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2014年04月30日

戦国まつり2


 小さな砂浜海岸一面に、色があふれていた。
 海岸に漂着した流木や竹を組み、スダレやブルーシート、アウトドア用品で組み立てられたフリーマーケットのお店が、所せましと砂浜のあちこちに出店されていた。毎年ゴールデンウイークあたりにならないと開かない海の家が、お祭で特別なのか、この日は開いていた。
 この海岸では以前からフリーマーケットがよく開かれていたが、この日は集まっているお店の数がけたちがいだった。ひなびた港町に、とつぜん活気あふれるアジアの市場が出現したような雰囲気があった。
 お店の種類も一風変わっていて、フリマでよくある不用品処分のお店だけでなかった。手作りのお菓子やエスニック料理のテントもあり、ここでもマンガ部の女子三人はテンションが上がった。

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 一同がしばらく歩いたところで、ちょっと変わった紙細工のお店を見つけた。
 商品は「おりがみ兜」だった。おりがみ兜とは言え、小さい子供の頃、よく新聞紙で作ってかぶったような、シンプルなものばかりではない。頭部の長いものや、角の長いもの、複雑な形をしたものを含めると、ざっと二十種類以上はあるだろう。
 たかがおりがみでも、これだけ数と種類がそろっていると、迫力がある。大きさも、大小様々なものがある。大人がかぶれそうな大きなものから、飾り紐やチェーンをつけた小さなストラップ仕立てのものまである。和紙で折ってあり、透明ニスのようなもので固めて型くずれしないようになっている。紙製だがプラスティックのような光沢と強度があるのだ。4月上旬、これから5月人形の準備に入る時期なので、季節柄にはぴったりのグッズだった。
 バンブーをのぞく浦小の面々は、見ただけでその作り方がわかった。なぜなら去年の5月、図工の時間に同じ手法の工作をやったことがあったからだ。
「センセー、こんなとこで、なにやってんだ?」
 コーサクがなかばあきれながら声をかけた。店を開いていたのは、美術部監督、三又アツシ先生だった。
「やあやあ、みなさんいらっしゃい。どうだ? 一つ買ってかないか? お安くしとくぜ!」
「いらないよ。去年、自分で作ったもん」
 コーサクが、ごく当然の受け答えをする。
「ああ、そう言えば、おまえらには作り方教えてやったっけ。じゃあおまえらは買わなくてもいいや。斎木先生、おひとついかがですか?」
 ふだんは「斎木ちゃん」呼ばわりしているくせに、こんなときだけは「先生」かよと、その場にいる小学生は全員心の中でつっこんだ。
「え? 私ですか? じゃあせっかくだから、そこのストラップを一つ……」
「はい、まいどあり! ストラップひとつで五百万円になります!」
「センセー、ネタが古いよ」
「うるせー、こういう場所じゃ、ベタなくらいでちょうどいいんだ!」
「教師って、ほかの商売やってもいいんだっけ?」
 コーサクがたずねると、トノサマがすました顔で知識を披露する。
「たしか副業は禁止のはずですね」
「まあまあ、固いこと言うな! 店つっても、もうけなんかないんだ。うちの店の場合は、今日の売り上げは全額、災害被災地への義援金として寄付することになってるからな。チャリティーだチャリティー!」
「またまた、そんなこと言って、売り上げからいくらか抜くんじゃないの?」
「こらコーサク、失礼なことを言うな! まったく、貧乏教師が善意でやってる活動を、おまえらと来たら……」
 くくくく、と涙をぬぐうポーズをとる三又先生をその場に残し、「じゃ、次行ってみよう」ということで、一同は会場を進んでいった。
「おーい、おまえら! 後でまた来いよ!」
 背中の方から三又先生の声が追いかけてくる。
(つづく)


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2014年04月29日

戦国まつり1

第四章 戦国まつり



 日曜日になった。「戦国まつり」当日である。
 天気は晴れで、絶好のお祭日和。コーサクは息を切らせながら自転車をこいでいた。
(ぼくっていつも時間ギリギリだよな……)
 原因は自分でもよくわかっている。いつも出発時刻ギリギリまで工作をやっているせいだ。今日も輪ゴム鉄砲いじりを、直前までやっていた。調整に調整を重ね、完璧に自分の手になじんだ一丁は、今、背中のリュックに入っている。
 昨日土曜日は、タツジンとバンブーがコーサクの家を訪れ、それぞれの鉄砲を完成させた。金曜日の部活でほぼ完成していたので、あとは補強のためのネジを打ち、引き金をつけて調整するだけだった。午前中には鉄砲制作を終え、午後は射撃訓練にあてることができた。
 美術部監督の三又先生には、お祭当日、それぞれ自分の輪ゴム鉄砲を持ってくるように言われていた。お祭のアトラクションとして本物の火縄銃による鉄砲演武があるので、もしチャンスがあれば「達人クラブ」三人の輪ゴム鉄砲射撃を、本物の鉄砲隊の皆さんに見てもらえという指令だった。
 そんなことが本当に可能なのかどうか、大の大人が、たかが小学生の作ったオモチャに関心を示してくれるのか、コーサクには疑問だったが、三又先生は笑いながら断言した。
「大丈夫だ! いまどき火縄銃撃ってるような人たちはコドモの心を持ってる! ぜったいおまえらの鉄砲ならウケる!」
 そんなものかと思い、三人は顔を見合わせてうなずいたのだった。
 コーサクは海沿いの堤防をまわりこむように自転車を走らせる。
 小学校のある「二子浦」は、瀬戸内海の大阪湾寄りに位置した小さな港町である。扇型をした小さな二つの湾が連なった地形になっており、お祭のある「二子浦来光寺」は、二つの扇の交わる部分の、海に突き出した岸壁にあった。
 お寺の西側には小さなビーチがあって、シーズンには海水浴もできる。東側には漁港が広がっており、コーサクたちの通う二子浦小学校は、その漁港から少し上った高台にある。
 浦小の面々は、ビーチの駐車場に午前十一時、集合した。美術部(マンガ部+達人クラブ)と歴史研究部所属の小学6年生たち、それに6年1組担任の斎木先生は、それぞれ徒歩や自転車で集まり、コーサクもなんとか集合時間に間に合った。
 学校ではいつもきちんとしたスーツ姿の斎木先生も、さすがに休みの日には多少カジュアルな服装であらわれた。マンガ部の女子三人(神原シオネ、花村ナオミ、小島ハルカ)は、先生の服装をネタに、しばし盛り上がった。女の子にとってはいつもとちがう先生の服装は大問題だったが、その他の男子生徒たちにとっては、とくに興味のない話題だった。

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 引率は歴史研究部の斎木先生だけで、美術部の三又先生の姿はなかった。先にお祭の会場に入っているということだ。堤防にはりつくように設けられた階段をのぼってみると、そこにはいつもの見慣れたビーチとは、まったくちがった風景が広がっていた。
(つづく)
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2014年04月28日

マンガ部と達人クラブ5


「おい、待てよ」
 漁港のところで、いきなり呼びとめられた。コーサクが声の主の方にふりかえると、そこにはキョウ、相田キョウイチがいた。
 ニヤニヤ笑っている。笑顔だが、およそ友好的なものではない。背はコーサクと同じくらいの高さなので、小柄である。しかし、メガネをかけた丸顔のコーサクと、顔に何カ所かうすい傷跡のあり、よくバネの効いた足取りのキョウとでは、同じ小学6年生でも雰囲気がまったくちがう。
「あのデブとずいぶん仲良しになったな」
「デブ?」
 どうやらバンブーのことらしい。コーサクはこの日の朝の、バンブーとタイショウ、ノボ、キョウの三人組の間にあった軽いバトルのことを知らない。なんの用事でキョウは自分に声をかけてきたのかさっぱりわからないが、どうやらあまり楽しい要件ではなさそうだ。そう言えば、一時間目の算数係のとき、こいつは気になる目つきでバンブーと自分の方を見ていたっけ……
「それ、ちょっと貸してみろよ。何が入ってんだ?」
 つかつかと近づいてきて、コーサクが手に持っていたビニール袋を取り上げた。袋の底の部分をつまみあげてバサバサゆすると、中身がアスファルトの上に散乱した。袋の中身はつい先ほどまで図工室で作っていた新型鉄砲だった。みんなで苦心した作品が、無残に道路に散らばる。
 コーサクの頭の中で、瞬間的にバチバチと火花が散った。
 大切なものをぶちまけられた怒りで、思わず体が勝手に動く。背負っていたランドセルを右手に持ちなおして、思い切りキョウの頭の上から振り下ろした。
 日頃おとなしいコーサクが相手だったので、完全に油断していた。さすがのはしっこいキョウも、ランドセルの一撃をよけきれなかった。手で頭をかばうが、けっこうまともにくらってしまう。
 小学6年生の背負うランドセルは、教科書やノートがいっぱいつまっていて、かなりの重量がある。おまけにあちこちに金属部品があるので、まともにぶつけられるとかなり効く。
 そのままたたみかければコーサクの勝ちも十分あり得たのだが、そこまでだった。
「痛!」
 短く叫ぶとともに、さすがにケンカ慣れしたキョウは、すかさず反撃する。
 ケンカで先手を打たれた場合、相手をそのまま勢いづかせてはならない。キョウの右てのひらが、コーサクの鼻がしらを軽く打った。てのひらの方がゲンコツより広いので、鼻に確実に当てられるのだ。

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 ごく軽い打撃だったが、ツーンと鼻の奥に激痛が走り、コーサクの目には涙がにじんでくる。とっさにずれたメガネを確かめる。どうやら壊されてはいないようで、一安心する。
 メガネが壊れると、色々めんどうなことが増えるのだ。母親に事情説明したりとか……
(ガマンだ! ここで引くな!)
 コーサクはくじけそうになる心を、必死でふるい立たせる。
 ここで引けば、このあとずっとやられっぱなしになる。今この場面、たとえ結果は負けでも、「こいつはちょっとめんどうだ」と思わせなければならない。相手は同じクラスなのだから、このラウンドが終わってもまだまだ先は長い。ここで引けば、こいつの顔を見るたびに、びくびくしないといけなくなる。
 基本的には平和主義のコーサクだったが、男子としてそのくらいのことがわかるていどの経験は積んでいた。グッと目に力を込めて、そのままにらみつける。にらみ合った姿勢のまま、二人はしばらく動かない。
 キョウにとっては意外な事の成り行きだった。手強いバンブーがいない間に、仲良くなりそうなヤツには軽く一発かましてやろうと思っていただけだった。
 相手は日頃おとなしい工作オタクなので、少しおどしてやればすぐに泣きが入ると思っていたのだが、ちょっと変なぐあいになってしまった。このままとっくみあいのケンカになれば、自分の方が勝つのは確実だが、人通りもけっこうあるこの場で、あまり長くさわぐのもまずい。
 どうしようか、と思っていたところ、コーサクの鼻から少し鼻血が出ているのに気づいた。一応、自分が勝った形にはなっている。
「ヘッ、メガネくんが弱いくせに!」
 これさいわいとそれだけ言いすてて、キョウはその場を去った。
 コーサクはキョウが十分はなれてから、道路の上にちらばった輪ゴム鉄砲の部品をひろいあつめた。
 ふーっと一息ついてから指で鼻血をぬぐい、もう止まっているのを確かめた。メガネを外して目じりをぬぐう。涙がにじんでいるのは鼻頭をはたかれた痛みのせいだ。決して「メガネくん」呼ばわりされたせいじゃない……
 病み上がりの新学期、ドタバタの一日だった。良いことも悪いことも、てんこもりでやってきたが、全部ひっくるめれば、まんざらでもない一日だった。
 ただ、さすがに疲れた。
 家に帰ったら、今夜はもう工作はせずに、さっさと寝よう……


「フーン……」
 堤防のかげにかくれて様子をうかがっていたバンブーは、最初から最後までコーサクとキョウのやりとりを見届けていた。途中、何度か出て行こうかと思った瞬間もあったが、やっぱりやめておいた。
「コーサク、けっこうやるじゃん」
 そうつぶやいて、元来た道を引き返して行った。
 少しうれしそうな顔をしていた。


 そろそろ日のかたむいた6年1組の教室に、たった一人、担任の斎木マモル先生の姿があった
 下校時間はとっくに過ぎており、教室にも校庭にも、生徒の姿はない。職員室には先生が残っているが、それ以外の校舎内はガランとして静まりかえっている。斎木先生は、教室をゆっくり巡回しながら、生徒による掃除が行きとどかなかった所を清めたり、ゆがんだ机をまっすぐ直したりしている。
 斎木先生はきれい好き、片付け好きだ。良く言えば几帳面、悪く言えば神経質ということになる。教室うしろの掲示板に貼ってあるプリントなども、かたむいたものははりなおしていく。水平、垂直がピシッと守られていないと納得いかないらしい。小学校の教室は、少しチェックをおこたれば、たちまちグシャグシャにくずれて行ってしまう。先生の納得できる状態を維持するには、日々の努力が欠かせない。
 このレベルの整理整頓魔になると、まわりからはうるさがられるのが普通なのだが、斎木先生の場合はとくにそういうこともない。自分の整理整頓に対するこだわりを、生徒もふくめて他人には決して強制しないからだ。 
 お片付けは、単に目の前のものを収納すれば良いというものではない。それぞれのものには、ふさわしい場所というものがある。理想的な位置に収まったものは、使いやすく、片付けやすく、ちらばりにくくなる。その「理想の位置」は、頭で考えただけでは出てこない。実際にものを使い、日々の生活をおくる中で、具合の良い位置を探って行かなければならない。
 この新しいクラスの教室は、まだまだ何をどこにおけば良いのかわかりきっていない。ちらばりやすく、一回一回の片付けに試行錯誤が必要なので、時間がかかる。ゆっくり教室内を見回し、ときに立ち止まって考え事をしながら、もの静かな先生は、放課後のひと時を過ごしている。
一つ一つの座席にすわる生徒の顔を、一人一人思い浮かべながら、何事かを考え続けている……
(第三章おわり 第四章につづく)
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2014年04月27日

マンガ部と達人クラブ4


 輪ゴム鉄砲で盛り上がる三人組ふりかえってみると、そこにはいつから見ていたのか、図工の三又アツシ先生の姿があった。三又先生だけでなく、担任の斎木先生や、学校一の秀才・殿山マサルほか数人の生徒もいた。
「そこの転校生、どうだ? わが浦小の達人クラブは?」
 斎木先生は横から「佐竹アキノブくんです」と紹介する。
「佐竹っていうのか。おまえ今、コーサクとタツジンがあんまりバカなんで、びっくりしてただろ!」
 バンブーは思わずうなずいた。自分と同じく、この先生も「バカ」という言葉を、最上級のほめ言葉として使っているのがわかった。
「こいつら、こんな一円の得にもならないお遊びに、全身全霊でハマってるんだぜ。どんなオモチャでも金出せば買えるご時世、手作り遊びでいつまでも盛り上がってるこんなやつら、探してもなかなかいない。佐竹くんよ、おまえはなかなか目が高いな!」
 コーサクとタツジンが顔を見合わせる。
「あれ、ほめてるのか?」
「さあ……」
 かまわず三又先生が続ける。
「流行りの遊びや、同じ図工室で活動してる容姿端麗な女の子たちに目もくれず、ただひたすらわけのわかんないものを工作し続ける変態二人組。そんなやつらの値打ちがわかるとは、おまえもそうとうなバカだな!」
「センセー、もういいよー」
 達人クラブ男子が苦情をはさむが、三又先生はおかまいなしだ。
「そんな鉄砲狂いのおまえらに、ひとつニュースがある」
 三又先生は「マンガ部」の方にも声をかけた。
「そこの女子三人も、ちょっとこっち来いよ」
 神原シオネ、花村ナオミ、小島ハルカは、なにごとかとおたがい顔を見合わせてから、編集作業を一時休止してやってきた。
「はい、それではここから先は、歴史研究部監督の斎木先生から説明があるから、よく聞いておくように!」

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 歴史研究部? 
 そう言えば、斎木先生についてきたトノサマ(殿山マサル)をはじめとする生徒たちは、歴史研究部所属だった。
 斎木先生は手にしたパンフレットを一同に見せながら、話し始めた。
「あさっての日曜日、みんなもよく知っている来光寺さんの境内で、お祭が開かれることになってるんだ」
 来光寺さんというのは、近所にあるお寺のことだ。遠足で何度も行ったことがあり、周辺は地元の子供たちの遊び場でもある。転校生のバンブーをのぞく浦小の面々は、もちろんよく知っているお寺だった。
「来光寺のお坊さんとは先生も知り合いなんだけど、お祭のついでに、二子浦の歴史についてお話を聞かせてもらえることになったので、歴史研究部だけじゃなく、美術部のみんなもさそいに来たんだよ」
 お寺のお坊さんに歴史の話?
 そりゃまあ、歴史研究部なら興味があるだろうけど、美術部がなんで……?
 マンガ部も工作隊も、美術部の面々は一様にぴんとこない表情だ。頭の上に「?」マークが浮かんでいるのが目に見えるようだった。
「ダメダメ、斎木ちゃん。そんな真面目な話の持って行き方じゃ、美術部のアホどもはのってこないよ」
 三又先生が、話の途中で割り込む。
「いいかおまえら、あさってのお祭は、戦国時代の二子浦の歴史がテーマになってて、鎧兜を身に付けた武者行列や、火縄銃の鉄砲演武があるんだぜ!」
 マジで! それ絶対行く!
 美術部の面々の表情が、三又先生の説明で一気に輝くのを見て、斎木先生は思わず苦笑した。男子三人は「火縄銃の鉄砲演武」の部分に反応し、マンガ部の女子三人は「武者行列」の部分に反応したのだ。
 まず、男子はだれでも基本的に戦国好きだ。また、マンガやイラストの好きな女子は、高い割合で「歴女」でもある。レキジョというのは、「歴史好きな女子」というほどの意味で、とくに最近は歴史を題材にしたマンガやゲームを入り口に、増殖しつつある女の子の種族だ。浦小マンガ部の三人は、けっこう気合の入った歴女なのだった。日頃、マンガ部と達人クラブでバラバラに分裂しがちな美術部が、今日は「戦国」という共通の話題で、めずらしく一つになった。
 コーサクは、ふと気づいて斎木先生のとなりで話を聞いていた殿山マサルに声をかけた。
「トノサマ、日曜日はいつも塾に行ってるんじゃないの? いいのか?」
 さっきの理科の時間に厳しく突っ込まれたので、ちょっと根に持った意地悪な気分だった。
「まあ、たまには休んでもいいんだよ」
 いつもクールなトノサマにしてはめずらしく、少し照れたように言った。
「会場のお寺はうちのすぐ近くだしね。地元の歴史を勉強するんだから、サボってるわけじゃない」
 そう言えばトノサマも、けっこう気合の入った戦国マニアだったなと、コーサクは思い出していた。小学校ではふつう、日本史を6年生ぐらいから習うのだが、秀才のトノサマは、もうずっと前から勉強を始めている。最近はゲームや漫画をきっかけに戦国マニアになる子供が多いが、学校の日本史の勉強がきっかけになる子供も、けっこういるのだ。


 クラブ活動の後、一同はいったん教室にかえってホームルームをすませた。
 掃除の時間が終わると、下校までのしばらくの間、生徒は校舎を自由に使用することができる。美術部の面々はマンガ部も達人クラブも、再び図工室に集まってそれぞれの活動を続けた。
 マンガ部は冊子の編集、達人クラブはコーサクの指導で新型輪ゴム鉄砲の量産である。日曜日の戦国祭までに、少なくともあと二丁、タツジンとバンブーの分を作っておきたかった。
 コーサクが自分の鉄砲を作るために用意した角材が、まだ十分にあまっていた。タツジンはノコギリなどの大工道具を使いなれているので、図面のコピーを渡すだけでよかった。
 コーサクは不慣れなバンブーのサポートに集中した。角材から切り出したパーツを木工用ボンドで接着し、動かないように目玉クリップで固定したところで時間切れになった。注意深くボール紙ではさみこみ、それぞれのカバンに収納する。
 達人クラブの三人は、明日の土曜日にコーサクの家に集まって続きを作ることにした。あとは引き金を付けて、何か所か補強の木ネジを打てば一応完成なので、一時間もあれば十分だ。もし時間に余裕があれば、グリップの部分が手になじむように削ればいいし、ついでに射撃訓練をしてもいい。
 下校時間になったので、てきとうに片付けて校舎を出る。校門のところで「バイバイ」して、それぞれの家路についた。
 一人歩きながら、バンブーは考える。まさか自分が美術部に入ることになろうとは、今朝までまったく考えていなかった。
(コーサクもタツジンも、変わったやつらだったな……)
 そんな感想を持ちながら、もう一度校門の方をふり返った時、気になる光景が目に飛び込んできた。自分とは反対方向に帰ろうとしているコーサクの後を、一人の少年が身をひそめながらつけて行っているようなのだ。
(あいつだ……)
 バンブーの記憶は朝の登校風景までまきもどされる。自分にちょっかいをかけてきた三人組のうちの、一番小さいやつ。少しだけシメてやったあいつだ。
 名前は確か、キョウとか言った…… 
 バンブーは少し考えてから、距離をおいて「尾行の尾行」を開始することにした。この超大型少年にとって、「目立たず動く」ことはひどく苦手な種類の仕事だったが、仕方なく追跡を開始したのだった。
(つづく)
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2014年04月26日

マンガ部と達人クラブ3


 そうだった。バンブーのコーチに夢中になって、今日のメインイベントのことをすっかり忘れていた。コーサクはおもむろに「新兵器」をとりだし、試射しながらその性能について説明した。なんとなく、テレビショッピングで商品説明をしている人になったみたいな気がした。
 新型銃は、本体の材料を割りばしから各種角材に変更したことに特長があった。がんじょうな角材を使用しているので、輪ゴムを引っかけても銃身がまったくゆがまないのだ。輪ゴムが限界まで強力に引っぱれるので、発射後、輪ゴムが「落ちる」幅も少ない。3メートル以内なら、だいたいまっすぐ飛ばすことができる。つまり、これまでの「割りばし鉄砲」に比べて、ねらった位置と実際に飛ぶ位置のずれが格段に少なくなったのだ。
 タツジンが新型銃を受け取って試射する。
 最初はゆっくり感触を確かめながら撃っていたが、徐々に装てんから引き金を引くまでの時間が短くなってくる。しまいには一発4秒くらいの早撃ちになり、それでもほとんど的から外れない。
(すげえ、こいつは本当に達人なんだな……)
 バンブーはすっかり感心していた。

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「すごくいい」
 タツジンが感想をのべた。口調はぶっきらぼうだが、この無口な少年としては最大級のほめ言葉だと、つき合いの長いコーサクは知っている。
「狙いのズレをごちゃごちゃ考えなくても、輪ゴムをひっかけて撃つことだけに集中できる」
 新型銃がタツジンからバンブーに手渡された。
 バンブーもためしに輪ゴムをひっかけてみる。たしかに銃身が頑丈なので、輪ゴムが装てんしやすい。これまでの割りばし鉄砲なら、急に外れて「ビシッ」と手にあたらないか、ひやひやしながら装てんしていたのだが、新型銃ではまったくそういう心配がない。
 かまえてみる。グリップの部分が手になじみ、にぎりやすい。銃身にそえた左手も、しっかりと安定する。
ねらいをつけてみる。引き金と、銃口にかけての角材のラインがねらいをつけるときの「目当て」になっているらしい。
 引き金を引いてみる。引き金はあまりゆるいと輪ゴムが勝手に飛んでしまうし、固すぎると銃口がぶれやすくなる。この新型銃はそのバランスが絶妙で、それはバンブーのような今日初めてハマった少年にもよくわかった。
 ビシュン!
 輪ゴムはねらいからほとんどずれることなく飛び、的中する。
「お! すげーな!」
 次々に撃ってみる。初心者のバンブーは、タツジンのような早撃ちはできないが、それでも面白いように的に当たる。たしかに、まったく性能がちがう。
(なんだこれ? おれと同じ小学生が、これを全部自分たちで開発して、作り上げたのか……)
 バンブーは心の底からおどろき、思わずつぶやいた。
「おまえら、とんでもないバカだな……」
 もちろん、よい意味で「バカ」という言葉を使っている。たかが輪ゴム鉄砲にここまでこだわっている二人組に、笑ってしまうほど感動していたのだ。
「へへへ……」
 ほめられているのがわかって、コーサクはちょっと照れ笑いした。そして、うれしくてたまらないという風に、こう言った。
「じつは、この新兵器には、もう一つ秘密があるんだ」
 コーサクは、ポケットから大型の輪ゴムをとりだした。ゴム幅1センチほどのがんじょうなゴムバンドだ。
「この鉄砲には、こういう大型ゴムバンドもかけられるんだ」
 ゴム幅1センチほどの大型バンドは、第一印象では、良く使うふつうの輪ゴムより、はるかに伸びそうな気がする。しかし、実際に伸ばしてみると、どちらも35センチ前後で、さほど変わらない。鉄砲の造りががんじょうであれば、同じように弾として使用することができるのだ。
 ただし、その威力と射程距離はケタちがいになる。
 コーサクは簡単に説明しながら、大型ゴムバンドを装てんした銃をかまえ、引き金を引いた。
 バヒュン!
 これまでとははっきりちがう発射音が、空気を切りさいた。
 大型ゴムバンドはうなりをあげて、的になった戦国フィギュアをなぎたおし、うしろのブルーシートのところまですっとばした。ふつうの輪ゴムなら、フィギュアの胸から上のあたりにピンポイントで命中させないとたおすことができない。これならば、どこかにかすっただけでもたおすことができる。
「輪ゴムの飛距離も段ちがいなんだよ」
 コーサクはまず、ふつうの輪ゴムを教室の空いたスペースに撃ってみた。飛ばされた輪ゴムは、はじめはするどく、最後にはいきおいを失ってフワッと落下する。
「だいたい6メートルぐらいだな」
 タツジンが飛距離を目測した。
 コーサクはうなずきながら、こんどは再び大型ゴムバンドを同じ方向に発射した。ゴムバンドは、はるか先まで飛んで「ボタッ」と落下した。
「おお、9メートルは飛んだな!」
「そう。約1・5倍の飛距離になるんだ。それに、ゴム自体の重さがあるから、飛距離限界いっぱいでも的を倒す威力がある」
 ふつうの輪ゴムなら、飛距離いっぱいでフワッと落ちただけではなんの威力もない。実際に的をたおせる射程距離は、せいぜい3・5メートルほどだろうか。9メートルと言えば、余裕で二倍以上だ。
「図工室はふつうの教室より広いけど、ほとんどはしからはしまで届くな……」
 タツジンは頭の中で、また何やら新しい技を考案しているらしい。
「うん。でも飛距離限界いっぱいだと、ねらい方はちょっと変わってくるね」
 コーサクは風邪で休んでいるあいだに考えたことを、タツジンとバンブーに話して聞かせた。
 輪ゴム鉄砲術では、近距離射撃と遠距離射撃のねらいの付け方はまったくちがう。近距離では基本的に輪ゴムは「まっすぐ」飛ぶものと考え、実際の微妙なずれは頭の中で補正する。遠距離射撃では、野球のホームランボールのように、「山なり」に大型ゴムバンドを飛ばさなければならない。どちらも「輪ゴムの実際の飛び方」を計算しなければならないのだが、遠距離射撃の方がはるかに「事前の計算」の割合が高くなるのだ。
「大型ゴムバンドでも5メートルくらいまでなら、近距離射撃の撃ち方でいいと思うんだけど、射程距離いっぱいの9メートルになると、遠距離戦用の撃ち方でないと当らないと思う」
「ちょっとまてよ」
 バンブーが今さらのように気づいた。
「さっきからおまえら、距離何メートルとか言ってるけど、そんなことどうやってわかるんだ? テキトーに言ってんのか?」
 ふつう、人は1メートルと2メートルの差は、はからなくてもわかる。しかし、たとえば自分の立っている位置から目標までの距離を、3メートルとか6メートルとか見当をつけるのは簡単なことではない。よほど日常的に訓練をつんでいなければ、それは無理だ。
「ああ、そのことね」
 コーサクは教室の床を指さした。
「ほら、床のタイル。これが一辺30センチの正方形になってるんだよ」
「……!」
「はじめはそれを目盛りにして距離をかぞえてたんだけど、すぐになれて、ぼくもタツジンもパッと見でだいたいの距離がわかるようになったんだよ」
 タツジンが横から一言、つけ足す。
「ま、誤差10センチ以内だな」
「……ハハハハ」
 バンブーは思わず笑い始めてしまった。
(こいつら本物のバカだ! こんなすごいバカ今までに見たことがない!) 
「な! こいつらすげーだろ!」
 バンブーの心の中の叫びとシンクロするように、背後から声がかかった。
(つづく)
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2014年04月25日

マンガ部と達人クラブ2


 コーサクとバンブーが到着するととも、ちょうど六時間目のチャイムが鳴った。図工室に入ると、すでに女子部員たちは集まって活動を開始していた。
 メンバーは神原シオネ、花村ナオミ、小島ハルカの三人だ。
 神原シオネは言わずと知れた6年1組のスーパークラス委員。勉強、スポーツにプラスして、絵まで描ける。ついでに言うと容姿端麗だ。
 花村ナオミはマンガ・イラストの実力派。一学年上のセミプロ先輩が卒業した後は、誰もが認める「浦小で一番絵が上手い女の子」になった。おとなしく真面目な性格。基本、いつも笑顔だ。
 小島ハルカは、ギャグタッチのかわいいキャラクターを描くのが得意。そして、ちょっと浮世ばなれした「不思議ちゃん」でもある。
 全員6年1組だが、6年生は2クラスしかないので、部員がみんな同じクラスというのはとくに珍しいことではない。
 女子部員三人は、これまでの作品をまとめた冊子作りにいそしんでいた。机を六つほど並べて広い作業台を作り、これまで描きためたマンガやイラストを広げながら、ページ割りについてあれこれ相談している。セミプロ女子先輩を中心にもりあがっていた前の6年生がごっそり抜けたあとなので、なんとか新5年生をどっさり勧誘しようと、はりきっている。
 部屋に入ってきた男子二人に気付いて、女子三人はしばし手を止めて顔をあげた。神原シオネはコーサクについてきたバンブーの姿に少しおどろいたようだったが、すぐにニコッと笑って手を振ってきた。コーサクは軽く手をあげてこたえたが、バンブーはあいかわらずぶすっとしたままだった。
(バンブーは女嫌いなのかな?)
 言葉には出さずに、コーサクは今日初めて会った転校生の性格について考えていた。女子に興味がないという小6男子は、別に珍しくない。この年代の男子は、まだまだ男の子同士で遊ぶのが楽しいし、女子はそんな男子を「子供っぽい」と思って、ちょっとバカにしているのがふつうなのである。

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 教室窓際の電動工具が並んでいるあたりでは、はやくもタツジンが自分の輪ゴム鉄砲で射撃訓練を開始していた。いかにも孤高の達人らしく、新人勧誘などにはまったく興味がないようだ。
 タツジンはいつものように、戦国武将をモデルにしたフィギュアを的に、射撃訓練にはげんでいた。以前は消しゴムなどを適当に並べて的に使っていたのだが、ガシャポンで戦国武将のシリーズを見つけて以来、それを集めて使用している。輪ゴム鉄砲の的としては、大きすぎず、小さすぎず、フィギュアの頭部のあたりにうまく的中させないとたおれないので、訓練にはもってこいなのだ。なにより、いかにも「いくさ」をしている雰囲気が味わえるのがよかった。
 机を三つ、横一列に並べ、そこに適当な間かくでフィギュアを配置する。近すぎると外れ弾が隣に当ったりするので練習にならない。技をみがく修行は、あくまで自分に厳しくあらねばならない。
 並べた机の下から背後の壁にかけては、広くブルーシートがかけてあって、撃った輪ゴムの後始末にそなえてある。このあたりは同じ教室で活動しているスーパークラス委員、神原シオネの強い指示による。「後片づけまでちゃんと自分たちでやってよね」というわけである。
 タツジンが今、手にしているのは、前にコーサクと一緒に作った、割りばしを材料にしたものだ。かなり工夫し、改良に改良を重ねた一丁で、割りばしを材料にしている中では最高と思われる性能をほこっていた。3メートルほどの距離では、タツジンならまず間違いなく百発百中。コーサクでも八割方、当るレベルまで達していた。小気味よく戦国フィギュアを撃ち抜いていくタツジンを見て、バンブーは思わず「すげーな」とつぶやいた。
 男子なら誰でも射撃術には興味がある。それがたとえオモチャの輪ゴム鉄砲でも、目の前で見事な腕前を見せられれば、自分でもやりたくてうずうずしてしまう。男の子には生まれつき、そういう狩猟本能がそなわっているのだ。
 タツジンがふと手を止めて、バンブーの方をふりかえった。
「やってみる?」
 割りばし鉄砲を差し出した。コーサクはちょっと意外な感じがした。タツジンが自分の方から他人に話しかけるのは珍しいのだ。よほどバンブーの様子が興味津々に見えたらしい。
「おお、やりたいやりたい!」
 まよわず鉄砲を受け取り、輪ゴムをひっかけて構えてみる。鉄砲を持つ右手を前に突き出した、半身の構えだ。ためしに引き金を引いてみる。
 ビシュン、と空気を切る音がするが、輪ゴムは的のはるか下、机の足の間を飛んで行ってしまう。二発、三発とくりかえしてみるが、どうしても弾は下へ下へと流れていく。
「バンブー、片手撃ちは難しいから、左手を鉄砲にそえてみなよ」
 コーサクが身ぶりをまじえてアドバイスする。
 輪ゴム鉄砲の射撃術で最初に問題になるのが、引き金を引く瞬間だ。何も考えずに引き金を引くと、その動作で銃口が下がってしまうので、弾は的の下へ飛んで行く。だからできるだけ銃身をしっかり固定して、そっと引き金を引かなければならない。どうしても右手が力みがちになるのだが、むしろ銃身を固定する左手をしっかりさせ、右手の指先は力を抜かなければならない。このあたりは、カメラで「手ブレ」をふせぐための心がまえとよく似ている。
 コーサクのアドバイスにしたがってみると、なるほど輪ゴムが机の下をくぐるようなことはなくなり、何発かに一回は的に当たるようになってきた。
「輪ゴムを鉄砲に引っかけるところから気をつけた方がいいよ。左右どちらかだけ引っぱると、飛ぶ方向が狂ってくるから、なるべくまっすぐ引っぱって」
 これも、やってみるとすぐ効果があらわれる。
 コーサクのアドバイスは続く。
「輪ゴム鉄砲はそれぞれクセがあるんだ。ねらったところからどんなふうにずれるかよく観察してみるといいよ」
 あるていど上達すると、今度は割りばしと輪ゴムいう材料自体の問題点が分かってくる。威力を増すには、まず弾になる輪ゴムを限界近くまで伸ばさなければならない。すると、銃本体にかなり強い力がかかることになる。その輪ゴムの力に対して、材料の割りばしは弱すぎるのだ。輪ゴムを引っかけた時点で、銃身がゆがんでしまっているので、なかなかねらった所に飛ばなくなる。
 それに、もともと輪ゴム鉄砲はまっすぐ飛ぶわけではなく、的との距離が離れるほど、やや落ちて下の位置に飛ぶものなのだ。
 対策としては、ねらった所と実際に飛ぶ位置のずれをあらかじめ計算に入れることが大切になる。たとえば「的から右に2センチ、上に1センチ」という風に、最初からねらいをずらすことによって、実際の命中率を上げることができるのだ。
 ふたたびコーサクのアドバイスに従って試射してみると、だんだん的に命中するようになってきた。
「なるほどなあ……」
 バンブーは感心した。外れる理由を筋道立てて説明してもらうと、短期間にみるみる効果が上がり、がぜん面白くなってきた。
 輪ゴム鉄砲ぐらいは、自分でも今までに何度か作ったことがあった。それなりに楽しかったが、何発か撃ってみたら、すぐにあきてしまった。まさか練習次第でこんなに上達するとは、思ってもみなかった。なにより、上達のためのコツを言葉で説明して人にわからせてしまうコーサクに感心していた。
「コーサク、そろそろ新兵器を見せてくれよ」
 バンブーが十分にハマるのを見てとってから、タツジンが声をかけた。
(つづく)
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2014年04月24日

マンガ部と達人クラブ1


 コーサクとバンブーは連れ立って図工室へと向かった。
 二子浦小学校のクラブ活動は、金曜日午後の最終授業だ。5、6年が対象で、新学年が始まったばかりの今の時期は、昨年度から持ち上がった新6年生しかいない。学年の変わり目でクラブをかわることもできるが、半数以上はそのままの所属で落ち着く。新5年生はこれから見学したり体験参加したりしながら、5月のゴールデンウイーク明けまでにクラブを決めることになる。
 コーサクの入っている「達人クラブ」というのは、実は美術部のことだ。
 どこの小学校でも、または中学高校でも、だいたいにおいて美術部などというものは、人気がないクラブの代名詞だ。わずか一人二人というところも少なくないし、もっとひどい場合には部員0で、消滅してしまっている場合も多い。
 ただ、ごくまれに、盛り上がっている例もある。マンガ好きの女子生徒が集まって、美術部の名を借りた「マンガ・イラスト部」になっている場合だ。
 浦小美術部も、まさにそのケースにあてはまっていた。
 コーサク達の学年より一つ上の卒業生の中に、プロのようなイラストを描く女子先輩が一人おり、彼女の人気でそれなりの人数の女子が集まったのだ。
 現在、新6年生の所属人数は5人。マンガ・イラストの活動を行っている女子が3人で、残る二人がコーサクとタツジンの「達人クラブ」二人組というわけだ。
 そして、去年まで女子ばっかりだった美術部に、場違いなコーサクとタツジンの二人組が入部する要因になったのが、図工担当の三又アツシ先生だった。
 授業を受けているとなんとなくわかってくるが、同じ図工の先生でも、実は一人一人専門がちがう。授業では絵画や立体造形、デザインなど、一通り何でも教えるが、先生本人が本当に得意なのはせいぜい一つか二つの分野だ。三又先生の場合は、「お絵描き」よりも「工作」の方が得意だったようで、自然と授業でもその手の課題が多くなった。
 そこにハマッたのが自他共に認める工作マニアのコーサクで、三又先生が監督を務める美術部に、よくつるんでいたタツジンとともに入部したのだ。
 かくして浦小美術部には、女子中心の「マンガ部」と、男子二人だけの「達人クラブ」が並び立つことになった。
 もっとも、変わり者二人組がごそごそとアヤシゲなシロモノばかり作っている「達人クラブ」よりも、活発な女子が多数所属する「マンガ部」の方が、はるかにはなやかな活動をくりひろげていたことはいうまでもない。
 ……というような事情を、コーサクはバンブーを図工室に案内するまでの道すがら、簡単に説明した。

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 図工室は校舎一階のすみっこにある。コーサクとバンブーが到着すると、手前にある準備室から、ちょうど美術部担当の三又先生が出てきたところだった。
 三又先生は年齢三十歳前後だろうか、中肉中背でがっしりしている。
 いかにも頑丈そうな体つきで、第一印象ではまず「絵の先生」という風には見えない。身につけた絵の具汚れの目立つつなぎは、一応洗濯だけはしてあるようだが、「ボロ着」としか表現しようがない。ほほやあごのあたりには、チラホラ無精ひげも見えている。いつもきちんとした斎木先生を見慣れていると、いかにもワイルドな感じがするが、図工教師というのは体育教師とならんで汚れやすい商売なので、身なりがラフなのは仕方のないことなのだろう。
「お、来たな達人クラブ! 何か新ネタはあるか?」
 コーサクは手に持ったボール紙包みを、「これこれ」と指差して見せた。
「そうか、持ってきたか! ちょっと出てくるから、あとで見せてくれよ!」
 そういい残すと、三又先生はサンダルを引っかけながらその場を去っていった。その姿を目で追いながら、バンブーが言った。
「あのおっさん、先生か?」
 小学生にとって、二十歳以上は、押しも押されもせぬ立派なおっさんである。
 あんまり先生には見えないだろうけどその通り、とコーサクは答えた。
(つづく)
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2014年04月23日

出遅れた新学期5


 休み時間が始まった。
(やれやれ、ろくでもない目にあった……)
 コーサクは一人ため息をついた。
 いきなりの遅刻、勝手に算数係にされ、雲の観察ではバカあつかい。
 色々あったけど、ようやくお待ちかねのクラブ活動だ。
 しかし気持ちよく部活に向かうために、どうしてもい一言いっておかねばならないことがある。
 コーサクは殿山マサルの席へと、まっすぐむかった。
「トノサマ、かんべんしてよ」
「かんべんって、なんのこと?」
「ぼくらって友だちだよな? 友だちを授業中にやっつけることはないじゃん」
 トノサマは、心の底から不審そうに、こう言った。
「キミは友だちだけど、それと観察記録の正確さは、なんの関係もないよ」
(ああ、ダメだこりゃ……)
 わざわざ声をかけてみたものの、学校一の秀才と自分とでは、しょせん住んでいる世界がちがうことを確認しただけに終わった。
 タツジンはさっさとクラブの教室に行ってしまったらしい。
 待ってくれてもよさそうなものだが、タツジンはそういうキャラだからしかたがない。
 自分の友だちは、なんだかクールなヤツばっかだなと思った。
 どいつもこいつも、よく言えばマイペース、悪く言えば協調性がない。
 しかし考えてみれば、コーサク自身が少なからずそういう性格をしているのだから、他人に文句は言えない。
 そんなことを考えていると、バンブーが「ぬ〜」という感じで近づいてきた。
「なあコーサク、次のクラブ活動なんだけど、おまえがさっき言ってた『達人クラブ』とかいうのについて行っていいか?」
 そういえば転校生のバンブーにとっては、はじめてのクラブの時間だったなと、コーサクは気付いた。
「もちろん! じゃあ図工室までいっしょに行こうか」
「図工室?」
「うん、『達人クラブ』っていうのは、美術部の中で、工作メインでやってるグループのことなんだ」
「へ〜」
「まあ、グループっていっても、ぼくとタツジンの二人だけなんだけどね」
 コーサクは少し照れながら、そう言って笑った。

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(第二章おわり 第三章につづく)
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2014年04月22日

出遅れた新学期4


 なんとかクラス全員が教室に戻ると、観察結果の発表が始まった。全員が発表する時間はないので、斎木先生の指名した何人かが、前に出てスケッチを見せながら観察内容を発表することになった。続けて二人の発表があったが、雲の形がちがうだけで、西から東へゆっくり流れていったという観察結果にはとくにかわりはなかった。
 コーサクが自分のプリントに目を落としながら、「へ〜、一つだけちがう動きをしていた雲には、みんな気づかなかったんだな」と思っていると、突然、斎木先生から声がかかった。
「じゃあ、次は鈴木くん。発表をどうぞ」
 まるで内心のつぶやきを読み取るようなタイミングだったので、コーサクはあわてて立ち上がった。
「は、はい!」
 突然の動きだったので、すわっていたイスが後ろにひっくりかえり、盛大な音を立てた。教室中がドッと笑いにゆれる。
(うわ、最悪!)
 冷や汗をかきながら黒板の前まであたふたと進む。
 コーサクは、一つだけ他とは違った動きをする雲があったことを、手元のプリントのスケッチを見せながら簡単に説明した。変わり映えのしない発表が続いていたので、少し毛色の変わった内容に、生徒たちも多少興味をひかれた。
「ほとんどの雲は同じように動くけど、中には変わった動きをするのもあるとわかりました」
 自分なりの結論をまとめると、クラスのみんなが感心しているのが伝わってきて、少しいい気分を味わうことができた。
(これでイスをひっくり返した失敗をばん回できたかな)
そう思っていたのだが、コーサクの幸せは長くは続かなかった。
「先生!」
 学校一の秀才・殿山マサル(通称トノサマ)が手を挙げて発言を求めた。
「はい、殿山くん。何か意見があるかな?」
 トノサマが立ちあがって意見を述べる。
「雲の動きは大気の流れで決まるので、鈴木くんが発表したみたいに一つだけちがう動きをするのはおかしいと思います」
(な、なにを言い出すんだトノサマ!)
 突然のつっこみに、コーサクはおどろいた。

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「まわりの雲が全部同じ方向に動いているのに、そこだけちがう方向の風が吹いていたとは考えられないです。もし本当にあったのなら、その理由が知りたいです」
 トノサマは、まゆ毛のあたりまでの前髪を指でサッと払いのけた。いかにも育ちのよさそうな顔立ちが、浮世ばなれした秀才にはお似合いだ。
「でも、でも、本当に見たんです!」
 必死で反論しようとするが、学校一の秀才と対決しても、世論は当たり前のように秀才の方にかたむいてしまう。さっきまでコーサクの意見に感心していた生徒たちが、手のひらを返してクスクス笑い始めている。笑っていないのは質問に立ったトノサマ本人と、真面目な神原シオネと、一番後ろの席で腕組みをしているバンブーと、窓際の席で外をながめているタツジンくらいのものだ。
「鈴木くんはウソの発表をするようなタイプではないと思います。その点は信用しているんですけど、ありえないことを目撃したというなら、何か見まちがえたんじゃないかと思います」
 とどめを刺すようなトノサマの結論。
「コーサクはまだ熱でもあるんじゃねーの!」
「幻覚でも見たのか?」
 ヤジが飛び、教室は爆笑の渦。何も言えないコーサクは立ち尽くすばかり。なんだか自分でも自分のことが信じられなくなってきて、ふと「僕が見たのはマボロシだったのか?」という気すらしてきた。
「はい、静かに静かに」
 斎木先生が事態の収拾にかかった。
「殿山くんの意見はもっともだ。でも、鈴木くんの実際の観察結果というのも、大事にしないといけないと先生は思います。見まちがいかどうかは簡単に決めつけずに、他の可能性がないかどうか、よく考えてみた方がいい」
 トノサマは少し首をかしげながらも、一応納得した様子で着席した。
「今日はもう時間がないから、この件は保留にしておきましょう。次の時間はクラブ活動だから、それぞれの教室にに移動すること。以上です」
先生がしゃべり終わるのと同時に、終業のチャイムが鳴りはじめた。
 チャイムに救われるコーサク。そう言えばこの先生はいつも、チャイムぴったりに授業を終わらせるよな、と変な所に感心しながら、ほっと一息ついた。
(つづく)
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2014年04月21日

出遅れた新学期3


 一時間目の休み時間、コーサクはさっそく「新兵器」の輪ゴム鉄砲をタツジンに見せに行った。
 新しい得物を手にしたタツジンはすこぶるごきげんで、六時間目のクラブ活動の時間にさっそくためしてみようと約束した。
 二時間目以降は担任の斎木マモル先生も教室にもどった。コーサクは5年生のころから受け持ってもらっている先生である。
 まだ若く、おそらく三十歳には届いていないだろう。背がヒョロっと高く、細いふちのメガネをかけている。小学校の男の先生は、ふだんの授業をわりとラフな服装で行う人が多いが、斎木先生はいつもきちんとスーツ着用である。
 もの静かで、声を荒げて怒るということもない。授業はわかりやすいのだが、ギャグで笑わせるということが一切ないので、生徒の受けはいま一つだ。
「真面目でいい先生だけど、地味」
 それがおおかたの生徒の斎木先生評だった。
 さすがに先生がかえってきてからはだらけた雰囲気にはならず、午前の授業は過ぎて行った。
 お昼の給食をはさんで、午後の理科の時間は「雲の観察」だった。授業の前半、校庭に出て空の雲を観察し、後半で結果をそれぞれ発表する。
 よく晴れて、雲もてきとうに浮かんでおり、観察にはもってこいの天候だった。6年1組の生徒たちは三々五々、校庭に散らばってのどかな午後の授業を楽しんでいる。二子浦小学校は海辺の高台にあるので、南側は海への眺望が開けており、空は広くよく見える立地だ。
 コーサクは一人、雲の観察を始めていた。すべり台にねころんで空をながめると、視界が空の青と雲の白でいっぱいになる。雲は風に流れて、少しずつ形を変えながら移動している。風の方向は西から東、雲もだいたいはその方向に動いている。ずっと見ていると、自分が動いている気がしてくる。ぼーっと空をながめているのもそれなりに気分の良いものだったが、手持ちのプリントに気に入った雲のスケッチと観察記録をつけなければならない。さてどの雲にしようかなと物色しているうちに、ちょっと変わった雲を見つけた。
 その小さめの雲は、他の雲と動きが違っていた。ゆっくり西から東へ流れる他の雲とは無関係に、少し速いスピードで南から北へ動いていた。雲は風に乗って動くものなので、ふつうは一つだけ違う方向に流れたりはしないものだ。
(へ〜、こんなこともあるんだ)
 ちょうど良いと思ったコーサクは、その雲のことをプリントに記入した。

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 斎木先生の吹くホイッスルが校庭にひびいた。雲の観察時間終了の合図だ。一人で観察していたコーサクも、プリントを二つ折りにして立ち上がった。
 ホイッスルの音は十分聞こえたはずなのだが、生徒の動きはにぶい。クラス委員の神原シオネがここでも活躍して、まだその場から動き始める気配のない生徒たちに声をかけてまわっている。
 コーサクはその姿を眺めながら、いつかTVで見た牧羊犬のことを思い出したりしていた。
(つづく)
posted by 九郎 at 22:32| 図工室の鉄砲合戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年04月20日

出遅れた新学期2


 そいつの顔を見た時、コーサクは心の中で「あっ!」と思った。瞬間的に「こいつとは友達になる」とわかったのだ。
 それはこれまでに何度か経験した感覚だった。友達になれる相手は、初対面で顔を見た瞬間に、わけもなくわかってしまうことがある。初めて会ったのに、どこかで会ったことがあるような気がする。そう度々あることではないが、今までに何人か、同じような感覚で「あらかじめわかった」友達がいた。
 今度の相手は、これまでに見たことのないような超大型少年で、しかも外見的にはとっつきやすい方ではない。見た目に圧倒されて、反発するか敬遠されることの方が多いことだろう。条件で言えばマイナスばかりだったにもかかわらず、コーサクは超大型少年に対して、理屈ぬきに好感を持ってしまった。
(こいつ、ぜったいいいヤツだ。まちがいない!)
 われ知らずほほ笑みながら、コーサクは隣の席に着いたのだった。
 当の超大型少年の方にとっても、コーサクの反応は予想外だったらしい。
かつてこんな風に、初対面でニコッと笑いながら自分に接近してきた相手はいない。たいていは自分の体格に、なんらかの驚きの反応を示すはずなのだ。
 少々とまどいながら、この小柄でメガネをかけた少年が隣の席にすわるのを見ていた。ただ、その内心のとまどいは、表情にはまったくあらわれず、ブスッとしたままだった。 

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「バンブーでいいぜ」
 超大型少年がぼそりと言った。
「バンブー?」
 コーサクはつられたようにきいた。どう接したらよいか対応に困っていたところだったので、この際相手のほうから話しかけてくれるのはありがたい。
「おれのあだ名だ。前の学校でそう呼ばれてた」
「へ〜」
 本名はたしか「佐竹アキノブ」だったっけ。なんでそれが「バンブー」に?
 コーサクの内心の疑問に答えるように、「バンブー」は解説してくれた。
「佐竹の『竹』は、英語で『バンブー』なんだってよ。前の学校で英語が得意だったやつがそう言ってた。名前もアキノブで、最後に『ブ』がつくからな。だからバンブーだ」
「あ、そうなんだ」
「あと、おれ太ってるからな。ブーでいいんだ」
「……」
 ちょっと返事に困るコーサク。
「おまえはなんていうんだ?」
「ぼく? ぼくはまあ、コーサクって呼ばれてるけど」
「コーサク? なんで? だっておまえ鈴木ヒサトだろ?」
「うん、でも工作ばっかりやってるからコーサクなんだってさ」 
 バンブーはちょっと笑った。
「なんじゃそりゃ。そのままじゃん!」
「うん、そのまま」
 コーサクもつられてちょっと笑った。
 しばらく会話がとぎれた。
 先生不在の教室はだんだん空気がゆるんできて、子供たちは立ち歩いたりし始めている。算数係としては注意をうながしてプリントをさせなければならない場面なのだが、あいにく当の算数係の二人に全くその意欲がない。自習を仕切る仕事はほったらかしにしながら、プリントの問題を解くともなく解いていると、またバンブーがぼそりと言った。
「コーサクって、頭良いのか?」
「え? べつに勉強はふつうだけど、なんで?」
「いや、なんか、かしこそうだから」
「ああ、これかけてるから?」
 コーサクはちょっとずれたメガネを指先でなおしながら答えた。
「勉強で目が悪くなったんじゃないんだ。生まれつき弱視でね」
「……そうなのか?」
「でも今はもう、メガネはずしてもほとんどふつうに見えるんだよ。昔は視力の訓練もしてたんだけどね」
「……」
「工作で細かい作業の時は、まだかけてた方が楽だしね。あと、いったん『メガネかけてるヤツ』で通っちゃうと、はずすのがなんか色々めんどくさくて」
「ふーん……」
 また、しばらく会話がとだえた。
 話題を変えようと、コーサクは殿山マサルを指さして言った。
「一番勉強できるのは、ほら、あいつ」
 指された当人はかなりざわついてきた教室の空気とは無関係に、いかにも優等生らしく勉強中だ。配られたプリントはもう終わってしまったらしく、問題集を取りだして、独自の勉強を始めている。
「殿山マサルだから、みんなにはトノサマって呼ばれてる。あと、さっきのクラス委員の神原も、かなり勉強できるよ」
「ああ、あの女な」
 バンブーはさして興味もなさそうに答え、それから教室のうしろの方にたむろしている一団を指さして言った。
「あいつらは、どんなやつらなんだ?」
 指差した先には、ガッチリ、ノッポ、はしっこそうなチビの三人組を中心に、7〜8人のグループが、がやがやと談笑している。中心にいる三人組とバンブーの間には、その日の朝、少々バトルがあったのだが、もちろんコーサクはそのことを知らない。
「ああ、あの三人組ね。真ん中にいるちょっといかついのが織田ヒロト。ヒロトは漢字で大翔と書くから、みんなには『タイショー』って呼ばれてる」
 コーサクが自分のプリントのはしっこに「大翔」と書きながら説明した。
「名字が『織田』だし、キャラが大将っぽいしね」
「大将ねえ……」
 バンブーはフッと鼻で笑いながら言った。
「で、あいつって、強いのか?」
 コーサクは少し考えてから答えた。
「4年生ぐらいまでは、いじめっ子タイプだったけど、今はそんなに乱暴でもないかな。まあスポーツが得意だから、クラスで遊ぶときはリーダーだね」
 今も昔もクラスの中で「イケてる」男子は、スポーツマンタイプなのだ。
「あと二人、背の高いのが米田ノボルで『ノボ』、小さいのが相田キョウイチで『キョウ』。ああ、キョウは今でもちょっとけんかっ早いな」
「ま、大したことないだろ」
 コーサクは、しばらく前からキョウがちらちらとこちらを見ていることに気がついた。それはひじょうに「ジトッ」とした目つきだった。
「もしかしてあいつらと何かあった?」
「いや、べつに」
 それ以上「三人組」については会話を続けず、バンブーは話題を変えた。
「コーサクはどこのグループなんだ?」
「ぼくはグループとかめんどくさいから。あの窓ぎわにいるタツジン(土橋タツジ)とはよく遊ぶよ。あと、トノサマともよくしゃべる。でもまあ、一番はタツジンかな。二人ともクラブ活動は『達人クラブ』だしね。」
「タツジンクラブ? なんだそりゃ?」
「達人クラブっていうのはねえ、え〜と、ちょっと待って」
 コーサクは席を立ってロッカーまで走り、ランドセルからボール紙を二つ折りにしたものをぬきとってきた。
「クラブ活動なんだけど、今、作ってるのがコレなんだ」
 折ったボール紙を開くと、そこには今朝まで作り続けていた新作輪ゴム鉄砲が入っていた。
「うわ! 何それ! かっけー!」
 そこまでしゃべった時、神原シオネがつかつかと二人の方に向かってきた。
「ちょっと! のんきにしゃべってないで、みんなにプリントやらせなさいよ! もう一時間目終わっちゃうじゃないの!」
 しかしすでに手遅れで、終了チャイムが鳴り始めてしまった。きわめて不熱心な算数係のおかげで、クラスの大半が完成していないプリントを提出しなければならなくなってしまった。
(つづく)
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2014年04月19日

出遅れた新学期1

第二章「出遅れた新学期」

 ラストスパートで階段をかけ上ると、始業チャイムの余いんが残っているうちに、6年1組の教室にかけ込むことができた。一時間目の授業にはすべりこみセーフだが、朝のホームルームには間に合わなかった。
 あ〜あ、やっと学校へ来れたと思ったら、いきなり遅刻か……
 コーサクはおそるおそる教室を見まわした。
 始業式からの最初の三日間を病欠していた彼にとって、初めての教室だ。もしかしてまちがった部屋に入っていないかと緊張したが、窓ぎわの席にタツジンの姿をみとめて一安心。
 タツジンがこちらに気付いて「よ!」と片手をあげている。コーサクも背中のランドセルを指さしてみせる。ここに「新兵器」の輪ゴム鉄砲が入っているというゼスチャーなのだが、もちろんタツジンにはすぐに通じたようだ。
 あらためて教室を見回してみるが、担任の先生の姿がない。生徒たちは思い思いのグループに分かれて、まだガヤガヤと私語を交わしている。
「鈴木くん、おひさしぶり! もう風邪は治ったの?」
 すらりと背の高い少女が声をかけてきた。長い髪を後ろでまとめ、いかにも活動的な様子だ。「鈴木くん」というのは、コーサクの本名のことである。
「鈴木くんの席はこっち。さ、急いで急いで! ほらランドセルはロッカーへ!」
 いきなり仕切り始める。
(ああ、クラス委員はやっぱり神原になったのか……)

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 すらりとした少女の名前は神原シオネ。成績優秀、スポーツ万能、おまけに容姿端麗ときている。ちなみに「容姿端麗」は「ヨウシタンレイ」と読み、「ルックスが良い」という意味の、むずかしくてカッコいい表現である。
 ことわざに「天は二物を与えず」というのがあるが、ときとして神様は、一人の人間に平気で二つも三つも才能を与えるという不公平をする。神原シオネなどは、その良い見本だ。
 6年生にもなると、クラス委員に選ばれる顔ぶれはけっこう決まってくる。浦小6年生の場合、だいたい女子では神原シオネが選ばれ、男子では学校一の秀才・殿山マサルが選ばれることが多い。ただ、殿山マサルの場合、あまり社交的とは言えないマイペース型なのが玉に傷。低学年のころは単純に一番勉強のできる殿山マサルがクラス委員に選ばれていたが、学年が上がるとともに、面倒見の良い神原シオネの出番の方が増えてきた。
「一時間目の算数は、先生が用事で自習になったの。はい、これプリントね。三枚あるから、ほらほら、今確認しといてよ!」
 ぽん、ぽん、ぽん、とたたみかけ、コーサクにしゃべるすきを与えない。バスケのドリブルのようなリズムで、神原シオネの仕切りは続く。こういうところが、ヨウシタンレイであるにもかかわらず、いまいち男子からは評判のよろしくない原因である。そのかわり女子の間では、男子を仕切りたおす痛快な姿が大人気で、バレンタインデーにはチョコが段ボール一杯分届いたりする。
「それでね、鈴木くんは算数係に決まったから、一時間目は前の席に座って、みんなにプリントをさせて、授業の終わりに全員分あつめといてね!」
(さんすうがかりぃ? なんじゃそりゃ!)
 コーサクは内心で悲鳴を上げた。始業式の日に休むと、変なクラス役員に勝手に決められたりしがちである。これで一学期の間、なんの興味も無い「算数係」を務めなければならなくなってしまった。
 続いて神原シオネはコーサクを黒板前まで連行し、そこにいたもう一人の算数係を紹介した。
「こちらは佐竹アキノブくん。転校生よ。こちらは鈴木ヒサトくん。仲良くね!」
 黒板の前にすわるそいつを前に、コーサクはおもわず息をのんだ。
 そいつはどうみても小学生には見えなかった。小学校の教室風景の中、まわりの子どもたちにくらべて、ひときわ目立つ体格。すわっていてさえ、その圧倒的なボリュームが伝わってきた。教室内で見なければ、とても小学生には見えなかっただろう。中学生、場合によってはそれ以上に見えたかもしれない。どこもかしこもまるまるとふくらんでいるのだが、目つきがけっこうするどくて、いかにも「あなどれない」という感じがする。
「じゃあ、あと、よろしくね!」
 それだけ言い残して神原シオネは軽やかに去った。コーサクはなんともコメントできないままに、超大型少年の隣の席に着いた。いかにも当惑気味の態度だったが、内心では少々事情がちがっていた。
(つづく)
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2014年04月18日

それぞれの朝3


「コーサク、何してんの? 早くしないと遅刻よ!」
 母親の声が階下からひびいてくる。
「はいはい、わかってるよ。もう行くってば!」
 鈴木ヒサトはめんどくさそうに返事する。
 ヒサトという名前なのに、母親に「コーサク」と呼ばれているこの少年、実は病み上がりである。
 6年生になったばかりの新学期、始業式からの連続三日間を、風邪で寝込んで休んでしまったのだ。
 三十八度超えの高熱こそ初日で下がったが、そこからが意外に長引いた。おとなしく寝ていれば良いものを、この少年は少し熱が下がるとすぐに「工作」を始めてしまうのだ。
 風邪がようやく一段落したこの朝も、なにやらゴソゴソと作り続けている。
 年のわりには小柄である。
 メガネをかけており、顔だけ見るとけっこうかしこそうにも見えるが、とくに勉強が得意というわけではない。
 少年、鈴木ヒサトは、工作が大好きだった。
 あまり工作ばかりしていたから、ついたニックネームがそのものずばりの「コーサク」だったのだ。
 ややバカにしたニュアンスのあるニックネームだったが、少年本人はそれなりに気に入っていた。
 少なくとも、以前に呼ばれていた「メガネくん」などというあだ名よりははるかにマシだと思っていた。見た目からつけられるより、好きでやっていることにちなんで呼ばれた方が、まだ納得できるというものだ。
 近頃は両親にまで「コーサク」と呼ばれるようになっていた。
 ふつう親というものは息子の名を子供同士のあだ名で呼んだりはしない。本名か、家庭内での愛称で呼ぶものだ。
 そんな両親にまで「コーサク」呼ばわりされるほどに、ヒサトの工作好きは徹底していた。勉強そっちのけで工作ばっかりやっているわが子に、さすがの親もあきれ返ってしまったのである。

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 当のコーサクが今現在ハマっているのは輪ゴム鉄砲作りだった。
 もう二カ月以上作り続けている。5年生の図工の授業で割りばし鉄砲を作ったのがきっかけで、クラスの男子を中心に輪ゴム鉄砲ブームが起こったのだ。
 割りばしを材料にした輪ゴム鉄砲は、材料費が安く、ちょっとした工夫がやりやすい。銃身をのばしたり、連発式にしたりすると、けっこうオリジナルの鉄砲になる。授業が終わった後も、男子はみんな熱中して遊び続けた。
 それでも二週間ほどたつと、さすがに誰でもすぐに思いつくような工夫は尽きた。
 小学生にはほかに楽しい遊びがいくらでもある。学年末で学校行事が続いたこともあって、輪ゴム鉄砲ブームはごく短期間で過ぎ去ったのだった。
 ところが、誰も見向きもしなくなった輪ゴム鉄砲を、学年が終わって春休みに入ってからも、ずっと作り続けている変わり者二人組がいた。
 コーサク(鈴木ヒサト)とタツジン(土橋タツジ)である。
 タツジンはもっぱら射撃技術修行にのめり込み、コーサクは輪ゴム鉄砲自体の開発、改良にのめり込んだ。
 この二人組はこれまでにも様々な遊びにのめり込んできた前歴がある。タツジンは技術修行、コーサクは遊び道具の制作にハマってきたのだ。
 周囲の流行とはほとんど無関係に、独自の盛り上がりを繰り返すタツジンとコーサク。
 ほかの友人達からはちょっと変人あつかいされながらも、二人は息の合ったコンビとしてけっこう知られているのだった。
 コーサクが今、遅刻を気にしながら制作しているのは、輪ゴム鉄砲の最新作である。
 材料はもはや割りばしのレベルではない。数種類の角材を組み合わせ、ボンドや木ねじで固定した、本格的な造りのものになっている。
 グリップの部分をにぎって確かめながら、切り出しナイフで形を整え、サンドペーパーで仕上げている。ナイフをあやつる手付きには危なげがなく、カッターナイフで鉛筆を削ることすらまれな最近の小学生としてはめずらしい。
「コーサク! いいかげんにしなさい!」
 母親の声がとがってくると、ようやくコーサクはナイフを机に置いた。
 しょーがないな、とつぶやきながら、サッと輪ゴム鉄砲をかまえ、一回だけバンッ!と撃つマネをした。
「ま、こんなもんか」
 コーサクはその新作をていねいにボール紙ではさみ、ランドセルにさしこんだ。階段をかけおり、母親の横をすりぬけ、「行ってきま〜す!」と玄関を飛び出した。その勢いのまま学校へと急ぐ。
 コーサクの胸には、実はちょっとだけ不安もあったりする。
 6年生になったばかりの新学期、新しいクラスの新しい教室に、自分だけ三日おくれで入らなければならないことに……
 我が道を行くタイプのコーサクも、まわりと自分の関係に思いがおよぶお年頃に、ぼちぼちさしかかっていたのだ。
 幸い、「変わり者コンビ」の片割れ、タツジンも同じクラスだと聞いている。今日はさっそく新開発の輪ゴム鉄砲を披露してやろう。不安もあるが、とにかくそれを楽しみに通学路を急ぐ。
 時間を気にしながら住宅街をかけぬけると、ぷんと潮の香りがただよってくる。コーサクが住んでいるのは小さな漁港に近い一画で、小学校は海辺の高台にある。学校へと続くゆるい坂からは、ひなびた港町の風景が一望できる。
 息を切らせながら坂をのぼると、ようやく学校が見えてきた。コーサクの通う二子浦小学校、略して「浦小」の校舎だ。
 しかし大急ぎで校門をくぐった瞬間、無情にも始業のチャイムが鳴り始めてしまった……
(第一章終わり。第二章「出遅れた新学期」につづく)
posted by 九郎 at 21:55| 図工室の鉄砲合戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年04月17日

それぞれの朝2


 早朝の校庭、かたすみにある桜の木の下に、一人の少年がいる。
 小柄で細身、春先にしては薄着の服からのぞく浅黒い手足は、よくひきしまって見える。
 少年はぴたりと鉄砲をかまえている。
 もちろん本物ではない。割りばし製の輪ゴム鉄砲だ。
 なかなか凝った造りで、ライフルのような形になっている。
 まわりに子どもたちの姿はない。まだ朝早いし、校舎裏には元々人けがない。
 四月初めとはいえ、新学期も四日目になると、目の前の桜の老木は半ば以上葉桜で、薄ピンクの花はさほど残っていない。
 それでもたまに風に吹かれた花びらが、ひらひらと舞い落ちてくることがある。
 輪ゴム鉄砲をかまえたまま動かない少年の前を、一枚、二枚と、雪のような花びらが舞っている。

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 ビシュン!
 突然、するどい音が空気を切りさいた。
 少年が引き金を引いたのだ。
 もちろん輪ゴムは花びらに命中しない。
 もともと輪ゴム鉄砲というものは、命中精度がかなり低い。じっとしている的にだって、かなり練習しないとそうそう当たるものではないし、ましてや風に舞う桜の花びらのような、不規則に動いている小さな標的などは、ねらって当てることはほぼ不可能だろう。
 しかしどうやらこの少年は、その不可能を可能にしようとしているらしい。
 ビシュン!
 また輪ゴムの発射音が走った。もちろん今度も命中しない。
「う〜ん、やっぱり無理かなあ……」
 小声でつぶやいた。
「落ち方が風まかせだから、予測できない。雨だれみたいに真っすぐ落ちるのがわかってたら、けっこう当たるんだけど……」
 なかなかすごいことを言っている。
 だれに聞かせているわけでもない独り言なので、嘘やハッタリとも思われない。もし本当ならば、少年は小学生にして凄腕のスナイパーだということになる。
 ビシュン!
 また、輪ゴムの発射音が走った。やはり花びらには当たらない。
「チェッ!」
 軽く舌打ちすると、少年はあきらめたのか、かたわらに放り投げていた手さげ袋を引き寄せた。
 二つ折りにしたボール紙にさっきまで使っていた輪ゴム鉄砲をはさみこむと、ていねいに袋にしまいこんだ。
「コーサクのやつ、もう風邪なおったかなあ」
 そう言いながら、そろそろ子供たちの声が聞こえ始めた校舎に向かって、ぶらぶらと歩き始めたのだった。
 少年の名は土橋タツジ。
 仲間内では「タツジン」と呼ばれている。
 そのニックネームの由来は、ここまで読みすすめてきた皆さんには、なんとなく想像がついていることだろう……
(つづく)
posted by 九郎 at 23:18| 図工室の鉄砲合戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年04月16日

それぞれの朝1

「図工室の鉄砲合戦」
第一章 それぞれの朝

 そいつはどう見ても小学生には見えなかった。
 朝の通学風景の中、ひときわ目立つ体格。
 まわりの子どもたちにくらべて、身長では頭二つ分ほどとびぬけており、体重では倍ほどもありそうだ。
 背中にちょこんとくっついたランドセルだけが、かろうじて小学生っぽい。
 どこもかしこもまるまるとふくらんでいるが、目つきがけっこうするどい。
 ものごしにすきがなく、自分の周囲に半径3メートルほどのバリアーが張ってありそうな雰囲気だ。
 そのよく太った大柄な少年に、つかずはなれずついていく三人組がいる。
 まん中の一人は背が高くがっちりしている。
 先を行く超大型の少年ほどではないが、こちらも小学生ばなれした体格だ。いかにもスポーツマンタイプで肩幅がすばらしく広く、「ボス」のオーラをまとっている。
 脇を固める他の二人も、それぞれに一くせも二くせもありそうだ。
 一人は三人組の中では一番背が高い。身長だけなら前を行く超大型少年と同じくらいありそうだが、こちらはやせたノッポさんだ。細身の体だが、よわよわしい感じはない。走らせたら快速スプリンターだろうし、野球のピッチャーをやらせたら速球を投げそうな印象だ。
 最後の一人は背が低い。小柄だがバネの効いたフットワークで、いかにも動きが速そうだ。顔のあちこちには、これまでのケンカの勲章だろうか、薄く傷跡が残っている。
 三人組はまるで大型の獲物を追う肉食獣チームのようにも見えた。

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 ふいに、三人組のうちの一人、一番小柄な少年が前に進み出た。
「ブー」
 すぐ目の前にせまった超大型少年の背中に声をかける。
「ブー、ブー」
 薄笑いを浮かべながら反応をうかがうが、前を歩く超大型少年は聞こえているのかいないのか、ふりかえりもしない。
「よう、デブ。呼んでんだからこっちむけよ!」
 しびれを切らした小柄な少年が、今度ははっきり呼びかけた。口元の薄笑いは消え、口調がとがってくる。
「ブーつったらお前しかいないだろ、デブ!」
 ランドセルをくっつけた大きな背中がぴたりと止まり、ゆっくりふりかえった。
 向きあってみると、その体格はまさに圧倒的だった。多少は腕におぼえのあるらしい小柄な少年も、思わず立ち止まって相手を見上げる形になる。
 眼光をねじ込むように、超大型少年の顔がぬーっと近づいてきた。小柄な少年がそれに気を取られていると、いきなり左足の甲に激痛が走った。超大型少年の右足のかかとが、思い切りふみ下ろされたのだ。
「いてっ!」
 思わず叫んだ瞬間、今度は巨大な右手にほっぺたをはさみこまれていた。
 ギリギリと万力のようにしめあげられると、ほっぺたの内側が自分の奥歯とはさまって、ものすごく痛い。たまらずアゴをひらくとますます巨大な指先がくいこんでくる。口をふさがれた形になっているので、悲鳴を上げることもできず、その上、足を踏まれて固定されているので身動きも取れない。
「ブーブーブーブーうるせーな」
 相手の顔をひっつかんだまま、超大型少年は低い声で言った。
「おれがデブだからってナメてんじゃねーぞ。ぶちのめされたいか?」
 ものも言えないまま、必死で首を振る。
「おれのことはバンブーと呼べ。他の呼び方はゆるさん。わかったか?」
 小柄な少年は痛みに涙をにじませながら、必死でうなずいた。
 バンブーと名のった超大型少年は、そのまま右手を力いっぱい突き出して、ようやく指先を開いた。しりもちをつきながら、あわてて後ずさって、残り二人と合流する小柄な少年。
 ここまでの様子を何も言わずながめていたがっちりタイプの「ボス」と、超大型少年「バンブー」は、そのまましばしにらみ合う。ほんの数秒間のにらみ合いだったが、本人たちにはすごく長く感じられたことだろう。
 数瞬間の後、最初に沈黙をやぶったのは「ボス」だった。
「いくぞ」
 ボソッとつぶやくと、ほかの二人を引き連れてそのまま歩き去った。
 超大型少年は、そのまま動かない。
 しばらく様子をうかがって、三人組が十分はなれるのを待ってから、「フンッ!」と一息ついた。
 そしてあとは何事もなかったように、再び学校へと歩き始めたのだった。
(つづく)
posted by 九郎 at 22:58| 図工室の鉄砲合戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年04月15日

架空の港町、二子浦町

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(クリックすると絵図が拡大します)

 物語「図工室の鉄砲合戦」の舞台は、架空の港町「二子浦町」である。
 瀬戸内海の大阪湾よりに位置する小さな湾で、同じ大きさの扇を二つ並べた形をしていることが名前の由来であると伝えられている。
 少し離れた沖に「二子島」という、これもほぼ同じ大きさの小島が並んだ無人島があり、本当はこちらが「二子浦」の名の由来であるという説もあるが、定かではない。
 二子浦の東側には夢野川という一級河川が流れ込んでおり、川をはさんださらに東側は工業地帯だ。
 昔は瀬戸内海を望む景勝地として有名だったが、工業開発が進んだ現在は、二子浦の扇の一つにわずかな砂浜が残されているのみで、かつての面影は乏しい。
 海岸沿いを東西に私鉄が走っており、最寄り駅は「二子浦駅」である。
 駅から海岸へ向かうメインストリートは一応商店街になっているが、お世辞にも賑わっているとは言いがたい。
 それでも地元民が必要とする商店は一通りそろっているので、普通に生活する分にはとくに不便はない。
 どこにでもある、ひなびた港町だ。

 小さくて地味な港町だが、その歴史は中世以前までさかのぼる。
 瀬戸内海で勢力をふるった水軍の拠点の一つであり、戦国時代には夢野川の河口近くの三角州を中心に、本願寺系列の寺内町もあった。
 織田信長と本願寺の十年戦争「石山合戦」では本願寺側の重要な軍事拠点だった。
 その遺構は二子浦の二つの扇の中間部に位置する「二子浦来光寺」に今も残っている。 

 二子浦の西の扇は現在漁港になっている。
 漁港から少し上った小丘陵には二子浦小学校がある。
 新学年が始まったばかりの四月上旬、この小学校で小さな戦争が勃発する。
 その戦争の顛末こそが、物語「図工室の鉄砲合戦」である。

(念のために書いておくと、以上全てフィクションです)

 ……前置きはぼちぼちこのあたりで。
 いよいよ次回から、物語の開幕です。
 乞御期待!
posted by 九郎 at 23:27| 図工室の鉄砲合戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年04月14日

「図工室の鉄砲合戦」前口上

 この作品「図工室の鉄砲合戦」は、昨年8月「第二回角川つばさ文庫小説賞」へ応募した作品です。
 残念ながら最終選考4作品には残ることができず、二次選考通過17作品の内の一作に入るにとどまりました。
 今回は「決勝進出ならず」という結果に終わったのですが、けっこうメジャーな文庫の登竜門で二次選考まで進めたこと、作者本人としてもかなり気に入った作品であることから、何らかの形で日の目を見せてあげたいなと思っていました。
 ただ今回は二次選考通過ということで、作品名とペンネーム(烏帽子九郎)が公開されており、この状態で他の新人賞に再応募というのもちょっと難しいかなという気もします。
 作品は他人様に見てもらってはじめて完成。
 誰にも見られないままの状態で後生大事に抱えていても、価値がありません。
 こういう場合、一昔二昔前なら同人誌や自費出版しかありませんでしたが、けっこうなコストがかかるわりに、あまり広くは読んでもらいにくいという重大な欠点がありました。
 今ならいっそのこと、ネットで公開してしまうのが一番手っ取り早く読んでもらえるのではないかということで、特設ブログの開設を思い立ちました。
 この形なら、一応絵描きのハシクレでもある私が、自作イラストをたっぷり描いて添えることも可能です。
「図工室の鉄砲合戦」は、字だけでなく図解を大幅に添付してこそ真価を発揮するものだとも思っています。
 そしてこの物語の内容を、文字になっていない部分まで含めて一番知っている絵描きは、私をおいて他にありません。(←あたりまえ)

 今回の応募作「図工室の鉄砲合戦」は、一応対象読者として小学高学年〜中学生くらいを想定していますが、雑賀鉄砲衆や本願寺寺内町、石山合戦なども主要なテーマになっています。
 戦国時代に関心のある皆様なら、年齢に関係なく楽しんでいただけることと思いますので、是非ご一読を!
 当ブログ「放課後達人倶楽部」では、行く行くこの作品以外にも、手持ちの児童文学系の作品も公開していければいいなと思っています。
 当面は「図工室の鉄砲合戦」をイラストを添えながら新聞連載小説のように週五回くらいのペースで投稿し、約二ヶ月で完結させることを目指します。
 乞御期待!

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 次回投稿では、物語の舞台になった架空の港町「二子浦町」の絵図を掲載してみます。
posted by 九郎 at 22:55| Comment(0) | 図工室の鉄砲合戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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