前夜」

 月曜日になった。
 放課後、図工室には美術部のメンバーが集まっている。
 前日、最高に盛り上がった戦国まつりの余いんがまだ残っており、ふだんあまり交流のない女子三人と男子三人に共通の話題ができた。
 本物の鉄砲隊を前にして堂々たる演武をやってみせたことで、マンガ部の女子三人が、コーサクたち達人クラブをちょっと見なおしたことも、会話のきっかけになった。
 神原シオネ、花村ナオミ、小島ハルカの女子三人は、お祭のときデジカメで撮っていた写真を、さっそくプリントアウトしてきていた。
 神原シオネの写真はお祭会場の雰囲気を伝えるようなスナップショットが多く、小島ハルカの写真は会場内の珍しいものや変わったものをコレクションしたような感じで、それぞれ性格が出ていた。
 絵の実力ナンバー1の花村ナオミの写真は、完全に資料にするための撮り方だった。鎧兜の細部や、鉄砲を打つ時の姿勢がよくわかるアングルになっており、男子三人も熱心にアルバムに見入った。
 絵が上手い子は資料集めも熱心なのだなと、コーサクは感心した。
 三又先生が「今度美術部みんなで鎧兜を作るか」と提案していたことを、コーサクが一同に紹介すると、もちろん全員大賛成で乗り気になった。
 こんなに一体感があふれた図工室は初めてで、人づきあいにあまり関心のないコーサクも、めずらしく「こういうのも悪くないな」という感想をもっていた。
 だが、そんな「いい感じ」の時間は、長くは続かなかった。
 図工室のめずらしくなごやかな空気を無視するように、「ドカドカ」という感じで乱入してきた一団があったのだ。


 勢いよく開けられた戸が反対側にぶつかって、大きな音を立ててはね返る。
 教室内にいる者に、わざわざ聞かせるための乱暴な戸の開け方だ。
 図工室にいた美術部員六人の視線が、いっせいに入口の方に集中する。
 そこにいたのは、織田ヒロト(タイショー)、米田ノボル(ノボ)、相田キョウイチ(キョウ)の、6年1組ボス三人組だった。先頭に立って、ニヤニヤ笑っている小柄な少年はキョウだ。乱暴に戸を開けたのもこの少年の仕業だろう。
「よう! オタクども! あいかわらず暗く遊んでるか?」
 バカにしたような表情と口調で、声をかけてくる。
「メガネくんよ、見てみろよ、これ!」
 三人が手に持っているのは、昨日お祭会場で売られていた輪ゴム鉄砲だった。
「……それは?」
「きのう二子浦の祭で買ったんだぜ。おまえらのショボい手作り鉄砲とはちがうだろ! なにせ6連発だからな!」
 もちろん知っていた。コーサクも店先で見かけ、試射までさせてもらっているのだ。
 あのね、たしかに6連発でカッコいい鉄砲だけど、と言いかけてから、コーサクはやっぱり反論しないことにした。
 連発式鉄砲について色々意見はあるのだが、「こいつらどうせ、そういうことを話しに来たわけじゃないだろう」とわかりきっていたからだ。
 達人クラブの「手作り輪ゴム鉄砲」をバカにすること自体が目的なのが見え見えで、まともに反論してもよけいにからまれるだけだ。
 なぜだか知らないが、このケンカっ早い小柄な少年は、自分に対してふくむところがあるらしい。金曜日の帰り道、ふゆかいな目にあったときの感じでは、どうやらそれはバンブーの存在と関係があるらしいのだが、詳しい事情はまだわからない。
「へ〜すごいね。6連発かあ。とても自分では作れないなあ」
 などと棒読みの生返事をしながら、コーサクは頭の中で別のことを考えている。
(こいつら、なにがねらいでちょっかいかけてくるんだ?)
「まあ、ぼくらはぼくらのペースで遊ぶよ」
 できれば、このままおとなしく去ってほしいのだが、しつこくからんでくる。
「そうだな。おまえらオタクには、しょせんそのていどがお似合いだな」
「ちょっと! あんたたち感じ悪いじゃない!」
 もともと気の強い神原シオネが、ついにがまんしきれずキレた。

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 一歩前に進み出て、乱入三人組の前に立ちはだかる。
 細身だがスラッと背が高いので、男子相手でも見劣りしない。とくに小柄なキョウが相手なら、上から見下ろす形になる。
 男子が本格的に成長期をむかえるのは中学生になってからなので、小学生の段階では、まだけっこう女子の体格が優勢なのだ。
「ナメてんじゃないよ! うちの鉄砲隊は、本当にすごいんだから! 大人の鉄砲隊だって感心してたんだからね!」
 正義感がきわめて強いので、「身内」に対して理不尽なことがあれば、日頃の優等生の態度ではなくなる。
 戦闘モードに入ると、自分が正しいと信じることのためなら、世界中を敵にまわしても平気になってしまう。
 この向こうっ気の強さがあるからこそ、男子をむこうにまわして仕切りまくるスーパークラス委員でいられるのだ。
(あ〜あ、はじまっちゃったか……)
 コーサクの心は複雑だった。神原シオネが、自分のために怒ってくれているのはわかる。ありがたいという気持ちは、もちろんある。
(でもなあ……)
 こいつら、なにかねらいがあって、わざとこっちを怒らせようとしてるはずなんだよね。そんなのにまともにぶつかっても、相手の思うつぼなんだよ。そのへん、わかんないもんかねえ、スーパークラス委員の神原さん……
 変に冷めた頭でそんな風に考えているコーサクとは無関係に、乱入男子三人組VSスーパークラス委員の舌戦は、しだいにヒートアップしていく。
 コーサクは周囲の状況を確認する。花村ナオミはだまったままふつうの顔になっている。ナオミの場合、ふだんから笑顔が基本なので、今はかなり緊張しているのだろう。真面目な子がこんなことに巻き込まれて、気の毒になあ……
 小島ハルカは少しはなれた机の下にもぐりこんでいる。避難訓練でもあるまいし、ちょっと笑ってしまった。さすが不思議ちゃん。でも、スマン……
 タツジンはいつも通りだ。乱入三人組のことなど、まるで存在しないかのように完全無視。ぜんぜんこたえてないな。さすがタツジン、クール!
 さて、どうしようかな、と考えていると、突然状況が変わった。
「よう、その6連発って、カッコいいよな。おれにもちょっと見せてくれよ。」
 バンブーが口をはさんだのだ。
「大丈夫、ちょっと借りるだけだよ。すぐ返すって」
 ニヤニヤ笑いながら続ける。コーサクは「フテキな笑顔」というのはこういう顔のことかと思った。
「ほら、いいから貸せよ。おまえらを撃ったりしねーよ。なにビビってんだ?」
 いきり立っているキョウ、にらみつけているノボには目もくれず、バンブーはぬーっと進み出て、タイショーの眼前に立つ。
「な、ちょっとだけ貸してくれよ」
 ここまで言われたら手渡さないわけにはいかない。渡さなければそれこそビビって逃げたことになる。タイショーは無言でバンブーに鉄砲を渡した。すでに輪ゴム6本は装てん済みで、いつでも撃てる状態になっていた。
 コーサクはそれを見て、苦々しく考える。
(話の流れによっては、美術部相手に無差別発砲する気満々だったのか? 女子もいるのに、ひでーな……)
 バンブーは鉄砲を手にとって、ためつすがめつしたあと、教室のはしの方にむかって連続で引き金を引いた。何もない空間に、輪ゴムが6発飛んでいく。
「ふ〜ん」
 バンブーは鼻から息を一つぬいたあと、ポイッと鉄砲を投げて返した。
 不意を突いた絶妙のタイミング、ちょうど手前に落ちるフライで返されたので、思わずタイショーはよろけながら空中で受け取った。
 体勢を崩した自分を笑いながら見つめているバンブーに気づき、それまで余裕しゃくしゃくだったタイショーの表情は一変した。
 こいつ、わざとやりやがったなと、殺気に似たものが眉間にひらめいている。
 一つ一つのやりとりが、見えないサンドペーパーのように二人の神経を削り取り、見ているまわりの方が疲れてくる。
「ま、祭の露店で売ってるオモチャなんて、このていどのもんだろうな」
 鼻で笑いながら、バンブーは言った。
「コーサクの輪ゴム鉄砲の足もとにもおよばねーや。戦ったら瞬殺だな、瞬殺」
(ああ、言っちゃった……。でもまあ、ほんとのことなんだけどね……)
 コーサクは口には出さないけれども、バンブーの見解には同意している。
「なんだと、デブ!」
 キョウが毒づくが、バンブーが一にらみするとそれ以上は続けない。金曜日の朝、この超大型少年には少々痛い目にあっているのだ。
「おい、こら」
 バンブーは一貫してタイショーにしか話しかけない。
「いつまでも下っぱにやらせてんじゃねーや。めんどくせーやつだな」
「は? なにわけのわかんねーこと言ってんだ?」
 タイショーがようやく言葉を返す
「とぼけんな、カスが。なんなら、今ここでやってもいいんだぜ、こっちはな」
「……」
 やるか?
 本当にここで?
 バンブーとタイショウの間の空気がゆがみ、帯電したようにバチバチ火花が散っている様子が、目に見えるようだった。
 そのとき、教室の入り口の方から、別の声がかかった。
「じゃあ、どっちが勝つか、みんなで実験してみたらどうかな?」
 その場の空気にまったくそぐわない声の主は、学校一の秀才・殿山マサルのものだった。突然の新キャラ登場に、あっけにとられる一同……
(つづく)
posted by 九郎 at 21:54| 図工室の鉄砲合戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年05月08日

寺内町と鉄砲衆5


「今からやる演武はまだ練習中なので、うまくいくかどうかわかりませんが、とにかくやってみます」
 コーサクは観客達の方をふりかえりながら言った。
 的用のパイプ椅子を一つ、本堂のはしぎりぎりのところに置いた。そこから畳の長辺で五つ分、距離にして約9メートルのところに、もう一つ椅子をおいた。あらためて、本堂の広さがわかる。小学校の図工室と同じくらいありそうだ。
「ここから輪ゴムを撃って、むこうの椅子にのせられます」
「ちょっと遠すぎないかい? とても届かないだろう」
 孫末さんが聞いてくる。
「はい、ふつうの輪ゴムだと無理なんですけど、これなら届きます」
 リュックからゴム幅1センチほどの大型ゴムバンドをとりだした。
「すみません、まだ修行中なので、一発練習してから本番にします」
 コーサクはそう言ってから、自分の近くに置いた椅子の背の部分のうしろにひざをついた。
 輪ゴム鉄砲に大型ゴムバンドをかけ、的との距離を何度も確認しながら、銃身を椅子の背にのせて角度を固定した。設置した椅子に銃身をのせるのは、手で固定するより確実だからだ。

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 ためしに一発撃ってみる。
 バシュッ!
 野球の遠投のように、やや山なりに飛んだゴムバンドが、椅子の手前に落ちる。コースは合っているが、飛距離が足りなかった。
(うん、なんとか感じはつかめたかな……)
 ちょっとまよったが、思い切って宣言する。
「じゃあ、本番行ってみます!」
 さっきの試射より、銃身の角度をわずかに浅く固定した。これで飛距離が少しのびて、椅子の上にのるはずだ。祈るような気持ちで引き金を引く。
 バシュッ!
 大型ゴムバンドが「ブン」とうなりながら舞い上がる。ゆるい山を描きながら飛んだバンドは、勢いを失いながら落下し、そして……
 吸い込まれるように椅子の上に着地した。
「おお〜!」
 見ていた大人たちの口からどよめきがもれ、自然に拍手が起こった。
「いやいや、実にすばらしい!」
 孫末さんが拍手しながら三又先生に声をかけた。
「この鉄砲作りや射撃は、先生がご指導なさったんですか?」
「ほとんど子供たちが自分自身でやってるんです。私がやったのは、去年、割りばし鉄砲の作り方を教えたことだけで」
「なるほど……」
 孫末さんは少し考え込んだあと、ニコッと笑って工作隊の三人を見た。
「ありがとう、素晴らしい演武だったよ。もしよかったら、ちょっと君たちの鉄砲を見せてもらえないか?」
 どうぞどうぞと、コーサクが自分のものを手わたす。孫末さんは手にとった輪ゴム鉄砲をあちこちからながめ、自分でも構えてみたりした。
「う〜ん、『目当て』にあたる部分もちゃんとあるし、なかなかしっかりした作りだ。キミたちは習ってもいないのに、砲術というものの基本ができているね。さっきの遠距離射撃のやり方なんて、大筒を使った砲術そのものだったよ」
 お世辞ぬきで感心してくれているようだ。
「キミたち、名前はなんと言うんだい?」
「ぼくは鈴木ヒサト。みんなにはコーサクって呼ばれてます。こっちが土橋(どばし)タツジ、タツジンです。もう一人が佐竹アキノブ、バンブーです」
「ふ〜む、鈴木くんに土橋くん、そして佐竹くんか……」
 孫末さんは腕を組んで何事か考えていた。
「偶然なんだろうけど、君たち三人の名字は、戦国時代の雑賀衆のリーダー格の中にもいたんだよ。雑賀孫市の名前で有名な鈴木孫一、『どばし』ではなくて『つちはし』と読む土橋若大夫、それに少し字は違うが、佐武伊賀守(さたけいがのかみ)。いずれ劣らぬ鉄砲名人だったという。どうだい、面白いだろう?」
「へ〜、そうなんですか!」
 演武を行った少年たちは、意外な指摘におどろいた。なんだか自分たちが、戦国時代の鉄砲衆とつながりがあるような気がしてきた。
「なんにしても、今日はおじさんたちも大変いいものを見せてもらったよ。わざわざ和歌山から出てきたかいがあった。本当にありがとう」
 そして孫末さんは最後に、うれしい提案をしてくれた。
「ささやかなお礼に、キミたち少年鉄砲隊に、砲術の心構えや、戦国時代の雑賀衆が実際に使っていたという戦術を、いくつか教えてあげよう。それは、本当にあったかどうか疑問の残る『三段撃ち』なんかより、はるかに合理的な技なんだよ」
 思わぬうれしい提案に、子供たちは、ワッと盛り上がったのだった。
(第五章おわり。第六章「開戦前夜」につづく)



次章より

 急 展 開 !



posted by 九郎 at 21:57| 図工室の鉄砲合戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年05月07日

寺内町と鉄砲衆4


「どうしたコーサク、ほら言えよ!」
「でも……やっぱり、なあ」
 困ってタツジンとバンブーの方をふりかえるが、二人ともそっぽを向いている。一人は無口で孤高をほこる達人、もう一人はまだ入部したばかりの転校生。
(まいったな……やっぱりお願いするとしたら、ぼくが言うしかないよな……)
「じれったいやつだな。仕方がない、おれが言ってやるよ!」
 三又先生は孫末さんにこう言った。
「孫末さん、実はわが二子浦小学校にも、凄腕の鉄砲隊がいるんですよ!」
「ほう?」
「こいつら三人、美術部で輪ゴム鉄砲を手作りして、日々修行を積んでるんですが、熱心なのでかなりの腕前になってます。こいつらの輪ゴム鉄砲演武も一度見てやってもらえませんか?」
 突然の申し出に戸惑っていた雑賀孫末さんも、事情がわかるにつれて、だんだん笑顔になっていた。そして、興味津々という感じで、三人に声をかけた。
「なるほど、それは面白そうだ! 君たち、ぜひ見せてくれんかね?」
 ここまできては、達人クラブの三人もあとには引けない。
「う〜ん……、じゃあ、やるか?」
 コーサクの一言に、タツジンとバンブーも大きくうなずいた。
 三又先生はあたりを見回し、ふと気づいたようにお坊さんに言った。
「そうだな、ここで演武をやると輪ゴムの後片づけが大変だ。まことに厚かましいんですけど、どこか屋内で広さのある所をお借りできませんでしょうか?」
 それなら本堂へ、ということで一同場所を移すことになった。
「斎木先生、ぼくたちは三人の腕前はよく知っているので、ここはちょっと失礼して、お寺の周りの取材に行ってきていいですか?」
 歴史研究部を代表して、トノサマがおうかがいをたてた。斎木先生はうなずいて、「じゃあ私はそちらについていこうか」と言うことになった。
 お坊さんと鉄砲衆、浦小美術部(先生一人、男子三人、女子三人)は、お寺の広い本堂へ移動した。コーサクは、旅館以外でこんなにたくさんの畳を見ることはめったにないと思った。
 的を配置するために、パイプ椅子をいくつか貸してもらった。お寺には足腰の弱ったお年寄り向けに、けっこうたくさんのパイプ椅子があるのだ。
 達人クラブの三人が、それぞれのリュックから新作の輪ゴム鉄砲、輪ゴム、戦国フィギュアを取り出すと、孫末さんが「ほう」とつぶやいた。輪ゴム鉄砲と聞いて、よくある「割りばし鉄砲」のようなものを思い浮かべていたのだ。
 子供の工作を見学するつもりが、思いがけず本格的な作品が登場したことにおどろいたのだ。
 椅子を横一列にすき間なくならべ、的の戦国フィギュアをあるていど間かくを開けて配置する。このあたりはいつも図工室でやっているのと同じだ。
「じゃあ、さっきの演武みたいに、一斉射撃をやってみようか」
 コーサクが提案すると、タツジンとバンブーがうなずき、的から畳の短い辺三つ分ほどはなれたところに整列する。
「距離は約2・7メートル」
 タツジンが目測で見当をつける。
「けっこう遠いね」
 孫末さんが、「大丈夫か?」という感じで一言感想を述べる。これだけ離れると、けっこう戦国フィギュアが小さく見える。
「輪ゴムかけ!」
 コーサクがついさっき見たばかりの演武のかけ声をまねると、タツジンとバンブーが「プッ!」と笑いながらも、すぐに真顔になって輪ゴムを装てんした。
「構え!」
 三人はそれぞれの輪ゴム鉄砲をかまえた。鉄砲衆の演武とよく似た半身の両手構えだが、これはマネではなく、独自の修行のたまものだ。
「むかって右はしから一斉に三体撃つよ。それぞれバンブー、タツジン、ぼく」
 ピタリとねらいをつける。銃身はこゆるぎもしなくなる。

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「はなて!」
 ビシュン!
 三つの輪ゴム鉄砲が、たった一つの音をたてた。次の瞬間、パイプ椅子の上では右はしから三体の戦国フィギュアがたおれた。単に「当てる」だけではなく、正確にフィギュアの頭部あたりを打ち抜かないと、たおれない。
「お見事!」
 孫末さんが小さくつぶやき、ほかの雑賀鉄砲衆のみなさんの口からも、ほうとため息がもれる。
「次は連続射撃をやってみよう」
 緊張の一発目を見事に決め、すっかり調子が出てきた浦小鉄砲隊は、次々にさっき見た演武をまねてみせる。輪ゴムかけ、構え、のかけ声のあと、コーサクが一発目と同じ指示を出す。
「左から三体、それぞれ」
 しばらくねらいをさだめる時間をおいてから、「はなて!」と号令。
 ビシュン! ビシュン! ビシュン!
 今度も全弾命中したが、コーサクの的だけたおれなかった。
(チェッ! ちょっと調子にのったな!)
 くやしい思いをするが、つづくいくつかの試射では、大きく失敗せずにすむ。やはりタツジンはほとんどはずさない。コーサクとバンブーは、ときにはずすこともあるが、八割以上は命中させる。
「じゃあ、今度はタツジンの早撃ちを見てもらおうか」
 タツジンは軽くうなずいて、的からの距離はやや短め、約1・8メートルの位置に立った。パイプ椅子を一つ、自分の右側に置き、その上に輪ゴムを一つかみ、パラッとのせる。
 的は五体の戦国フィギュア。しばし呼吸を整えてから、早撃ちを開始する。輪ゴムをかけてからねらいをつけ、引き金を引く。
 その間、3〜4秒。
 一連の動作はよどみなく、ただ無造作に引き金を引いているとしか見えないのに、全弾命中する。
 これにはさすがの孫末さんたち雑賀鉄砲衆も、言葉が出ない。
 予想を大きく上回る技量に、ただ圧倒されている。
「コーサクも遠距離射撃を見てもらえよ」
 タツジンが、コーサクの背中をバンッとたたきながらうながす。
「でもあれはまだ……」
「いいから、いいから、やってみろって!」
 バンブーにも背中をたたかれ、しかたない、やってみるかという気になった。
(つづく)
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2014年05月06日

寺内町と鉄砲衆3


 お坊さんが、鉄砲演武の時に采配をふるっていた人を紹介してくれた。
「こちらは雑賀鉄砲衆のリーダー、雑賀孫末さん。孫末さんは、お手製の鎧兜の鉄砲衆を引き連れ、全国のお祭に出張して、雑賀衆を紹介してまわってるんだよ。それじゃあ孫末さん、あとはよろしくお願いします」
 兜は脱いでいるが、鎧は着たままのヒゲ面のおじさんが、ニコニコ笑いながらあとを引き受けた。
「こんにちは。おじさんの知ってる範囲で、質問に答えさせてもらうよ」
 さっそく殿山マサルの質問が始まる。
「よろしくお願いします。では最初にちょっと確認しておきたいんですが、今日のお祭でも、さっきのお坊さんのお話でも、『雑賀』のことを『さいか』と読んでましたよね? 僕は今までずっと『さいが』だと思ってたんですけど。どちらが正しいんでしょうか?」
 そう言えば、自分もなんとなく「さいが」だと思っていた、とコーサクは思う。
 さすがトノサマは細かいところまでよく気がつくなと感心した。もっとも、その細かいところまでよく気づく性格のせいで、金曜日の理科の時間、雲の観察発表ではやりこめられてしまったコーサクだったが……
「読み方については、『さいか』が正解だね。今の和歌山市周辺のことを昔から『さいか』と呼んでいたんだよ。漢字の『雑賀』は後から当て字されたもので、漢字の『賀』の字の印象から『さいが』とも読まれるようになったんだろうね」
 あまりにも興味津々で、思わずコーサクも横からわりこんで質問する。
「おじさん、雑賀孫末って本名ですか? もしかして戦国時代の雑賀孫市の子孫なんですか?」

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 孫末さんは笑って答えた。
「もちろん本名じゃなくて、芸名みたいなもんだね。ふだんは普通に仕事をしていて、鉄砲衆は趣味だから。最近は本業以上に本気の趣味になってしまったが、実際の雑賀衆の子孫という訳じゃないんだよ。それに、さっきも言ったように『雑賀』というのは地名で、戦国時代にそういう名字の人がいたわけじゃない」
「じゃあ、マンガやゲームに登場する雑賀孫市は、本当はいなかったんですか?」
「いやいや、『雑賀孫市』のモデルになった人はちゃんと実在した。鈴木重秀孫一という人でね。石山合戦で織田信長を苦しめた雑賀衆のリーダーは、間違いなくこの人物なんだ。凄腕のスナイパーだったことも、まず間違いない」
 トノサマは、マンガやゲームにかたむきそうになる話の流れを軌道修正するように、自分の質問を続けた。
「孫末さんたちは火縄銃を訓練してますけど、現代に火縄銃が使われることって、あるんでしょうか?」
「火縄銃というのは古い武器なので、実戦に使われることはもうないだろうね。私たちがやっているのは『砲術』という古武術の一種としての鉄砲術だよ」
「それは戦国時代に使われていたのと同じものなんですか?」
「私たちが学んでいる砲術は、主に江戸時代から紀州に伝わっていたものだから、戦国時代の雑賀衆の技術とは違うところもたくさんあるだろうね。たとえば、さっきの演武ではかけ声とともに一斉射撃をやっていたけど、実際の戦場では、おそらくそれは無理だったんじゃないかと思う」
「でも、有名な『長篠の戦い』では、一斉射撃が行われたんじゃないんですか?」
「キミが言っているのは、織田軍の『三段撃ち』のことかな?」
「そうですそうです! 三千丁の鉄砲を三隊にわけて、弾こめに必要な時間を節約したという、あの戦術です」
 めずらしくトノサマが声を高めた。戦国好きの小学生がまず心おどらせるのが、織田軍の鉄砲隊の強さであり、信長の天才的な戦術だ。それがもっともよくわかる形で表れているのが、織田鉄砲隊が武田騎馬隊を打ち破った、いわゆる「鉄砲三段撃ち」なのだ。
「いろんな意見があるけど、私はあの『三段撃ち』という戦術は、実際は無かったんじゃないかと思う」
 意外なことを聞く、という風にトノサマは首をかしげる。
 孫末さんは、疑問を解き明かすように順に話を進めていく。
「ちょっと整理してみようか。キミたちはさっきの鉄砲演武を見て、どんな感想を持ったかな?」
 コーサクがすぐに答える。
「とにかく、音と火柱がものすごかったです!」
 トノサマはそれに続いて、もうすこしくわしい感想を述べる。
「発砲した時の音と火柱自体が、敵を威嚇し、すくみあがらせる効果があったんじゃないかと思いました。直接弾が当たるかどうかは別にしても、ぜったいに銃口のむこう側には立ちたくないと思ったなあ……」
「音と火柱か。なかなか良いところを見ていたね」
 孫末さんはうなずきながら続けた。
「今日の演武ではせいぜい5〜6丁だったけど、石山合戦や長篠の戦いでは、両陣営あわせて数千丁の鉄砲があったと考えられる。それだけの鉄砲が戦場に持ち込まれていたということは、当然、火薬も大量に持ち込まれていることになるね。火縄銃というのは名前の通り、縄に火をつけ、むき出しの火薬を銃身に詰め込んで使うんだけど、そのときの注意点はなんだと思う?」
「暴発や引火事故ですか?」
「そのとおり。実際たびたび暴発や引火事故は起こっていたんだよ。ただでさえ危険なのに、場所は何が起こるか分からない戦場だ。一発鉄砲を放てば、キミたちも体験したとおりのものすごい音がひびく。何千丁も鉄砲があれば、人間の声なんてまったく聞こえなくなっただろう。おまけにあの火柱だ。あたりには火薬がこまかな粉じんになって飛び散り、ますます引火の危険性は高まってくる。そんな状況で、技量のバラバラな多人数の射手が、号令に従って整然と一斉射撃を行なったり、鉄砲を持ったまま交代のためにばたばた走りまわったりするのは、ちょっと無理があると思う。いちばん安全で効率的なのは、個別の撃ち手チームそれぞれが、それぞれの判断で射撃を行うことだと、私はそう考えるよ」
 トノサマをはじめとする一同は、う〜んと考え込んでしまった。織田信長の有名な戦術が無かったかもしれないというのは、いかにも残念だった。それでも実際に火縄銃の射撃を目にして、順を追って説明してもらうと、「やっぱりなかったのかなあ」と納得せざるをえなくなる。さっきまでのお坊さんのお話でも感じたことだが、歴史の実際を考え始めると、無邪気な信長ファンであることがむずかしくなってくるようだ。
「信長軍は石山合戦で本願寺がたの雑賀鉄砲衆に手を焼いたので、直接紀州の雑賀の地に攻め込んできたこともあるんだよ。数万の圧倒的な軍勢で攻め寄せてきたのに、わずか数千の雑賀衆に手こずって滅ぼしきれなかった。実質的には『攻め入ったけど追い払われた』という結果になったんだ。この雑賀合戦は、有名な『長篠の闘い』のあとにあったので、もし織田の鉄砲隊が戦国最強だとすると、おかしなことになってしまうね」
 確かにその通りだ、と浦小の面々は思った。
「ただ、『だから信長は強くない』ということにはならないんだ。信長には広い視野があったことは確かで、鉄砲戦術だけではなくて、政治、外交、経済、すべての手段を使って勝利をおさめる能力が高かったことは間違いない。結局、本願寺も雑賀衆も、総合力では信長にはかなわなかったんだよ」
 基本的に信長ファンの多い小学生たちは、孫末さんのまとめにホッと一息ついた。しかしこれまでのように無邪気な信長ファンではいられそうにない。
 さて、そろそろ質問もなくなったかな? という雰囲気になったとき、それまでだまって話を聞いていた美術部監督の三又先生が、口を開いた。
「コーサク、このまま終わっていいのか?」
 一同が三又先生を見、それからメガネをかけた小柄な少年を見た。
(つづく)
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2014年05月05日

寺内町と鉄砲衆2


「いくつかお聞きしたいことがあるんですけど、いいですか?」
 トノサマがノートを開きながら言った。
「これはこれは、さすがに殿山の坊ちゃんは研究熱心だね」
 地元の旧家の子弟とお寺さんは、もちろん旧知の仲である。お坊さんは楽しげに目を細めた。山賊の大将みたいだった顔に、とたんに愛嬌が出てきた。
「開会式のご挨拶に出てきた『石山合戦』というのは、たしか織田信長が今の大阪城のあたりにあった本願寺の土地をうばおうとして、十年間ぐらい戦争したんですよね? この二子浦は、大阪とはすごくはなれているんですけど、どのように関係があったのか、教えてください」
「なるほど。もっともな疑問だね。その説明にはまず、戦国時代と現代の、交通手段のちがいについて、考えてみたら良いと思う」
「え? 交通手段ですか?」
 さすがの学校一の秀才も、少し戸惑った様子だ。
「現代なら、人や物が移動する手段には色々あるね。自動車や鉄道、飛行機もあるし、もちろん船もある。ところが戦国時代はどうだっただろうか?」
「昔のことだから、自動車や鉄道、飛行機はダメですね。すると陸上では徒歩か牛や馬、海や川の場合は船ですか……」
「その通り。戦国時代には、一番速くて輸送力があったのは、船による水運だったんだよ。中でも瀬戸内海は、当時の日本の物流の大動脈だったんだ。今の大阪城あたりにあったと言われる石山本願寺は、京の都や琵琶湖から続く川の道、紀伊半島へと続く海の道、それに大動脈である瀬戸内海を結ぶ、絶好の立地だったんだね。信長は経済活動にものすごく力を入れていたので、単にお城の場所として大阪を欲しがったわけじゃなくて、石山本願寺がにぎっていた物流の力を、まるごと手に入れようとしたんだよ」
 顔に似合わず、お坊さんはけっこう勉強家であるようだった。
「戦国大名同士の戦いはふつう、陸上だけで決着がつく領地の奪い合いだった。ところが本願寺の場合、系列のお寺がそれぞれに寺内町をつくり、その寺内町同士が水運でつながって、人やモノや情報を当時最速のスピードでやりとりしていたんだよ。だから信長は大阪一か所を包囲して十年間戦ったわけではなくて、全国的な寺内町のつながりそのものを相手に戦争をしかけたんだね」
「あ、ちょっとわかってきました! 大阪から遠い二子浦にも、この来光寺を中心にした寺内町があったから、石山合戦に参加することになったんですね?」
 お坊さんは満足げにうなずいた。
「信長VS本願寺、信長VS一向一揆というと、どうしてもお寺にムシロ旗をかかげた農民たちが立てこもって、念仏を唱えながら竹槍を振りかざしているようなイメージになるんだが、実際の一向一揆衆には、武士も農民も、商人も職人も、漁師なんかもふくめて、あらゆる身分の人々が力を結集していたんだ。とくに、海賊とか水軍とか呼ばれる、瀬戸内海周辺を拠点にしていた勢力には、一向一揆に参加した人々が多かった。紀州の雑賀水軍や、中国の毛利水軍なんかがその代表で、彼らの軍事力がなかったら、さすがの本願寺もそんなに長く抗戦することはできなかっただろうね」
「う〜ん……なるほど……」
 トノサマはしばらく何事か考えこんだ。さすがの秀才も、教科書にのっている以上に踏み込んだ内容に対しては、頭の整理が必要になってくる。
「なぜ本願寺の寺内町には、そんなに色んな人々が集まっていたんですか?」
「戦国時代というのは弱肉強食で、武力をもつものが好き勝手をやったり、人間が牛や馬のように売り買いされることがふつうにあって、人の命というものが本当にはかない時代だった。ところが本願寺の教えでは、仏様の前で人はみんな平等だとされているからね。当時、差別されていた身分の人もみんな仲良く力を合わせることができたんだろう。日本は伝統的に、平地の農民が模範的な『良民』と考えられがちだったんだが、本願寺の寺内町には色々変わった人たちが集まって、仲良くにぎやかに過していたんだよ」
(へ〜)
 横で話を聞いていたコーサクも、思わず興味をひかれた様子だ。
(ぼくらの『達人クラブ』も、戦国時代の寺内町なら活躍できたかもしれないな。今だと単なる変人扱いだけど……)
 お坊さんは熱心に話を続けた。
「弱肉強食の地獄のような外の世界にくらべれば、一応平等な寺内町の生活を、この世の極楽のように感じる人々は多かっただろうね。自分たちが力を合わせ、苦労して作り上げた生活を守りたいという願いがあったからこそ、あの織田信長を相手に、十年間もねばり強く戦い抜くことができたんだと思う」

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 お坊さんのお話が佳境に入るにつれ、トノサマは途中何度かメモのための時間をとってもらいながら、興味深そうに何度もうなずいていた。
「でも結局、本願寺は負けたんですよね? 敗因は何だったんですか?」
「一言でいうと、寺内町同士の『つながり』を分断されたことだろうね。土地と国境にしばられた戦国大名に対して、本願寺の強みは国境を越えた、今風に言うとネットワークの強みだったわけなんだが、信長はそれを上手く分断して、一か所ずつ潰していったんだ。その後の日本は、信長、秀吉、家康という天下統一のリレーの中で、武士を頂点にした身分制でがっちり固められて行くことになった。だが、もし石山合戦がもう少し長引いていたら、そういう形の日本にはならなかったかもしれない。身分にしばられない寺内町の自治のあり方が、もっと広まる可能性があったかもしれないと、私は考えているんだよ」
 質問しているトノサマをはじめ、聞いていた小学生たちは、一様に「へ〜」と感心した顔になっていた。
「わたしには、寺内町のにぎわいを現代によみがえらせたいという夢があるんだ。今回のお祭が、その第一歩になればいいと願ってる。これからも色々な行事をやっていくから、浦小のみんなもぜひ参加してください。どうかよろしく!」
 開会式でお坊さんの挨拶を聞いた時に感じたことが、よりわかりやすく頭に入ってくるような気がした。学校で習う日本史とはまったく違う物語があって、その物語が自分のよく知っている土地を舞台にしていたらしいことに、なんとも言えず、心がわくわくしてきたのだ。
 トノサマはこまごまとメモを取ったあと、話題を変えた。
「石山合戦全般については、以上です。あと、火縄銃についても質問があるんですけど、いいですか?」
「鉄砲については、私より孫末さんの方が詳しいから、あとはそちらに引きついでもらおうかな」
(つづく)
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2014年05月04日

寺内町と鉄砲衆1

第五章「寺内町と鉄砲衆」

 昼休みに入ってからも、鉄砲演武の興奮は中々冷めなかった。達人クラブもマンガ部も歴史研究部も、口々に感動の言葉をのべてもりあがっていた。
 午後一時までのお昼休みに食事をとってから、お坊さんと鉄砲隊の皆さんに少しお話を聞けるということになり、子供たちはそれぞれにお店で食べ物を調達してきた。事前に「お祭会場で食事をするので、お弁当かお小遣いをもってくるように」という連絡があったのだ。
 斎木先生は小さなお弁当持参だったが、ほかのメンバーは、焼きそばやサンドイッチ、ちょっとめずらしいエスニック料理など、思い思いのお昼ご飯を買って持ち寄った。
 中でも目を引いたのはバンブーで、焼きそばとソーセージとチョコバナナなど、ほかの子供たちの三倍くらいの量をかかえてきて、小食な斎木先生をびっくりさせた。

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 石段を登りきったお寺の境内には、運動会の時みたいなテントがあって、控室として使われていた。浦小の面々はそこでお坊さんや雑賀鉄砲衆のみなさんと昼食をとった。
 鉄砲衆の人たちは、さすがに食事のときは兜を脱いでいたが、鎧は着たままだったので、動くたびにガシャガシャ音がして、なんだかものものしい雰囲気だった。
 衣を着たお坊さんや、鎧武者といっしょにお昼ご飯を食べるということに、最初はみんな緊張していたが、お坊さんも鉄砲衆も色々気さくに話しかけてくれて、すぐに打ち解けた。
 マンガ部の女子三人は、鉄砲衆の中の紅一点のお姉さんをとりかこんで、早くもあれこれインタビューを開始していた。
 食事が一段落したあと、子供たちからの質問に、お坊さんと鉄砲衆が答えてくれることになった。ここで活躍したのは学校一の秀才・トノサマ(殿山マサル)で、お祭当日までの下調べ、開会式でのお坊さんのお話や鉄砲演武のときのメモを材料に、さっそく質問を開始した。
(つづく)
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2014年05月03日

戦国まつり5


 来光寺へとのぼる石段の途中、何か所かある石垣の踊り場のようなところの一つに、「雑賀鉢」をかぶり、鎧を身につけた一団が、火縄銃をかついで整列した。
 ガシャガシャときしむ鎧の音が、静まりかえった会場に小さくひびく。担ぎあげた火縄銃はさすがに本物の迫力だ。かなりの重量があるらしいことが、鉄砲隊の動きからも伝わってくる。さっき担いでいた模型とは迫力が全然ちがう。
「火縄かけい!」
 采配を持った鎧武者の一人が、号令をかけた。
「構え!」
 ガシャガシャ、と鉄砲が同じ角度でならぶ。
「火ぶた切れ!」
 それぞれの鎧武者の右手が小さく動く。
「はなて!」
 ど っ ぱ ー ー ー ー ん
 銃口から盛大な火柱が走り、轟音が耳をつんざいた。
 粉雪のような灰があたりに舞い散り、硝煙が鼻をついた。
 せまい二子浦の湾内に、銃声のこだまが何度も返った。

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 コーサクをはじめとする、浦小の子供たちは、文字通り目を丸くし、口をポカンと開けたまま、その場に固まってしまった。日ごろしっかりしているトノサマや神原シオネまでが、驚きのあまり硬直してしまっていた。女子たちはせっかく持ってきているデジカメを使うことも、完全に忘れてしまっていた。
 子供たちばかりではなく、その場にいる大人も含めた全員が、「腰を抜かす」という言葉の意味を実感していた。
 あまりの音量、あまりの迫力。
(すげー! すげー! 火縄銃すげー!)
 火縄銃ってこんなんだったのかと、コーサクは本気で感動していた。
 たった数丁でこの迫力。
 戦国時代の合戦で数百、数千の鉄砲が乱れ打たれた時どうなるのか、ちょっと想像もつかない。
 それほど歴史にくわしくないコーサクでも、学習マンガなどを読んで、火縄銃について簡単な知識くらいはあった。そのイメージは、現在の銃にくらべてものすごく性能が悪く、連射もきかず、あつかいにくい原始的な武器というものだった。しかし、実際の発砲を見ると、そんなマイナスの印象は見事に吹っ飛んでしまった。
 これはものすごい武器だ! 火縄銃がこんなにすごいとは思わなかった!
「センセー、あれって本当に弾飛ばしてるの?」
 コーサクは、近くにいた三又先生に質問した。
「いや、火薬だけの空砲だろうな」
 一斉射撃に続いて、今度は連射の演武があった。例によって「火縄かけ、構え、火ぶた切れ、はなて!」の号令がかかり、采配者側から順に連続で発砲された。
 ダーン、ダーン、ダーン、ダーン、ダーン……
 引き金が引かれるたびに大音声がひびき、あたりに硝煙がたちこめる。様々に射撃パターンを変え、メンバーが入れ替わりながら鉄砲演武は続く。中には道着に袴姿、鉢巻も凛々しい若い女性の姿もあり、ぼう然としたまま演武をながめていたマンガ部女子三人組は、ハッとわれにかえり、今まで撮りそこなった分をばん回するように、デジカメのシャッターを切りまくった。
 やがて観衆の心をわしづかみにしたまま、鉄砲演武は終了した。
「和歌山市からおこしの、雑賀鉄砲衆の皆さんによる、鉄砲演武でした。皆様、盛大な拍手でお見送りください!」
 女性司会の声に送られ、鉄砲衆は退場した。
「こちらのステージの方は、午後一時までお休みとさせていただきます。会場内には色んなお店がございますので、皆様ぜひお楽しみください!」


 そのころ、来光寺から海の方へと突き出した小さな岸壁、今はもう使われていない老朽化した灯台の辺りにたむろする子供たちがいた。
 まん中の一人は背が高くがっちりしている。
 小学生ばなれした体格で、いかにもスポーツマンタイプ。肩幅がすばらしく広く、「ボス」のオーラをまとっている。
 脇を固める他の二人も、それぞれに一くせも二くせもありそうだ。
 一人は三人組の中では一番背が高い。こちらはやせたノッポさんで、細身の体だが、よわよわしい感じはない。走らせたら快速スプリンターだろうし、野球のピッチャーをやらせたら速球を投げそうな印象だ。
 最後の一人は背が低い。小柄だがバネの効いたフットワークで、いかにも動きが速そうだ。顔のあちこちには、これまでのケンカの勲章だろうか、薄く傷跡が残っている。
 名前はそれぞれ、タイショー、ノボ、キョウ。
 二子浦小学校6年、美術部の面々と同じクラスの「ボスグループ三人組」である。
 三人組は何やら話し合っているようである。
 身ぶり手振りを加えて主にしゃべっているのは小柄なキョウ。
 ボス格のタイショーは、腕組みをしながらそれを聞いている。表情にはとくになにも現れておらず、ただ黙ってキョウの言うことを聞いている。
 熱心に話すキョウの手には、何かがにぎられている。
 ピストル型のおもちゃで、どうやらフリーマーケットで売っていた連発式の輪ゴム鉄砲であるらしい。
「とにかく、やっちまえばいいんだよ!」
 断言するキョウ。
 タイショーはしばらくの沈黙のあと、ゆっくりうなづいたのだった。
(第四章おわり。第五章「寺内町と鉄砲衆」につづく)
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2014年05月02日

戦国まつり4


「先生、ちょっとお店見てまわっていいですか?」
 神原シオネが、おずおずという感じで、斎木先生におうかがいをたてた。
「もちろん。開会式にはしばらく時間があるから、散歩してきていいよ。十一時半にステージ前に集合。多分アナウンスがあると思うけど、おくれないようにね」
 まだ十五分ほどは、自由行動できることになる。
 女子三人は連れ立って出発し、男子はそれぞれ思い思いに散策することになった。
 コーサクはふと、「神原シオネは学校で見るのとちょっと感じがちがうな」と思った。
 今日はあまり仕切らないし、子供っぽくはしゃいでいる。
 スーパークラス委員にも、オフの時間はあるのかもしれない。
 コーサクが目をひかれたのは、やはり手作りオモチャなどを並べた店先だった。
 コマや剣玉やダルマ落としなど、昔ながらの木製おもちゃの中に、輪ゴム鉄砲を発見したのだ。銃身の短いピストル型で、六連発式になっている。さすがに形は本格的な拳銃模型のようで、連発の仕組みも細工がこまかい。
(こういうのはちゃんとした工作機械がないとできないよな……)

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 コーサクが見本を手にとってかまえながら考えていると、お店の人が「撃ってみるかい?」と声をかけてくれた。やり方を教わりながら、輪ゴムを6本かけ、小さな的を撃ってみる。距離が近いので、6発中4発は命中する。コーサクとしては不本意な結果だったが、初めての銃で練習なしならこんなものかもしれない。
「お! なかなかやるな!」
 お世辞もあるだろうが、それでもお店の人はほめてくれた。コーサクは連発式の仕組みについて質問しながら、「たしかにおもしろいけど、でも……」と、考え事をしていた。値段は800円で、買えなくはないけど、小学生にはちょっと高めだ。結局買わずに、お礼だけ言ってお店を後にした。
 いろんなお店の品物をのぞきながらぶらついていると、ちょっと気になる光景が目に入ってきた。
 同じクラスのタイショー(織田ヒロト)、ノボ(米田ノボル)、キョウ(相田キョウイチ)の三人組が、会場内をあるいていたのだ。
 三人組は単に遊びにきただけのようだったが、金曜日のキョウとの一件がある。また何か言われるかなと警戒したが、向こうはこちらに気づいているのかどうか、とくに何事もなく時間は過ぎて行った。


 午前十一時半になり、開会式のアナウンスがあった。浦小の面々や、ほかの参加者もわらわらとステージ前に集まってきた。
 ビーチの一角の、岸壁をくりぬいたようになっているところに作られたステージに、簡素な黒衣に身を包んだ来光寺のお坊さん、大西浄道さんが上った。
 お坊さんとはいえ、頭はツルツルではなくて、短く刈り込まれた髪が生えていた。大柄でがっしりしており、えらの張った頑丈そうな顔立ちは、こう言っては失礼だけど、お坊さんというより山賊の大将みたいな感じがした。
「本日は、皆様おいそがしい中、第一回『二子浦来光寺戦国寺内まつり』にご参集いただきまして、まことにありがとうございます」
 応援団みたいなガラガラ声だったが、まずは神妙な調子であいさつは始まった。
「こちら来光寺は戦国時代、大坂石山本願寺を中心とする一向一揆勢力の海上交易の拠点、寺内町として繁栄しておりました。かの織田信長公と一向一揆勢が互角の戦いをくりひろげた『石山合戦』においては、紀州雑賀水軍と、中国毛利水軍の連携の要所として、戦略上、重要な役割も果たしてきました」
 お坊さんの口調は、しだいに熱を帯びてくる。
「戦国時代の寺内町は、武士、農民、商人、職人、芸能民、山の民、海の民など、さまざまな民衆が身分の差を超えて、ともに自由自治を作り上げておりました。
 海運でもたらされた文物で市はにぎわい、人の交流で最新の情報が集まり、新しい芸能が生まれる文化発祥の地でもありました。石山合戦終結、一向一揆の敗北によって寺内町の夢は破れましたが、いまこそ夢をもう一度、かつての熱とにぎわいをよみがえらせるための『祭』を企画したしだいでございます。どうか皆様、本日は存分にお楽しみいただけますよう、祈願してやみません。簡単ながら、以上で開会のご挨拶とさせていただきます。ありがとうございました!」
 お坊さんが合掌して一歩さがると、あちこちからパラパラと拍手があがった。「割れんばかりの拍手」とはいかなかったが、それなりに盛り上がっていた。
 だまって聞いていたコーサクは、お坊さんの言葉に、ちょっと興味をひかれていた。大人向けの挨拶だったのでむずかしいところはよくわからなかったが、それでも話の大筋は聞きとることができた。織田信長といえば、日本史のなかでも一番有名な人物だ。その信長と互角に戦った人たちが、かつてここにいた……
 わが町ながらなんとも地味だと思っていた港町に、そんな歴史があったのかと、少しほこらしい気分になっていた。他の浦小の面々もそれは同じだったらしい。とくに歴史に詳しいトノサマは、熱心にメモを取りながら話に聞き入っていた。
「それでは続きまして、紀州雑賀鉄砲衆の皆様によります、鉄砲演武です!」
 女性司会の声がひびいた。いよいよ火縄銃による演武が始まるのだ。
(つづく)
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2014年05月01日

戦国まつり3


 ビーチに広がるフリーマーケットの風景をぬけ、来光寺が近付くと、昔ながらの縁日の露店風景の一画もあった。
 お祭の中心、二子浦来光寺は、ビーチから石段を上ったところにある。自然の岸壁と、人工の石垣が入り混じった斜面に、つづら折りの急な石段が刻まれている。お寺の背後には地元で「殿山」と呼ばれる小さな岩山が続いていて、ゴツゴツとした岩肌から松の木などがまばらに生えている。昔は小さなお城があったということなのだが、そんな痕跡はほとんど残っていない。岩の間にちらちら見える石垣が、わずかにそんなイメージを伝えてくるだけだ。
 ちなみに、学校一の秀才・殿山マサルは、お寺の背後に続く「殿山」の、北側のふもとに住んでいる。けっこう古くから続く、地元ではちょっと知られた旧家のお坊ちゃんなのだ。
 お寺のすぐ下にある石垣のところには大きな横断幕が吊られている。「二子浦来光寺 戦国寺内まつり」と、なかなか迫力のある筆文字で大書してある。
「戦国てらうちまつり?」
 コーサクが首をかしげながらつぶやくと、横から斎木先生が解説してくれた。
「戦国寺内まつりの『寺内』は、『じない』と読むんだよ。話によると戦国時代の二子浦は、来光寺を中心にした『寺内町(じないまち)』として栄えた歴史があるんだってさ。殿山にあったというお城も、寺内町と一体のものだったそうだ」
「へ〜、そうなんですか……」
 コーサクは一応うなずいたが「お城とお寺が一体のものだった」と言われても、もう一つピンとこなかった。
「まあ、そのあたりは後ほどお坊さんに解説をしてもらうとしよう」
 するとそのとき、話し声をさえぎるほどの大音声がきこえてきた。

 ぼおおおお〜〜〜〜
 ぶをうお〜〜〜〜〜
 どんどこどこどこ
 どんどこどこどこ

 空気をゆるがす法螺貝と太鼓の音に、周囲の雰囲気が一変する。
「お! いよいよ鎧武者行列がきたな!」
 いつの間にか、三又先生も合流していた。
「センセー、お店どうしたの?」
「そろそろイベント開始だろ。どうせお客もこっちに集まるから、店は休憩だ」
 チャリティーなので、あまり商売熱心にもうけるつもりはないらしい。
「あの武者行列は、駅前からここまで、三十分ぐらいかけて行進してきてるんだぜ。このお祭は今年が第一回目だから、この辺の人もさぞびっくりしただろうな」

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 一体どこから集まってきたのか、鎧武者の行列はけっこう人数がいて、小さな二子浦ビーチはしばしものものしい鎧武者に占領されたような格好になった。
「すげー、こんなに鎧を持ってる人がいるんだ……」
「コーサク。あの甲冑行列は、皆さんが全部自分で作って着てるんだぜ」
「えっ! そうなの?」
 がぜんコーサクのテンションも上がってくる。「自作」と聞いては、工作マニアの血が騒いでくる。あとでぜったい作り方を教えてもらおうと決心する。
 マンガ部の女子三人は、それぞれ手持ちのデジカメで熱心に撮影を始めている。お気に入りの武将が前を通りかかると、キャーキャー手をふりながら、シャッターを切りまくる。あれはオダノブナガ、あれはナオエカネツグなどと、鎧兜の形から読み取ってチェックしている。三人とも「歴女」の名に恥じぬ知識量だ。
 通過する行列を見ながら、三又先生はコーサクの肩をポン、と叩いた。
「おまえも作ってみたいか?」
「うん! やりたいやりたい!」
「そうか! ああいうコスプレならマンガ部の女子三人も食いつくかもしれんな。よーし、今度、美術部で作ってみるか……」
「小学生でもできるの?」
「この人たちはたぶん、材料にアルミ板を使ってるみたいだから、ちょっとむずかしいな。でもおれがちゃんとやりやすいように考えてやるから、ま、心配すんな! 授業でやるのは難しいけど、美術部メンバーなら、なんとか作れるだろ」
 そのうち、白いのぼりをはためかせた十人ほどの鎧武者が行進してきた。今まで通り過ぎて行った色とりどりの派手な甲冑姿にくらべると、黒づくめのその一団はちょっと地味に見えた。しかしよく見ると、頭の上が平らで前後にやや長いその兜は、なかなか渋いカッコよさがあることがわかった。そして何より、みんな火縄銃の模型を担いでいるところが目を引いた。
「あの兜、ちょっと変わってるだろ。『雑賀鉢』っていうんだ」
 三又先生が解説してくれる。
「さいかばち?」
「そう、あの三本足のカラスのマークが、有名なヤタガラスだな」
 その一団のかかげる白いのぼりには、黒々とカラスのようなマークが染め抜かれており、「雑賀衆」と大書してあった。
(さいがしゅう? ゲームやマンガに出てくる雑賀孫市の?)
 コーサクはゲームをあまりやらないので、記憶が不確かだったが、信長の敵役としてそんなのがいた気がする。
 そう、たしか鉄砲を武器にしていたはずだ。
「あれが、今日の鉄砲演武を見せてくれる、和歌山の『雑賀鉄砲衆』の皆さんだ」
「え? でも、あの火縄銃は、なんだかつくりものみたいだったよ」
「バカ、本物の銃を街中で持ち歩けるわけないだろ! 行進にはああいう一目でオモチャとわかるやつしか使えないんだよ。後でちゃんと本物も撃ってくれる」
 あれこれしゃべっているうちに、鎧武者の行列は通り過ぎて行った。
(つづく)
posted by 九郎 at 22:07| 図工室の鉄砲合戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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